大谷のエグいスライダーにトラウトのバットが空を切り、日本が世界王座を奪還!! 出来すぎなストーリーで幕を閉じたWBCの余韻にまだまだ浸りたいですよね? 侍ジャパンと関係の深い方々に、超個人的な視点からMVPとベストシーンを選んでいただきました! 今回は06年WBCの優勝キャッチャーであり、今大会を決勝まで現地で解説した里崎智也さん!【WBC侍ジャパン 俺のMVP&ベストシーンその1】
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【MVP】ダルビッシュ有
【ベストシーン】《メキシコ戦4回表》源田壮亮の「声かけ」
「日本の野球を思い知ったか!」と胸を張りたいですね。決勝戦、アメリカと真正面からがっぷり四つに組んで遜色のない戦いをしてくれた。ミスをせず、ホームランも2本と同数。投手陣はソロ2本だけで耐えて、僅差で勝ち切りましたから。
メジャーリーガーはそりゃすごいです。リスペクトもします。だけど日本の野球選手もすごいよ。実力的には今回の侍ジャパンのメンバーの半分以上が、明日からMLBに行っても即通用します。
僕は「この国はメジャーリーガーが何人いる」という言い方が好きじゃないんです。人数は契約上の問題でしかないからね。アメリカのMLBが世界最高峰のリーグであっても、国別で戦えばそうじゃない。世界一野球が強い国を決めるWBCで、7戦全勝で世界一。誇らしい気持ちです。
今大会で侍ジャパンが優勝できた要因は、メンバーの調子にメリハリがあったことでしょう。全員が絶好調にはならないけれど、絶不調にもならなかった。
日本ラウンドの立役者はヌートバーと近藤健介。アメリカに来てからは岡本和真と村上宗隆が調子を上げた。岡本はホームランも打てば、地味にライト前ヒットでつないだりと、実にいい仕事をした。村上もなかなか一本が出ず苦労しましたけど、準決勝、そして決勝と大事なところで決めた。
吉田正尚(まさたか)や大谷翔平みたいにずっと好調な選手もいたけど、このメリハリのおかげで調子の出ない選手がいても誰かがカバーできる。いいチームバランスだったと思います。
だから、プレーで考えればMVP候補はたくさんいるんです。でも、このチームの和と空気感をつくったという意味ではやはりダルビッシュ有の力が大きかった。
投手陣への影響力は当然として、野手陣の集まりにも顔を出して交流を深めるなど、宮崎合宿から本当に大きな存在だったんでしょうね。
個人的に最も印象に残っているプレーは、王道編とマニアック編の両方ありますが、どちらも準決勝のメキシコ戦です。王道は吉田の同点3ラン。その前に空振りしていた難しい膝元のチェンジアップにアジャストして持っていったのはさすがでした。
マニアックなほうは、佐々木朗希(ろうき)が4回表に先制3ランを打たれた直後に声をかけに行ったショートの源田壮亮(そうすけ)ですね。絶妙のタイミングでした。あそこで佐々木が崩れていたら試合が終わっていたでしょう。見えないファインプレーです。
普段から一緒にやっていない代表チームでは、声かけのタイミングって意外と難しいんです。来てほしくない選手もいるし、それぞれの空気感がある。
それをしっかり感じ取りながら、うまくフォローできていたこと。源田はショートの守備力でも抜きんでた存在ですが、そういう見えない部分の貢献も素晴らしいです。右手小指をケガしても離脱に至らなかったことは日本にとって幸運でした。
●里崎智也(Tomoya SATOZAKI)
1976年生まれ。現役時代はロッテで強打の捕手として活躍。今大会ではアマゾン・プライム・ビデオの中継解説を務めた