大谷のエグいスライダーにトラウトのバットが空を切り、日本が世界王座を奪還!! 出来すぎなストーリーで幕を閉じたWBCの余韻にまだまだ浸りたいですよね? 侍ジャパンと関係の深い方々に、超個人的な視点からMVPとベストシーンを選んでいただきました! 今回は栗山英樹監督とはヤクルト時代の同僚であり、現在はENEOS打撃コーチを務める荒井幸雄さん!【WBC侍ジャパン 俺のMVP&ベストシーンその3】
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【MVP】近藤健介
【ベストシーン】《メキシコ戦7回裏》吉田正尚の同点3ラン
いや、俺がこのスーパースター軍団にコメントすることなんて何もないって。
決勝戦はENEOSの食堂でおばちゃんたちや田澤(純一、元レッドソックス)と見ていたんだけど、みんな感動して熱くなったよね。日本野球の底力。
俺が出たロス五輪(84年)の金メダルとはまた違う。相手は現役バリバリのメジャーリーガーだよ。アメリカが優勝するための大会だよ。アメリカへ乗り込んで、やっつけちゃうんだから、鳥肌だって。野球がベースボールに勝ったんだからね。
この大会、大谷さんや吉田選手もとんでもなくすごいけど、彼らのお膳立てをするヌートバー選手と近藤健介選手の1、2番だよ。特に近藤選手は出塁率5割。2死でも四球を取ってチャンスメイク、得点圏なら積極的に打ちにいく。自分がやるべき役割を理解して、ちゃんと実行できる。2番として最高の仕事をしたよね。MVPは大谷翔平さんでも、近藤選手が陰のMVPだよとホメてあげたい。
そして栗さん(栗山監督)とは大会前と大会中も少し話したけど、「本当におめでとうございます」とねぎらいたいです。今はゆっくり休んでほしい。これだけのスーパースターたちを集めるなんて、栗さんしかできないよ。
「俺の仕事は何もしないこと」「よけいなことはしない」と常々口にしていたけど、一方で「これだけのメンバーに来てもらって、もし負けたらしばらく表には出られないな」なんて言葉も聞いたよ。監督になってから約1年半、すごいプレッシャーがあったと思うよ。
考えてみれば、今大会は大谷さんで始まって大谷さんで終わったよね。18歳で日本ハムがドラフト指名した当初は、栗さんもまったく相手にしてもらえなかった。プレゼン資料を作って何度も何度も説得してね。
そこから本当に一歩一歩ステップアップしてさ、このWBCの優勝とMVPで、あのとき描いた未来が結実したような気がするよね。やっぱりあのふたりには特別な絆(きずな)があるよ。俺もすっかり大谷〝さん〟って呼んじゃってるからね(笑)。
食堂のおばちゃんたちが「荒井さん、大谷くんに会ったことあるの?」なんて言うから、「ちょっとね」って。サインが欲しいんだけど、栗さんには近すぎて一生頼めないよ。
いや、栗さんも世界一の監督になっちゃったんだよな。すごいよ。これ以上の栄誉はないからね。帰ってきたらお祝いして、少し休んだら、アマチュアもプロも含め野球界の発展のためによりいっそう頑張ってほしいよね。本当にお疲れさまでした。
●荒井幸雄(Yukio ARAI)
1964年生まれ。ロス五輪では4番として金メダルに貢献。栗山監督はヤクルト時代の同僚。引退後3球団でコーチを務めた