今季、15年ぶりに指揮を執る岡田監督の下、開幕好スタートを切った阪神タイガース。18年ぶりの「アレ」は実現するのか!?
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■好スタートを切った「運用・采配の岡田」
岡田彰布新監督の下、まずまずのスタートを切った阪神タイガース。開幕前に各メディアで行なわれた野球解説者たちによる今季優勝予想でも、セ・リーグは3連覇を目指すヤクルトと阪神の2強状態。その2チームが早速抜け出した形だ。
昨季、開幕9連敗を喫しながらも3位につけた地力を考えれば、今季こそ......と信じたくなるのがファン心理。本当に信じていいのかどうか、阪神選手と交流を深めている野球評論家のお股ニキ氏に、阪神の現状と課題を考察していただこう。
まず、「岡田阪神」の特徴、昨季までの「矢野阪神」との違いはなんだろうか?
「端的に言えば、『育成の矢野』に対して『運用・采配の岡田』。岡田監督は、矢野前監督が育てた戦力をしっかりと運用・采配することで好スタートに結びつけた、といえます。中でも、矢野前監督が残した大きな遺産は投手力。非常にレベルが高く、メジャー級といえます」
そのメジャー級投手陣で先発ローテを担うのは「主軸として2桁勝って当たり前」という青柳晃洋と西勇輝。そこに左肩痛で出遅れている伊藤将司、佐々木朗希世代の西 純矢、去年復活した才木浩人の3人が続く。
「伊藤は一般的に『制球力はあるけど球が遅い』という印象かもしれませんが、技術力が非常に高い。西 純矢も普通に2桁勝利を期待できるし、才木はトミー・ジョン手術明けのため中10日だった昨季、防御率1点台を記録。今年は中6日でどこまで数字を残せるか試されます」
才木といえば、WBC強化試合で大谷翔平(エンゼルス)に特大アーチを浴びたことでも話題になった投手だ。
「メジャーレベルのフォークを余裕で打ち返した大谷がすごいだけ。むしろ、天狗(てんぐ)にならずに済んだといえるし、打たれて本気で悔しがるメンタルもいいですね。今年はすごい成績を残すと思います」
続いて、お股ニキ氏が「先発以上に人材が豊富」と語る救援陣を見ていこう。
「経験豊富な岩崎優。去年終盤良かったカイル・ケラー。そこに今年とても状態のいい石井大智や加治屋蓮もいて、最後はWBCでも活躍した湯浅京己が締める。浜地真澄の調子がいまひとつですが、岩貞祐太もいるし、ローテできるだけの選手がそろっていると思います」
岡田監督といえば、前回の阪神監督時に鉄壁の方程式、ジェフ・ウィリアムス→藤川球児→久保田智之の「JFK」を生み出し、オリックスでも岸田 護・平野佳寿の勝ちパターンを確立した人物。3度目の監督となる今回、救援運用で気になる点は何か?
「以前は中継ぎが登板過多だった時代。中継ぎを酷使しすぎない今の時代の投手運用をしたとしても、昨季までよりは各投手の登板数が多くなるかもしれません」
だからこそ、期待したいのは若い力のさらなる台頭。救援陣でお股ニキ氏が注目するのが25歳の石井大智だ。
「昨季も防御率0.75。ストレートの指標はトップクラスでしたが、今季はフォークも習得し、オープン戦も無失点。すさまじい精度と安定感なので、浜地に代わって勝ちパターンに組み込まれ、『8回の男』としての役割を見いだすかもしれません」
■課題は「先発6番手」&「野手の長打力」
期待値だけでなく「課題」も見ていきたい。投手陣では先発6人目をどうするのか。
「ソフトバンクに移籍したガンケルとメジャーに挑戦した藤浪晋太郎の穴が大きい。6人目であの水準がいるというのは、昨季までかなりのアドバンテージでしたから」
今、その6人目に名乗りを上げるのが現役ドラフトでソフトバンクから獲得し、移籍後初先発で3年ぶりの勝利を挙げた大竹耕太郎だ。
「大竹は球速こそないものの、技術があるから全球種を駆使して丁寧に投げれば、まだまだ結果を出せる。特にキャッチャーが坂本誠志郎なら配球も合うようです。坂本も首脳陣も大竹の使い方をよくわかっているといえます」
人材豊富な投手陣に比べ、気になるのは野手陣の攻撃力。10試合終了時点で本塁打はわずか2本だ。
「4番の大山悠輔の状態は悪くないですが、その後を打つ佐藤輝明に当たりが出ないとやはり厳しい。このままの湿りがちな打線では、今年も接戦続きになりそうです」
では、野手でポジティブな要素は?
「ドラフト1位の森下翔太は想像よりもいいですね。3番を打つ新外国人ノイジーもスイングはいいですし、外野守備でもハッスルできるサンズ(21年退団)的な選手。これで長打も増えてくれば得点力アップも期待できます」
■令和的アップデートもズバリ的中「岡田采配」
得点力不足という課題はあっても開幕好スタートを切れた要因は、なんといってもSNSでトレンド入りすることも珍しくない「岡田采配」だ。冒頭でも話題に出た「運用・采配の岡田」の部分をさらに掘り下げたい。
「岡田監督を見ていると、野球が好きでしょうがないんだろうな、という印象を受けます。それが戦略・戦術的な部分にも生きていますね」
具体例として挙げてくれたのは、開幕3連勝を飾ったDeNA戦。特に第3戦の終盤、1ストライク後に島田海吏に代えて原口文仁を送り、エスコバーから見事に代打アーチを決めた場面だ。
「エスコバーのストレートを狙わせ、原口も見事に打ちました。これこそ、采配です」
ほかにも、開幕戦では森下に代えて守備固めで入った板山祐太郎がファインプレー。第2戦も継投策がハマった勝利だった。
「板山の守備固めについて岡田監督は『なんとなく代えたんや』と言っていたようですが、試合を読む力がずばぬけている証拠。
第2戦では初回4失点の秋山拓巳を5回まで引っ張り、継投でつないで最後はルーキー富田蓮が踏ん張ってサヨナラ勝ち。継投策もかつてのようにリリーフを酷使するわけではなく、令和的アップデートがされていると感じました」
お股ニキ氏が注目するのは、このアップデートの部分。12球団最高齢である65歳の指揮官が、現代風の運用やトレンドに理解を示している点だ。
「チームスローガンを『A.R.E.』(Aim!Respect!Empower!の略。優勝を「アレ」と表現する岡田監督にちなむ)でよしとするのもそう。周囲の思惑にちゃんとノッてくれています。巨人・原 辰徳監督よりもひとつ上で12球団最年長ですが、時代への理解もある印象ですね」
■燕への対抗は岡田理論。甲子園の大歓声もカギ
打てないながらも安定の投手力と岡田采配で好スタートを切った阪神。気になるのは首位を走るヤクルトだ。今季最初の直接対決は1勝1敗1分けとまさに五分だった。
「ハイレベルな3連戦でした。やはりセ・リーグはこの2強の争いになりそうです」
特に今年のヤクルトは投手力ですごみを増した。10試合終了時点でチーム防御率は0.99と驚異的だ。
「世界一に輝いた中村悠平のリードもさえわたって失点が少ない。昨季まで投手力はそこまでではなかったのに、今季は相当進化しています」
加えて、野手陣の層の厚さも増しているという。
「チーム打率こそ低いものの、塩見泰隆が故障で欠場していても、内山壮真や濱田太貴など楽しみな若手が次々に出てきている。総合的な管理・運用・采配・マネジメントに長たけたヤクルト野球が今後どうなっていくのか、とても興味があります」
安定感あるヤクルトに対し、阪神といえばここ数年、連勝がある一方で連敗も続いてしまうジェットコースター野球だった。岡田阪神1年目はこの後、どうなっていくのか?
「岡田阪神はそこまで極端な高低差はつかないはずで、ある程度は安定すると思います。ただ、去年以上にボールが飛ばない印象を受ける今季、阪神は相変わらず打てずに苦しむ試合は多そう。そこが村上宗隆、山田哲人がいて長打力もあるヤクルトとの差。あとはその差を岡田理論でどれだけ埋められるか」
戦力・戦術面以外で昨季までと違いがあるとすれば、コロナ禍で制限されていた「声出し応援」が復活したこと。ただ、阪神の場合は利点もあれば不安材料にもなりえる。
「ファンあってのプロ野球なのだから、あれだけ応援してくれるのはありがたい存在のはず。ただ、熱狂的な甲子園の大歓声は時に重圧にもなる。ここ数年、その応援から離れていただけに、適応力もカギを握りそうです」
確かに、佐藤輝明もコロナ禍の2021年入団。初めて味わう阪神の熱烈応援に萎縮するのか、それとも力に変えられるか。ファンが期待するのは、18年ぶりの「アレ=優勝」に向かって、アレよアレよと首位に立つ姿だ。