WBCに負けず劣らず、今季はMLBの日本人プレーヤーたちがアツい! 初挑戦の3人を含むメジャー契約8選手に、マイナー契約の筒香嘉智、そして"たっちゃん"ことヌートバーを加えた10人の最新情報を、MLBジャーナリスト・AKI猪瀬がディープにお届けします!
■大谷翔平(おおたに・しょうへい)
エンゼルス (ア・リーグ西地区)
28歳・メジャー6年目
投手・大谷に関して注目されているのはメジャーで最も速く、かつ最も大きく曲がる「スイーパー」(今季から認定された新球種)。また、それと逆方向に曲がる「ターボシンカー」もメジャー最速の160キロ前後。
ここに160キロ超のフォーシーム、必殺のスプリットを加えた4球種は、どれかひとつあれば十分メジャーのローテーション投手になれるレベルです。いよいよ投手としての理想像が見え始めた印象で、シーズンが進めばさらに圧倒的な投球を見せてくれるでしょう。
一方、打者・大谷は今季からバットを少し長いものに変えた。手元で動く速いボールへの対応に絶対の自信があり、打者として理想像に近づいているからこそでしょう。菊池雄星(ブルージェイズ)の内角のボール気味のスライダーに長いバットを遅らせて出し、逆方向に打った第3号ホームランは、普通では考えられない技術です。
MLBは今年、初めて全30球団が対戦する日程を組みました。最大の理由は、大谷という商品を全米に届けること。今やMLBは大谷を中心に動いているんです。
■千賀滉大(せんが・こうだい)
メッツ (ナ・リーグ東地区)
30歳・メジャー1年目
デビュー戦ではスライダーやカット系の球種を制御できず苦労しましたが、それでも"ゴースト・フォーク"は効果てきめんで見事、勝利投手に。次の登板でも同じマーリンズ相手にフォークで奪三振ショーを演じました。
今季は全球団と対戦する日程のため、先発投手が同チーム相手に投げるのは最大2回程度で、多くは初対戦。フォークの精度さえ保てればかなりの活躍が期待できます。
メッツはヤンキースとは真逆の"下町のやんちゃチーム"で、みんなが自由に振る舞う。ともすればクラブハウスでは人種ごとに固まりがちで、過去には日本人選手が孤立したケースもありました。
しかし、ショーウォルター監督は非常に厳しく、規律の乱れは絶対に許しません。千賀が臆することなくチームにハマっていけば、最高のパフォーマンスを発揮できるでしょう。
■吉田正尚(よしだ・まさたか)
レッドソックス(ア・リーグ東地区)
29歳・メジャー1年目
レッドソックスが吉田を高く評価しているポイントは、四球が多く出塁率が高いことと、コンタクト技術が高く空振りが少ないこと。開幕後しばらくして打率が下がってしまいましたが、この2点は健在なので、打球角度の部分で少しアジャストしていけば問題はないでしょう。
むしろ高めのフォーシームに苦しむとの予想もありましたが、第1号ホームランはその高めを叩いてグリーンモンスターの上まで飛ばしました。
今季のレッドソックスは戦力的に苦しく、ポイントゲッターとして期待できるのがディバースと吉田くらいしかいないため、当面はディバースの後ろに置かれ、WBCで大谷の後ろを打ったのと同様の役割が期待されるようです。
ただ、今後1番のバードゥーゴの打率が下がってくれば、吉田が1番を打つケースも出てくるかもしれません。
■藤浪晋太郎(ふじなみ・しんたろう)
アスレチックス (ア・リーグ西地区)
29歳・メジャー1年目
まだ阪神時代のトラウマがあるのか、四球から急に崩れることがありますが、ボール自体は最初の登板から素晴らしい。メジャーの指導者は欠点を直すよりも長所を広げることを求めるので、細かいことを気にせずガンガン押していくメンタルが確立できれば、この先は期待できます。
そして、今季の最大の目標は「7月末の移籍期限までに"外"へ出ること」。予算が少なく上位争いも望めないアスレチックスが藤浪と契約した狙いは、地区優勝争いをするチームのプロスペクト(有望な若手)とのトレードです。
7月までの15回程度の先発登板でいいものを見せ、移籍先でも上位争いの中で活躍できれば、オフには市場価値がグンと跳ね上がります。
■鈴木誠也(すずき・せいや)
カブス (ナ・リーグ中地区)
28歳・メジャー2年目
大谷とは反対に、鈴木はバットを少し短いものに変えています。手元で動くボールにアジャストしやすくする狙いですね。彼は打撃に関して「データより感覚を重視する」と言っていましたが、"目と手の連携"が素晴らしい選手。
昨季積み上げた感覚をもとに体を大きくしてパワーをつけ、調整をし、その結果が復帰初戦でのホームラン。今季はかなりやってくれるでしょう。
また、MLBでは今季から牽制球を最大2回までに制限するルール変更があり、盗塁数は大幅に増える見込み。これは走攻守そろう"和製トラウト"の触れ込みで入団した鈴木にも大いにプラスに働くはずで、ぜひ30本塁打-30盗塁を目指してほしいと思っています。
■ダルビッシュ有(ゆう)
パドレス (ナ・リーグ西地区)
36歳・メジャー12年目
6年総額1億800万ドル(約142億円)、42歳までの長期契約の成立は日本でも話題になりました。プレラーGMはダルビッシュの徹底した体調管理や研究熱心さをよく知っており、今のところまったく衰えない平均球速が仮に数年後に落ちたとしても、"新しいダルビッシュ"になってくれるとの確信があるのでしょう。
今季はWBCで自身の調整よりも侍ジャパンへの貢献を優先したためまだ本調子ではありませんが、球団創設55年目で悲願のワールドシリーズ初制覇を目指すパドレスにとって、勝負は地区優勝争いが本格化する夏以降。
5、6月頃に「これぞダルビッシュ」という状態になってくれればなんの問題もない――それくらいの信頼感があります。
■菊池雄星(きくち・ゆうせい)
ブルージェイズ (ア・リーグ東地区)
31歳・メジャー5年目
スプリングトレーニング・ゲーム(オープン戦)では防御率と奪三振数の2部門でメジャートップだった好調さを維持し、コマンド(制球)が非常によくまとまっている(大谷に打たれたのも甘いボールではありません)。
メジャー5年目で最高の状態で、初の10勝は十分に射程内です。頭のいい選手なので考えすぎてしまう傾向もあるのですが、オフもアメリカでトレーニングをしてきて、今はいろいろなものがクリアになっているのでしょう。
ア・リーグ東地区はレイズ、ヤンキース、ブルージェイズの三つどもえの優勝争いが予想されるので、初のポストシーズン登板にも期待しましょう。
■前田健太(まえだ・けんた)
ツインズ (ア・リーグ中地区)
35歳・メジャー8年目
トミー・ジョン手術明けとなる今季の前田ですが、開幕直後の2試合のデータを見ると、主軸となるスライダーのスピンレート(回転数)や平均球速は手術前の2021年シーズンよりも上がっており、ボールの質が向上しています。
これは不安なく思い切って腕を振れているということですから、その点ではひと安心ですね。もちろんトミー・ジョン明けのシーズンはどうしても"肘の体力"が戻り切らず、張りが出たり、握力が急になくなったりということがありますが、それは球団も織り込み済み。
今季は慎重に状態を見ながら25先発、150イニング程度が目安になるでしょうし、それくらい投げられれば、前田なら自然とそれなりの結果もついてくるはずです。
■筒香嘉智(つつごう・よしとも)
レンジャーズ傘下3Aラウンドロック
31歳・米球界4年目
マイナー契約で40人のロースター枠にも入れず、同タイプの選手がほかに何人もいる。今の筒香の位置づけは、厳しいですが「メジャーで故障者が出た際の補充要員」です。ただ、レンジャーズの外野陣は盤石ではない。
あえて日本に戻らず"野球の探究者"として今の立場を選んだ彼は、昇格のチャンスを逃すことのないよう、3Aでしっかり準備をしておくことに集中するはずです。
■ラーズ・ヌートバー(Lars Nootbaar)
カージナルス (ナ・リーグ中地区)
25歳・メジャー3年目
侍ジャパンで大騒ぎになる前から、ヌートバーはMLBの公式HPで「今季ブレイクする若手」として取り上げられる注目選手でした。しかし、カージナルスの組織力はメジャー最強。
WBC出場と開幕直後のケガで不在の間にジョーダン・ウォーカーという20歳の新星がとんでもない活躍を見せ、現状ヌートバーの立場は外野の3、4番手というところです。
とはいえ、彼には外野3ポジションをすべて守れるというストロングポイントがありますから、よりスケールの大きな選手になって3年後、侍ジャパンに帰ってきてほしいですね。
●AKI猪瀬(あき・いのせ)
年間150試合に及ぶMLB解説でおなじみ。WBCではニッポン放送で侍ジャパン全試合を解説。新著『大谷翔平とベーブ・ルース 2人の偉業とメジャーの変遷』(角川新書)が発売中