決勝のアメリカ戦でアベックホームランを放つなど、存分にパワーを見せつけた村上(右)と岡本(左)。メジャー関係者の注目度も上がった 決勝のアメリカ戦でアベックホームランを放つなど、存分にパワーを見せつけた村上(右)と岡本(左)。メジャー関係者の注目度も上がった

決勝まで7戦全勝、ドラマチックな試合も続いて日本国内には侍ジャパンフィーバーが巻き起こった。そんな日本代表は、優勝を争った野球大国アメリカにはどんなチームに見えていたのか。日米のメディアで記事を執筆しているジャーナリストに聞いた!!

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■豪華メンバーが一体になった強さ

14年ぶりにWBCを制覇した侍ジャパンについて語ったのは、アメリカ・セントルイス在住のフリーライター、ブラッド・レフトン氏。かつてNHKでも仕事をした経験があるなど日本と縁があり、イチローがMLBでプレーしていた時期は球場で取材を重ねた。現在は日米のメディアで記事を執筆している。

ブラッド氏は今大会、東京ラウンドから決勝まで、侍ジャパンの7試合すべてを現地取材した。全勝で頂点まで上り詰めた日本を見て感じたのは、「世界的に、日本野球の地位が揺るぎないものになった」ことだという。

「特にプールBと、大会ベスト4のキューバが入っていたプールAも含めた10チームの中では、実力がずばぬけていたね。差がありすぎて、『このプールで戦うべきチームなのか?』と思ったくらいだ。

かつて日本は、小技や足を絡めた『スモールベースボール』が印象的だったけど、今回のチームはなんでもできた。バントや盗塁の技術の高さは相変わらずで、つなぎもできるけど長打で点を取ることもできる。チームとしての理想の形だと思ったよ」

さらに、大会ナンバーワンのチーム防御率(2.29)を残した投手陣に関しては「大谷翔平やダルビッシュ有はもちろん、佐々木朗希や山本由伸らも事前に知っていて、あれだけ素晴らしい投球をしても驚きはなかった」と振り返った。

大谷らの参戦で、今大会のメンバーは「史上最強」ともいわれていたが、ブラッド氏は「単純に豪華メンバーがそろった、という強さではなかった」と強調する。

合宿に早期合流したダルビッシュ(右から2人目)。練習外でも食事会を開くなどほかの選手とコミュニケーションを取り、チームに一体感をもたらした 合宿に早期合流したダルビッシュ(右から2人目)。練習外でも食事会を開くなどほかの選手とコミュニケーションを取り、チームに一体感をもたらした

「各チームのトップ選手が集まると、チームがまとまるまで時間がかかるもの。でも、日本には早くから一体感があった。そこで重要な働きをしたのがダルビッシュ。2月にチーム合宿に合流して、若い選手たちに積極的に話しかけるなどいい雰囲気をつくった。

日本人選手のいい一面でもあるけど、『国のために、自国のファンのために』と自分を追い込んでしまう傾向もある。そこで『野球を楽しもう』というマインドをチームに浸透させたダルビッシュの貢献度は計り知れないね」

また、ブラッド氏が住むセントルイスを本拠地にしている、カージナルス所属のラーズ・ヌートバーのなじみ方にも感嘆したという。

「大会前、彼のことを知る日本人選手はほとんどいなかったはず。でも、チーム合流後すぐに、みんなが『たっちゃんTシャツ』を着るなど距離を縮めてくれた。初戦の中国戦の前日練習で彼の晴れやかな表情を見たときは僕もうれしかったし、あらためていいチームだと思ったよ」

■村上や岡本のパワー、〝つなぎ役〟も称賛

今大会は、各国チームにメジャーリーガーが集まったことで、アメリカ国内の注目度もかなり高かったという。MLBの関係者も試合を注視していただろうが、メジャーで通用しそうなNPB所属の選手は誰なのか。その質問に、ブラッド氏は「スカウトじゃないから詳しくはわからないけど......全員じゃないかな」と笑顔を見せた。

「投手陣は佐々木や山本だけじゃなく、リリーフ陣も含めたすべての投手が即メジャーで活躍できる能力がある。野手もそうだけど、特に主軸を担っていた打者はアメリカでも広く認知されたと思うよ。

決勝のアメリカ戦でも豪快なホームランを打った村上宗隆や岡本和真は、近い将来に各球団が獲得に本腰を入れる可能性があるだろうね。村上はなかなか調子が上がらずに苦しんだけど、ふたりのパワーはMLBのスラッガーたちに負けないことが証明されたわけだから」

ただ、個人的に印象に残った選手として名前を挙げたのは別の選手だった。

「2番で活躍した近藤健介だ。ミート力に優れていて、ボール球に手を出さない選球眼も優れている。今大会では大谷らクリーンナップにつなぐ役割を見事に果たしていたね。

鈴木誠也がケガで出場を辞退していなかったら、あれほどの選手が控えに回っていた可能性があるわけだよね? 本当に信じられないよ(笑)。彼は日本チームの層の厚さを象徴する選手だ」

今後もMLBだけでなく、日本のプロ野球もチェックしていくというブラッド氏は、「日本のファンが、侍ジャパンの選手の活躍を国内で長く見たいと思うのは当然のこと。でも僕は、多くの選手がメジャーで躍動する日を待っているよ」と最後に語った。

今季のプロ野球の開幕は3月30日。侍ジャパンのメンバーは所属球団に戻り、ライバルとしてしのぎを削り合う。そこで切磋琢磨(せっさたくま)した選手たち、侍ジャパンに刺激を受けて成長した選手たちが、3年後の第6回WBC、MLBで活躍する姿が楽しみだ。