前田悠伍(大阪桐蔭) 切れ味抜群のストレートや変化球もハイレベル 前田悠伍(大阪桐蔭) 切れ味抜群のストレートや変化球もハイレベル

今年のチームも頭ひとつ抜けているといわれる大阪桐蔭。その横綱相手にアップセットを起こしそうなチームはどこ!? 注目選手は!? 今大会のさまざまな見どころを紹介します。

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■絶対王者を破るのは仙台育英か報徳学園か!?

3月18日開幕の選抜高校野球大会(センバツ)。優勝候補最右翼に挙がるのは春連覇を目指す大阪桐蔭だ。

平成以降の高校野球界をリードしてきた横綱。昨春センバツを制したチームから残っている主力は、エース左腕の前田悠伍(まえだ・ゆうご)だけだが、それでも常勝軍団の実力は今年も突出している。

西谷浩一監督はお決まりのように「今年は力がないチーム」と自己分析するが、その言葉をうのみにしてはいけない。西谷監督の言う「力がない」は、あくまでも大阪桐蔭基準。

全国屈指の有望中学生が集まり、高い志を持って取り組んできたプロセスは変わらない。これまでも「力がない」と評したチームが甲子園で何度も優勝してきたのだ。

そしてエースの前田は大阪桐蔭史上最強と言っても過言ではない実戦派投手。常時140キロ前後と目を見張るような剛速球ではないものの、打者のバットをかいくぐる切れ味抜群のストレートに、スライダー、チェンジアップなどの変化球もハイレベル。

おまけに勝負どころで集中力を発揮するマウンド度胸まで併せ持ち、まさに難攻不落の投手なのだ。NPBスカウト陣はすでにドラフト1位候補として前田を徹底マークしている。

2番手の南 恒誠(みなみ・こうせい)も昨春のセンバツで登板経験があり、最速145キロを誇る長身右腕。他チームならエースを張れる実力派投手を複数擁し、前田の負担を減らしている。

課題は野手陣になりそうだが、大型遊撃手の小川大地、2年生ながら天才的な打撃センスを誇る徳丸快晴(とくまる・かいせい)ら将来性の高い好素材が並ぶ。スリランカ人の両親を持ち、パワフルな打撃で中学時代から脚光を浴びた2年生のラマル・ギービン・ラタナヤケの出番があるかも注目だ。

そんな大阪桐蔭は大会3日目の2回戦から登場し、敦賀気比(福井)と対戦する。今年の敦賀気比は突出した選手こそいないものの、甲子園常連校らしく鍛え上げられている。特に守備は昨秋の公式戦で1失策と堅いだけに、ロースコアに持ち込めば大阪桐蔭相手でも勝機はありそうだ。

大阪桐蔭が初戦を突破しても「包囲網」は続く。カギになりそうなのは準々決勝で、勝ち上がりが予想されるのは東海大菅生(東京)沖縄尚学あたり。

東海大菅生は身長190㎝、体重105㎏の巨漢右腕・日當直喜(ひなた・なおき)を擁するダークホース。最速149キロと球速もあるが、この投手のキモは角度のあるフォーク。初見では攻略が難しいボールに大阪桐蔭打線がどう対処するか。

沖縄尚学は昨秋の九州チャンピオンで、走攻守の総合力が高い。エース右腕の東恩納 蒼(ひがしおんな・あおい)は小柄ながら、ゲームメーク能力の高い実戦派。リードオフマンの知花慎之助(ちばな・しんのすけ)は昨秋の公式戦で打率.676、出塁率.766と驚異的な成績を叩き出している。

ほかに準々決勝での対戦候補として挙がるのは、クラーク記念国際(北海道)。このチームは大阪桐蔭と因縁がある。

昨秋の明治神宮大会で対戦した際、投手が投球動作に入っても声を出す大阪桐蔭ベンチに対して、佐々木啓司監督が「いつまで声を出してるんだ!」と激怒。試合は12-2で大阪桐蔭が6回コールドと圧勝し、後味の悪さが残った。クラーク記念国際も当時の屈辱を晴らそうと今春にかけているはずだ。

大阪桐蔭が準決勝まで勝ち上がったとしても、さらなる強敵が待ち受けている。昨夏に東北勢として初めて甲子園で優勝し、夏春連覇を狙う仙台育英(宮城)、昨秋の近畿大会決勝で大阪桐蔭と0-1の接戦を演じた報徳学園(兵庫)と優勝候補ひしめく激戦ブロックを勝ち上がった猛者が相手になるのだ。

特に仙台育英は昨夏の日本一を経験した髙橋煌稀(たかはし・こうき)を筆頭に、最速140キロを当たり前のようにクリアする投手王国が健在。「青春って密なので」の流行語で一躍有名になった若き名将・須江航監督は打倒・大阪桐蔭に並々ならぬ執念を燃やしており、昨秋の明治神宮大会準決勝で競り負けた雪辱を誓う。

須江監督は大阪桐蔭攻略のポイントとして、「左投手が相手右打者のインコースを突けるか」と語っていた。潜在能力の高さはチーム随一の仁田陽翔(にた・はると)、地味ながら安定感のある投球が光る田中優飛(たなか・ゆうと)といった左腕の出来がカギになる。

報徳学園は3番・捕手の堀 柊那(ほり・しゅうな)が大黒柱。運動能力が高く、強烈なスローイングと貫禄のあるキャッチングは高校生とは思えない。昨秋にドラフト1位指名を受けて大阪桐蔭からDeNAに進んだ松尾汐恩より上という声も聞こえてくる。複数の好投手を擁し、機動力を生かした戦いぶりは脅威だ。

大阪桐蔭が決勝戦に勝ち上がった場合、対決する相手を予想するのは難しいが、最有力なのは昨秋の明治神宮大会決勝でも対戦した広陵(広島)。ほかにもタレントをそろえる智弁和歌山山梨学院作新学院(栃木)、好投手を擁する専大松戸(千葉)も候補だ。

広陵は高校通算49本塁打の大型スラッガー・真鍋 慧(まなべ・けいた)を擁する。身長189㎝、体重90㎏の左打者で、角度のついたスイングから野球場の空へと雄大なアーチを架ける。「ボンズ」の愛称で親しまれ、スケール抜群のドラフト1位候補だ。

昨秋の明治神宮大会では、大阪桐蔭戦で本塁打を放つなど、2本塁打を記録している。春のセンバツは例年、仕上がりの早い投手有利な「投高打低」の傾向があるが、真鍋には早春の肌寒い空気を切り裂くような一打を期待したい。

智弁和歌山は2021年夏の甲子園王者で、強打線のDNAは脈々と受け継がれている。今年は中塚遥翔(なかつか・はると)、青山達史(あおやま・たつふみ)の左右の強打者を中軸に据える。ひと冬を越えて投手陣がひと皮むければ、勝ち上がってきても不思議ではない。

山梨学院は昨秋の関東大会王者で、昨年の甲子園を経験したメンバーが多数残るのは大きな強みだ。主砲の髙橋海翔(たかはし・ひろと)は高校通算44本塁打をマーク。俊足強肩のセンター・星野泰輝(ほしの・たいき)ら守備も堅い。エース右腕の林 謙吾が力強さを増してくれば、さらに強力なチームに成長するだろう。

作新学院は野手陣のレベルが高く、さらに2年生右腕の小川哲平は最速147キロを計測する大器。大舞台で大化けする可能性を秘める。

最速151キロのドラフト候補右腕・平野大地を擁する専大松戸も躍進ぶりが楽しみ。ほかにも春の甲子園に照準を合わせ、昨秋とは比べものにならないほど変貌を遂げたチームもあるはずだ。一発勝負のトーナメント戦ならではの「番狂わせ」が起きる可能性は十分にある。

■清原Jr.に強力打線。初戦屈指の好カード

続いて、大会3日目以降で必見の好カードを紹介していこう。まずは大会4日目の仙台育英対慶応(神奈川)

前述のとおり優勝候補の仙台育英に対して、慶応は文武両道で激戦区・神奈川を勝ち上がり、関東ベスト4に食い込んだ好チーム。NPB通算525本塁打を放った清原和博氏(元西武など)の次男・清原勝児(きよはら・かつじ)が在籍する。

昨秋時点での清原はチーム内で下位打順と注目度に見合う実力とは言い難かった。それでも、高校通算9本塁打とツボにはまった際の長打力は目を見張る。

父は短髪のイメージが強かった一方、愛息は「非丸刈り頭」を推進する慶応の野球部員らしくサラサラヘアをなびかせる。「どうしてもお父さんと比べられると思いますが、自分は自分らしくプレーしたい」と殊勝に語るナイスガイだ。

清原ら慶応の打線が仙台育英の強力投手陣をどのように攻略するか。見逃せない一戦になりそうだ。

大会6日目の報徳学園対健大高崎(群馬)も屈指の好カード。前述の戦力を誇る報徳学園でも、健大高崎が相手となれば一筋縄ではいかないだろう。

健大高崎といえば走塁を前面に押し出した「機動破壊」のキャッチフレーズで有名だが、そのチームカラーは大きく変貌を遂げている。

1番打者の半田真太郎から強打者がズラリと並び、どこからでも点が取れる強打線。新キャッチフレーズ「スペクタクルベースボール」を定着させようと牙を研いでいる。好球質のエース右腕・小玉湧斗(こだま・ゆうと)の出来次第では上位進出も期待できそうだ。

大会5日目の東海大菅生と城東(徳島)も要注目。城東はベンチ入り選手12人ながら、昨秋の徳島大会でベスト4に進出。21世紀枠でセンバツ初出場を果たしている。

スタッフ不足のため、中学時代に吹奏楽部だった女子マネジャーの永野悠菜がノッカーを務めた。永野は甲子園のシートノックでもノッカーを務める予定。女子マネジャーが甲子園でノックを打つのは初のことだ。試合前から注目しよう。

■未来のダル&大谷ロマン枠を追え!

さて、少し話変わって、日本中が熱狂に包まれているWBCの侍ジャパンではダルビッシュ有(米・パドレス)、大谷翔平(米・エンゼルス)、佐々木朗希(ロッテ)、宇田川優希(オリックス)と高校時代にピークを迎えなかった大器、いわゆる「ロマン枠」が躍動。今春のセンバツも現段階では粗削りながら、将来大化けする可能性を秘めた原石が出場する。

ダルビッシュの母校の東北(宮城)には、ハッブス大起(たいき)という好素材がいる。アメリカ人の父と日本人の母を持つ、身長188㎝の大型右腕で最速145キロのスピードはまだまだ増速気配がある。

昨秋に8割の力加減で投げる術を覚え、投球が安定するようになった。宮城大会決勝では仙台育英を相手に6回無失点に抑え、勝利に貢献した。

優勝候補、報徳学園の背番号1をつける盛田智矢(もりた・ともや)も将来性が高い。身長187㎝と上背があり、バランスのいい投球フォームから体感スピードの速いストレートを投げ込む。

浮き上がってから鋭く曲がり落ちるカーブが最大の武器で、体に力がつけば才能開花の期待が膨らむ。昨秋の近畿大会決勝では、大阪桐蔭を相手に3回3分の1を投げて無失点と好投を見せた。

昨秋の北信越チャンピオンとして初日に登場する北陸(福井)には、友廣 陸(ともひろ・りく)というエースで4番の中心選手がいる。身長185㎝、体重78㎏の体はいかにもきゃしゃで頼りなく映るが、そのポテンシャルには夢がある。

右腕を縦にきれいに振れる投球フォームで、変化量の大きなカーブ、フォークは目を惹(ひ)く。昨秋時点で最速139キロと目立つ数字はないものの、今後のフィジカル強化次第で別人のような変身を遂げても驚かない。

野手で紹介したいのは、作新学院の1番・センターを務める髙森風我(たかもり・ふうが)だ。走攻守に高い能力を秘めるアスリート型外野手で、本人は大学経由でのプロ志望を明かしている。

全身をフルに使った鋭いスローイング、右方向にも強くはじき返せる打撃、50m走6秒0の俊足と高いレベルでまとまっている。父・圭介さんは競輪選手で、勝負師としての血を受け継ぐ。

作新学院はほかにも攻守に高いパフォーマンスを見せる遊撃手の磯 圭太、下級生時から右の強打者として注目された武藤匠海と、野手陣にタレントがそろう。

雨天順延など日程変更がなければ、決勝は3月31日。今年も春から新時代の担い手たちが聖地で大暴れしてくれるはずだ。