あのカタールW杯ベスト16のクロアチア戦から約3ヵ月半、ついにサッカー日本代表が再始動した。指揮を執るのは、2026年のW杯本大会までの新契約を日本サッカー協会と交わした森保一監督。W杯を指揮した監督が大会終了後も続投となるのは日本サッカー史上初めてのケースで、その期待の高さがうかがえる。
当然だが、8年の長期政権となれば、メリットもデメリットもある。とりわけ同じ監督の下でのチーム強化となれば〝マンネリ化〟というデメリットは避けられず、今後は森保監督が〝継続性〟というメリットとのバランスをいかにして取っていくかが、最大の注目になる。
そんな中、3月の国内親善試合のウルグアイ戦(24日)とコロンビア戦(28日)に向けて発表された代表メンバーには、フレッシュな面々が名を連ねた。
初招集されたのは、角田涼太朗(横浜FM)、バングーナガンデ佳史扶(FC東京)、半田 陸(ガンバ大阪)のDF陣と、FWの中村敬斗(LASK/オーストリア)。
残念ながら角田は負傷により辞退となったが、代わって招集された藤井陽也(名古屋グランパス)も初招集で、さらにケガの冨安(健洋)に代わった町田浩樹(ユニオン・サンジロワーズ/ベルギー)も初めての代表入りとなった。逆に、長く主軸を担ってきた吉田麻也、長友佑都らベテランの招集は見送られている。
そのメンバー選考からは、3年後のW杯を見据えたチームの底上げを図る狙いが見て取れたが、それ以外にも、今回の2試合では新しい取り組みが行なわれている。それは、後方からのビルドアップ(攻撃の組み立て)における工夫だ。
今回の2試合で森保監督が採用した基本布陣は、カタールW杯前から使っていた4-2-3-1。ビルドアップはGK、またはふたりのCBから始まるが、1試合目で対戦したウルグアイは日本と同じ4-2-3-1を基本布陣としながらも、守備時は4-4-2に変化。前線のふたりが日本のCBと「2対2」の関係をつくり、高い位置からプレスを仕掛けてきた。
その際、日本はボランチのひとりがCBの間や脇に下がることで「3対2」という数的優位をつくった。さらに、SBのひとりが内側に絞って最終ラインの1列前に立ち、相手のマークを引きつけることで同サイドのウイングへのパスルートをつくり出した。
このビルドアップ時におけるSBのポジショニングが、第2次森保ジャパンが新たに導入したチーム戦術である。
SBの変則ポジションによるビルドアップは、ボールを保持して攻撃するチームが好む最先端の戦術のひとつ。国内では昨季の王者である横浜FMが採用し、今季は川崎フロンターレも取り入れたスタイルだ。
カタールW杯では「自陣深い位置で守ってからのカウンター攻撃」を主体にジャイアントキリングを起こした森保監督だが、今後は次のW杯に向けて「ボールを握りながら攻撃する」スタイルを浸透させ、ベスト8の壁を乗り越えたいという意思がうかがえる。
ちなみに、この新戦術は第2次森保政権で入閣した名波浩コーチが主体となってトレーニングしたという。第1次政権下の右腕で、今季からジュビロ磐田の監督に就任した横内昭展前コーチに代わり〝新参謀役〟を務めることになった元日本代表のレジェンドも、新生・森保ジャパンの「目玉」といえる。
もっとも、練習時間が限られる代表活動において、新戦術をすぐに浸透させることは容易ではない。実際、今回の2試合における日本のパフォーマンスは低調で、ウルグアイ戦は1-1のドロー、続くコロンビア戦は開始直後に三笘 薫(ブライトン/イングランド)のヘディングシュートで先制しながら、1-2の逆転負けを喫している。
注目されたビルドアップ時の新戦術もほとんど機能せず、ボールを保持するどころか、自陣から敵陣に前進することさえままならなかった。その主な原因として挙げられるのが、肝心の最終ラインを代表経験の浅い選手で構成したことだろう。
ウルグアイ戦の守備陣の顔ぶれは、GKにシュミット・ダニエル(シントトロイデン/ベルギー)、DFラインは右から菅原由勢(AZ/オランダ)、板倉 滉(ボルシアMG/ドイツ)、瀬古歩夢(グラスホッパー/スイス)、伊藤洋輝(シュツットガルト/ドイツ)。コロンビア戦は、左SBにバングーナガンデが入り、伊藤が瀬古に代わってCBを務めたが、守備は経験がものをいうポジションゆえ、不安定さは否めなかった。
ただし、そんな中でも今回の2試合でチームが手にした収穫もあった。右SBとして2試合に先発した菅原は、オランダで揉まれた経験を生かし、堂々としたプレーで今後の代表定着を予感させた。
また、コロンビア戦で左SBを務めた21歳のバングーナガンデも、代表デビュー戦とは思えないアグレッシブなプレーで可能性を感じさせ、「新戦力発掘」という点でポジティブな収穫になった。
さらに、新生・森保ジャパンの攻撃の中心として期待される三笘と伊東純也(スタッド・ランス/フランス)の両ウイングが、期待にたがわぬ〝違い〟を見せてくれたことも好材料だ。
今回の2試合では鎌田大地(フランクフルト/ドイツ)、堂安 律(フライブルク/ドイツ)、久保建英(レアル・ソシエダ/スペイン)らが不発だった一方、このふたりは圧倒的な個の力を発揮。今後のチームづくりを考えると、それも大きな収穫だった。
いずれにしても、森保監督が「新しい戦術のチャレンジと新しい選手の融合は簡単ではない」とコメントしたように、成果が表れるまでには時間を要するはず。それだけに、今後はチームをどのように成長させていくのかが、森保監督の腕の見せどころになる。