メッツ・千賀は、オープン戦の初登板で強打者たちを相手に好投。落差が大きいお化けフォークはMLBの関係者たちの間でも話題になったメッツ・千賀は、オープン戦の初登板で強打者たちを相手に好投。落差が大きいお化けフォークはMLBの関係者たちの間でも話題になった

WBCの盛り上がりでMLBのオープン戦の話題は陰に隠れているが、シーズン開幕に向けて各選手の動向が熱い。日本人選手では、メジャー1年目の千賀滉大(ニューヨーク・メッツ)と藤浪晋太郎(オークランド・アスレチックス)が現地でも注目を集めている。

特に千賀は、オープン戦で評価をガラリと変え、メッツでも話題の選手のひとりとなった。3月5日(現地時間。以下同)のセントルイス・カージナルス戦に登板した千賀は、初回に先頭から2者連続で四球を与えた。

しかし、ともにWBC米代表のポール・ゴールドシュミットとノーラン・アレナドを連続で打ち取り、最後は若手有望株のジョーダン・ウォーカーを代名詞の〝お化けフォーク〟で三振に仕留め、窮地を脱した。

この投球は現地に強烈なインパクトを与え、その日の紙面には「千賀の印象は非常によかった」(『MLB.com』)や「千賀は〝お化けフォーク〟を披露し、デビュー戦で成功を収めた」(『ニューヨーク・ポスト』)と称賛の言葉が並んだ。

また、入団当初の千賀に対して、メジャー未経験を理由に「B」と評価していたメッツの専門メディア『ライジング・アップル』のティム・ボイル記者も、「球界最高のプロスペクト(有望選手)、ウォーカーを三振に仕留めたフォークには衝撃を受けた」と感服。

「あの球を見た瞬間、千賀がワールドシリーズ第6戦で、打者・大谷翔平から三振を奪う姿が思い浮かんだよ」と興奮気味に振り返った。

また、〝ピッチングニンジャ〟の愛称で知られる投手分析家ロブ・フリードマン氏は「全体としては、非常に堅実なパフォーマンスだった」とし、「オープン戦では2回しか投げられなかったが、正直、彼の〝お化けフォーク〟は誰も打てないだろう。本当に厄介なボールだ」と感心しきり。「(課題の)制球を改善できれば、メジャーでも必ず成功する」と太鼓判を押した。

初登板でこれだけ高く評価されている千賀の開幕ローテーション入りはほぼ間違いないだろう。あとは、その順番だ。メッツには将来の殿堂入りが確実視されているマックス・シャーザーとジャスティン・バーランダーの両雄がいるが、千賀は先発ローテの何番手が期待できるのか。

フリードマン氏は「3番手」と予想。千賀は〝お化けフォーク〟以外にも平均155キロ前後の速球、スライダーなど、メジャーでも通用する球種を持っていることから、「シャーザー、バーランダーに続く投手として期待できる」として、上位での起用を推す。

一方、ボイル記者は「4番手」とした。バーランダー、シャーザーと右腕が続くことから、左腕のホセ・キンタナを3番手にすることで、左右のバランスが良くなることが一番の理由だ。

また、この順番は千賀への負担が軽減されるメリットもある。「シーズンはマラソンと同じ」という同記者は、シーズン序盤に休養日が多いことから、「(4番手が)最も理にかなっている」と主張した(取材後、キンタナの疲労骨折による3ヵ月離脱が判明)。

ただ、ここにきて開幕に黄信号が灯(とも)っている。3月11日、右人さし指の付け根に違和感を訴え、2度目の登板を急遽(きゅうきょ)取りやめた。検査の結果、腱炎(けんえん)と判明したが、しばらくは様子見。せっかく好アピールを続けていただけに、状態の回復が待たれる。

アスレチックスの藤浪は、制球難の課題は残るものの、投球の内容は良好。スライダーの一種、新球「スイーパー」の習得にも挑戦しているアスレチックスの藤浪は、制球難の課題は残るものの、投球の内容は良好。スライダーの一種、新球「スイーパー」の習得にも挑戦している

藤浪も開幕ローテ入りに大きく前進している。

藤浪は入団当初、現地では「セットアッパー向き」と言われ、先発起用への期待は低かった。しかも、所属するアスレチックスは藤浪以外にも先発候補が10人いた。

ところが、キャンプ前に先発候補のひとりがトレードで放出されたことが追い風に。さらに、藤浪はオープン戦で活躍し、自力で開幕ローテ入りをぐっと近づけた。

特に2月28日のデビュー戦、大谷翔平との9年ぶりの直接対決も話題になったロサンゼルス・エンゼルス戦で、藤浪は先頭打者を三振に仕留める好スタート。

その後も同学年の大谷と投げ合う形で、2回を1安打無失点、3奪三振3四球と好投。現地メディアは「大きな期待に応えた」と称賛の嵐。前出のフリードマン氏も、「彼のスプリットと速球は非常に素晴らしかった」と大絶賛した。

その後、3月7日のアリゾナ・ダイヤモンドバックス戦でも3回1安打1失点、3奪三振2四球。13日のコロラド・ロッキーズ戦も勝利投手に。

実戦でのアピールを続けた結果、『MLB.com』によるアスレチックスの先発ローテを予想する特集では〝確定組〟に分類され、「藤浪は刺激的な才能を見せ、契約前の期待に応えている」と高く評価された。

アスレチックスの専門メディア『ホワイト・クリート・ビート』のデビッド・ヒル記者も、藤浪の開幕ローテ入りに「疑問の余地はない」と断言する。

そんな藤浪も、何番手で起用されるかが気になるところだ。ヒル記者は「藤浪は3番手か4番手になる」と予想。「今はドリュー・ルシンスキーと順番を争っているが、藤浪のほうが成績がいい。なので、3番手になる可能性も十分にある」とした。

ヒル記者は「制球難から、先発起用については一定のリスクがある」と釘も刺したが、オープン戦で見せた活躍に「感銘を受けた」と話し、藤浪にこうエールを送る。

「彼のスプリットはメジャーでも最高のものになると考えている。あとは、彼自身がそれをどう発揮できるかだ。彼がメジャーで成功するためにも(制球難の改善も含め)その力を磨き続けてほしい」

オープン戦で才能を示した千賀と藤浪は、すでに現地での評価がかなり高い。もちろん、ボールやマウンドへの順応、「ピッチクロック(ピッチャーの投球間隔の時間制限)」への対応など課題は指摘されているが、開幕直後からのふたりそろっての活躍に大きな期待が持てそうだ。

同学年の大谷との投げ合いは、2014年のプロ野球オールスターゲーム以来9年ぶり。シーズンでは打者・大谷との対決にも注目同学年の大谷との投げ合いは、2014年のプロ野球オールスターゲーム以来9年ぶり。シーズンでは打者・大谷との対決にも注目