みなさんこんにちは、野球大好き山本萩子です。

蒸し暑い日が続きますね。こんな日は、授業をサボってふらりと遊びに出かけて、海辺でビールを飲んだことを思い出します。ルールは守るためにあるのですが、決められたルールの中で、ちょっとだけ逸脱するのはワクワクします。ということで、本日は野球のルール変更についてお届けします。

ある時から、ボールカウントの呼び方が変わったことに気がついた方も多いと思います。昔は2ストライク3ボールのことを「ツースリー」と呼んでいました。これは日本独自の呼び方だったそうで、世界的にはボールカウントから呼ぶのが一般的でした。

国際的な基準だと「スリーツー」。ということで、プロ野球でも2010年からは球審がボール・ストライクの順でコールをすることになりましたが、いまだにストライクカウントから先に言う癖がなかなか抜けない方もいらっしゃいますね。

ボールカウントが時代と共に変わったように、野球のルールもどんどん変化しています。

たとえば、みなさんもご存知の「大谷ルール」。これは先発投手が指名打者(DH)を兼務できるというもので、大谷翔平選手のピッチングと打撃を活かすためにMLBで生まれた新しいルールでした。日本のプロ野球でも、今年3月の2軍戦で、日本ハムの上原健太投手が投手兼DHの"二刀流"として登場。日本初の大谷ルール適用者となりました。

そして、MLBでは今年も大きなルール改定が行なわれました。

【1】「ピッチクロック」の導入

投手は、ランナーが塁にいない場合は15秒、走者がいる場合は20秒以内に投球しなくてはいけません。一方の打者は、残り8秒までに打つ準備を整えなくてはならず、打席1回につきタイムアウトは1度まで。違反した場合、投手には自動的にボール1つ、打者にはストライク1つが科されます。また、投手がけん制を3度失敗した場合、走者は自動的に次の塁に進むことができます。

これは試合のテンポをよくするためのもの。アメリカの人気スポーツの中で、野球は唯一時間制限がなく、試合時間が長くなることがあります。これがファン離れにつながっているという意見があり、試合のペースを速める目的で導入されました。

【2】より大きなベースの導入

一塁、二塁、三塁ベースが、15インチ(38.1センチ)から18インチ(45.72センチ)四方に変更されました。これは、選手が交錯することによるケガのリスクを軽減することが主な目的です。実際に、ベース周辺での選手の故障が減少したというデータがすでに出ているようです。塁間も短くなりますから、盗塁を増やし、試合をエキサイティングにする狙いもあるようです。

【3】守備シフトの制限

MLBは「ビッグデータ」を活用しているので、打者がどこに打つ傾向が強いのか、一目瞭然です。その結果、MLBでは外野4人シフトなどもよく見られるようになりました。もちろん、ターゲットにされた打者の打率は下がります。そういった極端なシフトを避けてヒットを増やし、エキサイティングなゲームになることを期待しての変更だと考えられます。

最近変更した自分ルールは、今まで無かった休肝日を最低「週2日」設けること......(笑)。 最近変更した自分ルールは、今まで無かった休肝日を最低「週2日」設けること......(笑)。

これら3つのルールは改定されたばかりですが、実際にゲームに大きな影響を与えていると感じます。

たとえば、ピッチクロックは投手に焦りを生みますし、かなり不利な状態に追い込まれていると思いました。ただ、同時に打者も投球間隔の短さに戸惑っている様子も見えて、「ああ、お互い様なんだな」と。ゲームは確かにテンポよく進みますから、見ていて心地いいという意見も多くあり、MLBの狙いは成功と言えますね。

ひとつ気になることがあるとしたら、無機質に時間を計測することで、野球というスポーツの素晴らしさを排除してしまう可能性があるのではないか、ということです。

先日、ドジャースからカブスに移籍したベリンジャー選手が、ドジャースのホームスタジアムに凱旋した時のこと。MLBでは移籍した偉大な選手が、前チームと最初に対戦する時はスタンディングオベーションで迎えるのが一般的です。しかしこの時、ピッチクロックに違反したとしてストライク取られてしまったんです。さすがに、これにはファンも不満を隠せず、怒りの矛先は審判へと向かいました。

他の球場でも同様のケースがあったのですが、その時はストライクがカウントされませんでした。事前に「クロックをスタートさせない」などの申し入れがあったようで、この先はそういった柔軟性が求められるようになるでしょうね。

極端な守備シフトは、もともと弱小球団が苦心の末に編み出したものでした。スター選手が揃えられないチームは、多少トリッキーなことをしないと勝つのが難しいですが、その戦法が有効だとわかると全チームに広がり、野球の面白さが少し奪われる結果になってしまいました。

極端な守備隊形によって、内外野で素晴らしい才能を持つプレーヤーの活躍の場を奪っている、という意見もあったようです。守備範囲の広さが売りの日本人選手も、この守備隊形では見せ場が少なくなってしまう可能性がありますから、シフトの制限は朗報かもしれません。

ルール改訂はいいように作用すると思いますが、それに即した新しい戦術も生まれるでしょう。そういう"イタチごっこ"も楽しいです。

MLBのいいところは、変化することに抵抗ないところ。いいと思ったものはどんどん取り入れて、ダメだったらすぐに撤回する。そうやってアメリカで淘汰されたものが、やがて日本にやってきます。

幼い頃、友達とトランプをやる時に、みんなで話し合いながら少しずつローカルルールを追加して、みんながもっと楽しめるゲームを作り出したように、これからも野球が面白くなるようにルールはどんどん変わっていくと思います。変更されたルールを詳しく知ると、野球がもっと楽しくなると思いますよ。

それではまた来週。

★山本萩子(やまもと・しゅうこ)
1996年10月2日生まれ、神奈川県出身。フリーキャスター。野球好き一家に育ち、気がつけば野球フリークに。
2019年より『ワースポ×MLB』(NHK BS1)のキャスターを務める。愛猫の名前はバレンティン

★山本萩子の「6-4-3を待ちわびて」は、毎週土曜日朝更新!