阪神・レジェンドOBである江夏豊氏が岡田彰布監督を直撃!阪神・レジェンドOBである江夏豊氏が岡田彰布監督を直撃!

まだWBCの興奮が冷めやらぬ中、プロ野球が開幕した。セ・リーグはヤクルトが球団創設初の3連覇に挑むが、それを阻止しようと5球団が迎え撃つ。中でも、岡田彰布氏率いる阪神は、圧倒的投手力を理由に優勝候補に挙げる解説者も多い。

今年の阪神は強いのか? レジェンドOBである江夏豊氏が岡田監督を直撃した。【『江夏豊のアウトロー野球論』祝プロ野球開幕! SPECIAL対談】

■打順、ポジションは固定していきます

江夏 まずは、新戦力について聞きたいんだが、ドラフト1位のルーキー・森下は想像以上か?

岡田 はい。すごくいいですね。ウチの打線は左打者が多いんで、ノイジーいう新外国人と森下の右をふたり使えそうなんでよかったです。タイガースは去年も左ピッチャーにやられることが多かったですから。

江夏 新外国人野手はもうひとり、ミエセスも右だよね。

岡田 ふたりとも外野なんで、使うのはひとりですね。ポジションはレフトで。

江夏 無理に助っ人を使うこともないし、近本がセンターで、森下はライトか。甲子園の場合、外野手は慣れが必要になってくるよね。

岡田 肩が強いんですよ、森下は。だから広い甲子園でもしっかり守れると思います。

江夏 そうか。だったら、1年目からどんどん使っていけばいいと思うよ。それと、二遊間が新しく変わったね。

岡田 ショートは打つことよりも守備で、肩の強い小幡に守ってほしかったんです。そこに木浪がね、実際に一緒にやってみたら、これは小幡と争えるなとわかって。

江夏 争える、というのは守りで? それとも打つほう?

岡田 両方です。木浪は中野が台頭する前にショートのレギュラーだったんです。最近はあんまり試合に出なくなっていたんですけど、やっぱり肩が強いんですよ。

江夏 ショートの場合は肩もいるからな。それで中野をセカンドに回したと。

岡田 はい。僕は去年までずっとネット裏から見ていて、「中野はえらい前に守るなあ」「肩に自信がないんかなぁ」いうのがあったんです。

江夏 中野本人はどうなの?

岡田 セカンドのほうが生き生きしてますよ(笑)。

江夏 ああ、そう(笑)。

岡田 大学・社会人時代はセカンドを守っていたので、まったく心配はしていないです。

江夏 そのあたりはあなたが内野手だったから、よく見える部分だと思うよ。実際問題、この何年間かのタイガースは内野のミスが多かったから。

岡田 5年連続でエラーの数は12球団ワーストだったとか(笑)。それは外野守ったり、内野守ったり、ポジションを固定しない面もあったんじゃないかと。

江夏 昔は、守りは固定だったよな。打順もだいたいそうやった。でも、最近は何か流れが変わってきたのか、複数のポジションをこなし、何番で起用されるのかわからない。

岡田 打順なんて1年で100通りとかね(笑)。

江夏 それがいいことのように言われている部分もある。

岡田 僕はいいとは思わないんで、今年はある程度、固定でやろうと思っています。ポジションにしても、打順にしても。

江夏 その形が、岡田野球の基本になっていくんだな。

岡田 やっぱりウチは甲子園で半分ゲームするんで、12球団で唯一、(内野が)土のグラウンドですから......エラーの数はそんなに気にしてないです。でも、アウトにできる打球をアウトにするという、基本的なことの繰り返しのためにはポジションを固定したほうがいいと思うんで。

岡田彰布監督岡田彰布監督

江夏 アウトにできる打球をバックがミスったとき、ピッチャーが頑張らないで失点につながったら、嫌な悪循環になっていくよな。

岡田 ええ。すぐ打って取り返せば......と思っても、なかなか甲子園でホームランはバンバン打てないですから。

江夏 広いし、風もあるし。だからこそ、きっちり守ることがいちばん大事になる。

岡田 そら、エラーしないほうがいいですけど、ランナー一塁で、ピッチャーがゲッツー取ろうと思ってるときにきっちり取れる。そういう、当たり前のことができたらいいと思うんです。

■大事に使うのと過保護とはまた別

江夏 うん。ピッチャーの気持ちも乗っていきやすい。そのピッチャーだけど、もう先発もリリーフも、頭の中では構想ができてる?

岡田 開幕ローテーションは6人でいくんですけど、左の伊藤将が3月の中頃ぐらいに、「ちょっと肩がおかしい」となって......。

江夏 少し遅れそう?

岡田 そうですね。それほど心配はしてないですし、間に合わなくても、1カードぐらいはほかのピッチャーで賄おうと思ってますんで。

江夏 でも左だけに、いるといないで違いは大きいよ。今はリリーフにしても、どうしても枚数が必要だから。

岡田 それで去年、現役ドラフトでソフトバンクから大竹を獲(と)ったんです、左の。

江夏 大竹、オープン戦で先発しとったよな。

岡田 けっこう、ボールに力があって、制球力もあるんで使っていきます。

江夏 6人のうちのひとり?

岡田 はい。左がふたり入ってくれたら......と思ってます。

江夏 抑えはどうするの? 9回に投げるピッチャーは。

岡田 湯浅でいきます。WBCに出た影響で遅れるかもわからないですけど、最終的には湯浅に任せます。

江夏 岡田監督といえば、前回は"JFK"という絶対の勝ちパターンをつくった。今回の構想はどうだろう。

岡田 当時はJFKの3人でしたけど、今は「連投したら1日休ます」とかあるんで、勝ちパターンも5人ぐらいでつくらないといけない。なんか、野球が変わってきたというのはありますね。

江夏 確かに、変わってきた部分はあると思うけど、過保護になってる部分もあるからね。大事に使うのと、過保護とはまた別だからな。

江夏豊氏江夏豊氏

岡田 勝ってるゲームやったら、今年はもっと連投させますけどね。

江夏 自分もそのほうがいいと思うよ。別にそれは、酷使じゃないんだから。

岡田 投げないと給料上がらないでしょ。僕はそう思うんですけどね。

江夏 ピッチャーはマウンドに上がらないとな。

岡田 そうですよね。だから前回、監督したときは10連投させたんかな、(藤川)球児に。でも、普通なんですよね。「勝ってたら投げる」という習慣がついているから。

江夏 まあでも、われわれがやっていた時代はもちろん、前回の監督の時代とも流れが変わってきているからね。監督として、上から野球を見てる立場の人間として、相当、柔軟な頭にならないと。

岡田 ああ、そのへんはちょっと考えますね。

江夏 以前のような考えじゃ、難しいよな。

岡田 絶対無理ですね。

■巨人がいちばんわからないチーム

江夏 そういう意味では、監督として考えることはいろいろあると思うけど、セ・リーグ相手5球団、もう十分に研究している?

岡田 ある程度、把握してますけど、僕がずっと言っていたのはDeNAですね。去年、7個も負け越してて。

江夏 9勝16敗か。

岡田 以前は相性が良かったのに、何か極端ですよね。横浜スタジアムでふたつしか勝ってないとか。

江夏 えっ? そんなに相性悪かったか。

岡田 僕もびっくりしたんですよ。ただ、今年に関してはそういう相性の良しあしを、まずは一回、白紙に戻そうと。そうしないと、ピッチャーは投げるチームが限られてしまうんで。逆に、相性がいいからといって絶対に抑える保証もないですし。去年は去年で、今年また新たな気持ちでね、対戦させていきます。

江夏 じゃあ、新たな気持ちで戦うタイガース、今年はどういうチームになる?

岡田 メンバー、戦力を考えると、ピッチャー中心の守り重視のチームですね。甲子園で半分戦うことを考えたら、守り勝つ野球で"アレ(優勝)"を目指しますよ。そうじゃないと長いシーズンは戦えないかなと思っています。

江夏 その野球は、相手がどこであれ変わらない?

岡田 変わらないです。甲子園以外でも、ピッチャーを全面的に出さないといい勝負はできないかなと思います。攻撃力のあるヤクルトと神宮で戦うときも、球場が狭い横浜で戦うときもね。相手に合わせて打ち合いするんじゃなしに、自分とこはピッチャー中心で戦う。そこはブレずにやっていきたいですね。

江夏 タイガースの永遠のライバル、巨人はどう?

岡田 うーん、いちばんわからないチームです。ただ、坂本にしても丸にしても、だいぶ力が落ちてきたないう印象はあるんで......。

江夏 確かに、力は落ちてきたと思う。ただ、それでもね、坂本や丸はゲームに出ているだけで怖さがあると思うよ、相手にしてみたら。いざというときに頼りになるのは、経験のあるベテランだから。

岡田 だから最初に対戦したときにどういう戦い方をするのか興味ありますけど、ピッチャーが頑張れば、それほど点は取られないと。

江夏 タイガースの攻撃陣はどう? 足という武器を秘めていて、それを出すか出さないかは監督次第だけど......。

岡田 それはもう、代走と守備固めの島田と植田と熊谷にはね、1軍のメンバー決める前に「おまえらは1軍確定や」って言うてます。「その代わりレギュラーにはなられへんぞ!」って(笑)。

江夏 ハッハッハ(笑)。

岡田 7回ぐらいから代走で出て、盗塁して、守備固めもしてくれたらいいんで。

江夏 いろんな意味で助かるよな。クリーンナップを打つふたりはどうだ?

岡田 僕は大山と佐藤輝にね、打つこと以外の面でもチームを引っ張っていってもらいたいんですよ。

江夏 リーダーは絶対に必要だからね。いずれにせよ、大変な一年になりそうだ。

岡田 大変だと思いますし、一年間、ずっと順調にはいかないですからね。

江夏 そのへんはもう、実績ある岡田監督、酸いも甘いもわかってるからな。

岡田 いつも言うんですけど、4月よりも5月、6月と、徐々に強くなればいいと。まだ若いチームなんで、試合を積み重ねていくほどに戦力アップできると思うんです。それが自信となってくれれば、面白い戦いができると思います。

江夏 大いにそうなることを期待して、しっかり応援するよ。じゃあ、体に気をつけて、頑張って。

岡田 はい、わかりました。ありがとうございます。

江夏 よっしゃ。忙しいときに今日はありがとう。

●岡田彰布(おかだ・あきのぶ) 
1957年生まれ、大阪府出身。北陽高校、早稲田大学を経て、79年のドラフトで阪神に1位指名され入団。85年には不動の5番として日本一に貢献。94年から2年間オリックスでプレーし、95年の現役引退後はオリックス、阪神で2軍監督などを歴任。2004年に阪神の監督に就任し、05年にリーグ制覇。その後、解説者などを経て、23年から再び阪神の指揮を執ることになった

●江夏 豊(えなつ・ゆたか) 
1948年生まれ、兵庫県尼崎市出身。阪神、南海、広島、日本ハム、西武で活躍し、年間401奪三振、オールスターでの9連続奪三振などのプロ野球記録を持つ、伝説の名投手。通算成績は206勝158敗193セーブ