サッカーでは「しぼる」という言葉があるそうですね。知恵を絞るわけでも、誰かを叱るわけでもなく、「フィールドの中央をケアするように守ること」を意味するのだとか。

スポーツにはそれぞれの専門用語が存在します。もちろん野球にも。そこで今回は、野球中継やスポーツニュースで解説者の方が使うたび、「なんとなくわかるけど、本当はよくわかってないかもしれない」というワードを私なりに解説してみようと思います。

今日お届けするのは、野球が好きな方なら一度は聞いたことがあるだろう「体の開き」。野球経験者であれば感覚的に理解できると思いますが、私のように球技が苦手な方には分かりにくい言葉だと思うので、説明してみようと思います。

投手と打者の動きの基本にあるのは「回転」です。腕の力だけでもボールは投げられますし、打つこともできますが、体の回転を使うことでボールに強い力を伝えることができます。

まず打者は、最高のタイミングで腰を回転させ、ボールをミートすることを狙っています。ただ、プロの打者でも狙っているタイミングよりも前に腰が回転を始めてしまうことが多いようです。いわば「フライングスタート」のようなものですね。

腰が早く回ってしまい、ボールがバットに当たる前に胸が投手側に向いてしまうのが、打者の「体が開く」という状態。そうなると上半身の力だけでバットを振ることになるので打球が弱くなりますし、アウトコースのボールにバットが届きづらくなります。

小さい頃からバットを振り続けてきたはずのプロの打者が、なぜそんな状態になってしまうのか。それは、投手が打者のタイミングをずらすために緩急をつけていることもあるから。

どんな豪速球が投げられても、それだけで打者を抑えられるものではありません。毎回同じスピードの球を投げていたら、どんなに速い球でもスタンドに運ばれてしまいます。そのために球速が違う変化球を織り交ぜ、打者の打ち気を逆手に取った配球を組み立てていきます。

投手の最終的な目標は「打者のタイミングをずらすこと」と言ってもいいかもしれません。相手に自分のタイミングでスイングさせないようにして、三振や凡打を狙います。

ですから打者としては、どんな球が来ても体をすぐに開かないことが大切です。優れた打者は、タイミングをずらされた時でもギリギリまで我慢できます。

野球は、「いい状態の動作をいかに再現できるか」というスポーツとも言えますね。打者がホームランやヒットを狙いすぎると体の開きがちだったりするので、調子のバロメーターのひとつとして注目してみてください。

他にも、取り上げてほしい野球用語があれば是非コメントをお寄せくださいね。 他にも、取り上げてほしい野球用語があれば是非コメントをお寄せくださいね。

一方で投手も、調子が悪いと体の開きが早くなりがちです。

理想の投球動作は、ほぼ真横を向いたまま捕手の方向に向かっていき、前の足を着地させてボールをリリースする直前まで体を開かないこと。

右投げの投手だったら、軸足である右足に体重を乗せて左足にそれを移動させますが、体が早く開いてしまうと下半身の力が十分に使えずに腕の力だけで投げることになるので、スピードが出なかったり、変化球のキレが悪くなったりします。

また、体が早く開くと打者はボールの出どころが見やすくなり、タイミングが取りやすくなります。先ほどお話したように、打者は自分のタイミングで打つことを目的としていますから、これは大きなマイナスです。体が早く正面を向いてしまうと腕が体から離れやすく、ボールがすっぽ抜けるリスクも高まります。

腕の力だけで投げていると肩や肘の負担も大きいので、故障につながります。股関節の柔軟性や、腰の回転力などがモノをいいますから、ケガ明けなどで調子が出ない時には我慢ができずに体の開きが早くなってしまうのでしょう。

さらに、体をギリギリまで開かずに投げると、リリースポイントが打者に近くなるので、より打ちづらくなります。いわゆる、「球持ちがいい」という状態ですね。球持ちがいいと球速が出やすく、変化球が打者の手元で曲がるようになります。

MLBでは「エクステンション」というデータを大事にしています。これは「投球プレートから、投手がボールをリリースしたポイントまでの距離」のこと。エクステンションの数値が高ければ高いほど、三振率が高いというデータもあります。ちなみに、ツインズの前田健太投手は、このデータを意識するようになってから勝利数がぐんと増えたそうです。

ということで、今回は「体の開きは野球選手の最大の敵」というお話をお届けしました。違う用語も、別の機会に解説ができたらと思います。では、また来週。

★山本萩子(やまもと・しゅうこ)
1996年10月2日生まれ、神奈川県出身。フリーキャスター。野球好き一家に育ち、気がつけば野球フリークに。
2019年より『ワースポ×MLB』(NHK BS1)のキャスターを務める。愛猫の名前はバレンティン

★山本萩子の「6-4-3を待ちわびて」は、毎週土曜日朝更新!