7試合で13打点、打率4割超、出塁率は5割超。得点源として最高の仕事をした吉田正尚7試合で13打点、打率4割超、出塁率は5割超。得点源として最高の仕事をした吉田正尚
大谷のエグいスライダーにトラウトのバットが空を切り、日本が世界王座を奪還!! 出来すぎなストーリーで幕を閉じたWBCの余韻にまだまだ浸りたいですよね? 侍ジャパンと関係の深い方々に、超個人的な視点からMVPとベストシーンを選んでいただきました! 今回は09年・13年WBC投手コーチ、前中日監督を務めた与田剛さん!【WBC侍ジャパン 俺のMVP&ベストシーンその2】

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【MVP】吉田正尚

【ベストシーン】《チェコ戦3回裏》吉田正尚の逆転二塁打

もし私が監督、コーチなら、MVPには「短期決戦で最も必要なのは打点なんだ」ということを体現してくれた吉田正尚選手を挙げます。

彼はホームランを狙えるバッターです。しかし打席では、自分が決めてやろうという欲よりも、つないで得点を取る意識が非常に強かったように感じました。

その意識が逆に多くの打点を稼ぐ原動力となり、大会新記録の13打点を挙げました。これは〝ベンチの気持ち〟を本当に理解しているということ。監督、コーチとしてこれ以上頼りがいがある選手はいません。

そうした場面として印象深いのは、チェコ戦で1点先制された日本の3回裏の攻撃。1死から2番の近藤健介選手が二塁打で出て、大谷翔平選手が三振、村上宗隆選手が四球で歩かされた後、吉田選手はレフト線へ逆転の2点タイムリー二塁打を打ちました。

相手投手はチェンジアップがよく、日本の打者はタイミングを狂わされ、スイングを崩されていました。そんな中、吉田選手はむやみに引っ張らず、ボールを呼び込んで反対方向に打ち返した。

あれで一気にムードが変わり、勝利に結びついたと感じました。目立たないシーンだと思いますが、これぞ日本野球らしさとでも言えるでしょうか。

準決勝で重要な意味を持ったのは、メキシコが送り出した6投手全員から日本の打線が四死球を奪ったことです(すべて5回以降で8四死球)。

投手の立場から見れば、打たれることは仕方ない。しかし四死球で走者を許し、打順が進んでいくのは、リリーフ投手にボディブローのようにプレッシャーをかけていくものです。

7回まで無得点だった日本打線は重苦しい雰囲気に見えたかもしれません。でも私はメキシコの投手陣が四死球を出すたびに、終盤に勝機が巡ってくると感じていました。

そうした地に足の着いた攻撃が、結果的に最終回、大谷選手から始まる打順につながり、サヨナラ勝ちまで持っていけたと見ています。

栗山監督に続いて胴上げされたダルビッシュ。韓国戦の先発後、準々決勝と決勝では09年WBC以来のリリーフ登板を引き受け、難しい場面でリードを守った栗山監督に続いて胴上げされたダルビッシュ。韓国戦の先発後、準々決勝と決勝では09年WBC以来のリリーフ登板を引き受け、難しい場面でリードを守った
そして、決勝での大谷選手とダルビッシュ有投手の起用。メジャーリーガーの起用にはいろいろな制限があったかもしれませんが、いかにコミュニケーションが取れていたか。さすがだなと思いました。

大会前から栗山英樹監督は「抑えはひとりに絞らない」とおっしゃっていましたが、大きな大会ほど、パターンを決めて役割を与えるほうが首脳陣は楽といえば楽です。それをせず、ギリギリまで選手の状態や気持ちを察しながら起用するのは、想像以上にエネルギーが必要なことです。

私が初めてWBCの投手コーチを務めた09年大会では、大会途中でダルビッシュ投手に先発から抑えに回ってもらいました。あれから14年がたったわけですが、「実るほど頭(こうべ)を垂れる稲穂かな」という言葉が思い浮かびます。いろいろ経験してきたからこそ、若い選手たちに話せたこともあるでしょうし、彼自身も大きく成長した。

今回、彼のコンディションは本来の六分、七分程度だったと思いますが、言い訳せず、愚痴もこぼさず、最少失点にとどめて試合をつくっていったのは素晴らしかったと感じます。記録や結果には表れない大きな功績であり、貢献でした。

侍ジャパンのMVPとベストシーンを選んだ与田剛侍ジャパンのMVPとベストシーンを選んだ与田剛
●与田剛(Tsuyoshi YODA)
1965年生まれ。現役時代はリリーフ投手として中日、ロッテなどで活躍。楽天投手コーチ、中日監督を務め、現在は評論家