WBC準決勝のメキシコ戦で劇的なサヨナラヒット、決勝のアメリカ戦では同点本塁打を放ったヤクルトの村上。疲労もある中でどれだけ状態を上げられるかWBC準決勝のメキシコ戦で劇的なサヨナラヒット、決勝のアメリカ戦では同点本塁打を放ったヤクルトの村上。疲労もある中でどれだけ状態を上げられるか

かつて大洋(現DeNA)などで活躍し、現在は野球解説者やYouTuberとして活動する高木 豊氏。WBC開催期間中には自身のチャンネルでダルビッシュ有(パドレス)との対談動画を複数アップし、200万回再生を超える動画もあるなど大きな話題になった。そんな、野球界に大きな影響力を持つ高木氏が、開幕が迫るプロ野球を展望した。

まずセ・リーグは、球団初のリーグ3連覇を目指すヤクルトから。日本一奪還に向けて戦力を整えているが、高木氏は不安も口にする。

「投手陣が少し心配です。ドラフト1位ルーキーの吉村貢司郎がどれぐらい勝つか、昨季まで抑えで活躍していたスコット・マクガフが抜けた穴をどう埋めるかがポイントになります。髙津臣吾監督は投手のやりくりが非常にうまいので、手腕の見せどころです」

昨季、史上最年少で三冠王を達成した村上宗隆へのマークは厳しくなりそうだが、「WBCへの出場経験が糧(かて)になる」と言う。

「昨年あれだけ打ちましたから、ピッチャーの攻めは当然厳しくなります。ただ、WBCのメキシコ戦で劇的なサヨナラ打を打ったり、大谷翔平(エンゼルス)と一緒にプレーしたりして刺激を受けて、ひと皮むける感じがします」

ヤクルトの対抗馬とみるのは、2005年にチームをリーグ優勝に導いた、岡田彰布監督が再び指揮を執る阪神だ。

「阪神はリーグ優勝が期待できます。4番候補の大山悠輔の調子があまりよくなさそうですが、チームとして足や小技を絡めて点を取りにいく形になるでしょう。

大山をファースト、佐藤輝明をサードに固定することを明言していますし、ドラフト1位ルーキーの森下翔太もライトで固定すれば、落ち着いた野球ができると思います。昨年はポジションがコロコロ変わる選手が多かったですが、主軸となる選手のポジションは固定すべきです」

DeNAはサイ・ヤング賞投手のバウアーを獲得。女性への暴行疑惑で1年以上のブランクがあるが、ボールの勢いは取り戻せているのかDeNAはサイ・ヤング賞投手のバウアーを獲得。女性への暴行疑惑で1年以上のブランクがあるが、ボールの勢いは取り戻せているのか

続いてAクラス入りを予想したのはDeNA。3月に、3年前にサイ・ヤング賞に輝いたトレバー・バウアー(元ドジャース)を電撃獲得。もともと充実した先発投手陣に、大物右腕が加入したことでより強力な布陣になった。

「(女性に対する暴行疑惑で)1年以上のブランクがあるバウアーがまともに投げられたら、優勝を争うかもしれません。彼はまだ32歳。実績は文句ないですし、本人は『沢村賞を獲(と)りたい』と言っているようですが、その可能性も十分にあります。

あとは、野手陣がいかに点を取るか。いい打者はそろっていますが、打つ技術はあっても、得点につなげる技術があまりない気がします。オープン戦でも盗塁を含めた走塁技術の低さが目立つので、そこをどう改善するかですね」

以降はBクラス予想のチーム。昨季4位からの巻き返しを図る巨人だが、高木氏は「新外国人ピッチャーの活躍が不可欠」と指摘する。

「新加入のフォスター・グリフィンとタイラー・ビーディは、オープン戦で見る限りでは戦力になると思います。巨人は菅野智之と戸郷翔征に続く先発投手が課題でしたが、このふたりがローテーションを守ってくれると心強いですね。ただ、それでも枚数は足りませんから、若手ピッチャーの台頭も必要です」

昨季リーグ最下位に終わった中日は、二遊間を組んでいた京田陽太と阿部寿樹をトレードで出すなど、立浪和義監督が〝血の入れ替え〟を敢行中。そんな中で、25歳の小笠原慎之介を開幕投手に指名するなど、若手の積極的な起用を高木氏は高く評価する。

「いつまでも大野雄大に頼るのではなく、若い小笠原を開幕投手に指名したのは正解だと思います。野手陣も若返りを図っていますが、投手陣の若返りが遅れるとチームがアンバランスになりますから」

セ・リーグ最後は、今季から新井貴浩新監督が指揮を執る広島。高木氏は4番の起用法を懸念している。

「オープン戦で西川龍馬を4番で起用することもありましたが、そこが解せないんです。西川はケガの影響などで、フルシーズンをプレーした経験がそこまでない。それをわかった上で4番を打たせているのか......。

4番がシーズン途中で抜けたら打順が組みにくくなります。技術面で西川の4番を懸念しているのではなく、体の強さの問題です。ヤクルトの村上や巨人の岡本和真のように、4番は不動であるべき。新井監督もいろいろ試しているのかもしれませんが、どういう野球がやりたいのかを早く見せてほしいです」

一方のパ・リーグは、ヤクルト同様に3年連続のリーグ制覇を狙うオリックスと、大補強を敢行したソフトバンクを優勝候補に挙げた。

まずオリックスは、長く主軸を務め、WBCでも大活躍した吉田正尚がボストン・レッドソックスに移籍。その穴は大きいが、強力な投手陣、采配や育成などに長(た)けた中嶋聡監督に期待がかかる。

「オリックスは投手がハイレベル。中継ぎには160キロ級を投げる投手がふたりいて、それ以外の多くの投手も150キロ台中盤を投げる。他チームはたまったもんじゃありません。

注目の投手は、高卒3年目の山下舜平大です。キャンプでいろいろな人と話しても必ず名前が出てきました。将来、現エースの山本由伸がメジャーに移籍することがあっても、『山下がいれば安泰』と言えるぐらいの逸材です。

野手陣は、確かに吉田が抜けたことは痛いですが、中嶋監督がやりくりしていくでしょう。昨季も、杉本裕太郎がまったく打てないときに、中川圭太にクリーンナップの一角を任せるなどしながら優勝に導きましたから」

続いてソフトバンクは、オフに大補強をしたことで戦力に厚みが増した。そこを評価した上で、高木氏には心配な点を口にする。

「確かに戦力は分厚いです。WBCで活躍した近藤健介(元日本ハム)が加入したことは大きいですし、栗原陵矢や上林誠知らケガからの復帰組もいます。投手、野手陣が質・量共にそろいましたね。

ただ、そういうときに懸念されるのが〝タクトの振り方〟。実力が拮抗(きっこう)している選手が多いと、どの選手を使うかの判断が指揮官の好みになってきます。チームに不協和音が生じることが、長いシーズンでは一番怖いんですよ。ただ戦力をそろえればいいわけではないので、藤本博史監督のお手並み拝見です」

その2チームに続くとみているのは西武。松井稼頭央新監督の下、4年ぶりのリーグ優勝を目指す。

先発投手陣が充実してきた一方で、野手陣は〝打てるキャッチャー〟の森 友哉がFAでオリックスに移籍。数年前は〝山賊打線〟と呼ばれて恐れられた打線も、近年はその破壊力に陰りが見える。

「新外国人バッターが機能してくれれば心強いですが、そこが機能しないと、長打を期待できるのが山川穂高だけになってしまう。足を使っていくしかないのですが、オープン戦では盗塁を刺される場面が目につきました。まだまだ、中村剛也や栗山 巧といったベテランの力が随所で必要になりそうですね」

ここからはBクラス予想。まず楽天は「ベテランの先発投手が多く、若手抜擢(ばってき)の妨げになっている」と指摘する。

「実績もある田中将大、岸 孝之らがいると、若手投手はまず中継ぎでの起用になりますからね。それで勝っていればいいですが、昨季は先発投手陣のほとんどが負け越し。野手陣も若手が育ってこないと......。いつまでも浅村栄斗や島内宏明頼みでは得点力が上がりません」

楽天と同じく、現在の戦力は厳しいが、「面白い選手が多い」と話すのが日本ハムだ。

「清宮幸太郎、野村佑希、万波中正、昨年のドラフト1位で〝二刀流〟の矢澤宏太ら飛躍しそうな選手がたくさんいます。比較的若いチームですが、各選手のポジションを固定すれば落ち着いて試合に臨めるはずです。新球場(エスコンフィールド)は少し狭くなるので、長打が狙える若手がいるのは楽しみですね」

昨季5位で、指揮官が吉井理人新監督に代わったロッテは、今季も苦しいシーズンになりそうだ。絶対的守護神だったロベルト・オスナがソフトバンクに移籍。さらにレオネス・マーティンとブランドン・レアードが退団し、打線のパワーダウンも否めない。安田尚憲、山口航輝ら若手のブレイクが必須だが......。

「安田はシーズン中バッティングフォームをコロコロ変えて、フォームが固まってきた後半に打ち始めるのが恒例になってしまっています。山口は成長していますが、まだ4番を任せられる感じではない。吉井監督は苦労するかもしれませんね」

そんな見立てが、開幕後に一変することがあるのも野球の醍醐味(だいごみ)。WBCの盛り上がりを引き継いで、熱いシーズンになることを期待したい。