初登板で快投、2戦目は炎上。まだ日本野球への対応段階ではあるが、実力の片鱗はすでに見せている。そして、今後はキャラの部分でも真の姿が.....!? ウィキペディアや公式媒体ではわからないバウアーの魅力をたっぷり深掘りします!
■グッズは即完売。「草」もすでに理解
ついに、バウアーが投げた。
横浜DeNAベイスターズのトレバー・バウアーが、5月3日の広島戦で1軍デビュー。現役バリバリどころか、受賞からわずか3年の"サイ・ヤング賞ほやほや"のメジャーリーガーのお披露目は、まるでWBCの延長戦のような興奮があった。
横浜スタジアムは3万3202人と過去最多の入場者数を記録し、試合前からグッズショップには長蛇の列。
「バウアー選手のグッズは前日に販売開始したのですが、各種Tシャツや選手名タオルなどはすぐに完売。トートバッグなどがわずかに残っているだけで、追加販売も未定です」(グッズショップ店員)
試合開始に先立って先発・バウアーの名前がコールされると、カープファンも含めた大歓声。1回表のカープ攻撃時にはコンコースから人影が消え、すべての目がバウアーの一挙手一投足に注がれた。
結果は2回に元同僚のデビッドソンに打たれたソロ本塁打の1点だけで、7回98球、毎回の9奪三振で初登板初勝利。球団職員も「こんな歓声を聞いたのは初めて」と驚き、選手たちはハイタッチを交わして引き揚げてきたロッカールームでお祭り騒ぎだ。
そして、お立ち台でもエンターテイナー。「ヨコハマシカカタン(横浜しか勝たん)!」とチームメイト(バウアーは個人名を明かさなかったが、おそらく上茶谷大河(かみちゃたに・たいが)に教わった言葉を叫んだが、「どういう意味かは事前に通訳に確認した」というクレバーさも持ち合わせる。
「このスタジアムで投げるのが本当に楽しい」と上機嫌で初登板を締めくくると、4日後には『今までプレーした試合の中で一番面白かった』と題した動画を自身のYouTubeチャンネルにアップした(ちなみに練習中は右耳に小型カメラを装着している)。
野球以外でもポケモンセンターに出かけたり、「草」というネットスラングの意味を理解して取り入れようとしたりと、日本文化になじもうとする姿勢も素晴らしく、すでにベイスターズファンの間では"聖人"とも称される。
しかし、2021年に女性への暴行疑惑から出場停止処分を受け、司法では不起訴となるもMLB各球団から獲得を見送られた経緯があって来日したバウアー。実戦から1年半も離れていたことになるが、投手としての実力、そして何かと騒がれがちなキャラクターの実態は?
■"受け入れる能力"が飛び抜けて高い
「5試合ぐらい投げてみないと本当の力はわからないですね。初登板を見た限りでは本領発揮とまではいきませんが、投手としての能力の高さを所々で見せてくれました」
そう分析するのは、ファームでの2戦目、1軍初登板、新潟での2戦目と、現地でバウアーの投球を視察している元ベイスターズの野球解説者・野村弘樹氏。
「初登板も決して調子がいいとは思えなかった。1年半ぶりの公式戦、かつ日本デビュー戦ですから、さすがに緊張していたように思います。ストレートも全体的に高く浮いているし、スライダーも抜け気味。ただ、7安打されても要所を抑えるピッチングのうまさはさすがでした」
初登板の日の朝には鼻血を出すほど興奮していたというバウアー。ストレートは最速155キロ、コンスタントに150キロ台を記録するも、高めに浮いたところをカープ打線がとらえて7安打。大きなピンチを2度迎えたが、変化球で三振を奪い切り抜けた。
「押すところと引くところの使い方がうまい。コントロールが定まらなくとも、ランナーを出しても点は与えない。まとめる力がありますね」
ファームでバウアーに単独インタビューをした野村氏は、実際に言葉を交わす中で感じたことがあるという。
「"受け入れる能力"がものすごく高いように思います。過去の外国人選手と比べても、環境や結果などに対してネガティブなことは絶対に言わない。
例えば、地方球場のマウンドは軟らかくて掘れてしまうからイヤがる人が多いですが、バウアーはファームで平塚球場で投げた際も『そんなことは子供の頃にいくらでも経験している。問題なくアジャストしていける』と、意に介さない。
ルーキー捕手・松尾汐恩(しおん)のサインに首を振る場面が多かったのも、『首を振るのはメジャー時代からやってきたこと。松尾は素晴らしい捕手だ』と。アメリカではいろいろあったみたいですが、メジャーの第一線で活躍する選手の受け答えはこうなんだろうなと思わされました」
9日の巨人戦では、3本塁打を含む6回11安打7失点と打ち込まれるも、「今はアメリカ時代のスタイルを続けているが、日本の野球やバッターに何が有効なのか学んでいかないといけない」と、冷静に反省を口にした。
「本人は『中4日でも中3日でもいける』と言っていますが、わがままをゴリ押しする感じでもない。三浦大輔監督らともリスペクトし合ってコミュニケーションが取れているようです。若い投手たちとも積極的に話をしているようだし、あれだけ研究熱心に野球をやる選手ですから、勉強になることは間違いないでしょう」(野村氏)
■努力とこだわりのピッチングオタク
「ピッチングはもちろん、サービス精神もサイ・ヤング賞クラス。あんなに見ていて面白いピッチャーはいない。日本でも変わらない"バウアーぶり"で、僕はうれしいです」
そう語るのは、メジャーリーグ好事家で大のバウアーファンでもある勅使川原(てしがはら)克典氏。
「暴行事件の報道で誤解されがちですが、悪党でもイヤなやつでもありません。こだわりが強く多少エキセントリックな面はありますが、それも圧倒的な才能や体格に恵まれたわけでもない選手が、ピッチングオタクとして努力と研究でここまでのし上がってきた過程があったからこそです」
子供の頃から「どうすれば野球がうまくなるか」をずっと研究してきたバウアーは、動作解析の研究施設「ドライブライン」をいち早く訪れるなど、珍しいトレーニングや物理学的なアプローチを積極的に取り入れてきた。
「ドラフトの時点で複数のMLB球団と面談し、契約金よりも、自分のトレーニング方法を許してくれるかどうかを確認してダイヤモンドバックスに入団しています。
ただ、1年目にしてベテラン捕手のサインに首を振り、『もっと自分の投球スタイルを理解してほしい』とコメントしたことが逆鱗(げきりん)に触れ、GMの交代もあってダイヤモンドバックスから放出されている。自分の力を発揮するためのこだわりの強さから"問題児"のレッテルを貼られてきたんです」
その後も主張の強さと過剰なサービス精神ゆえ、降板を告げられたマウンドから大遠投してバックスクリーンにボールを放り込んだり、片目をつぶって投げてみたり、ほかの選手とSNSでやり合ったりと話題には事欠かない。
「ツイッターで自分のことを嫌いだと言った女子大生の過去投稿を掘り返して未成年飲酒を暴露するなど、やるとなれば全力でやり返すこだわりの強さは感じます。しかし、問題行動はあっても、本当に性格が悪いなとか、陰湿だなとは感じさせない。アンチも多いですが、それ以上にファンも多いですよ」
マウンド上での注目のひとつが、三振を奪ったときに時折繰り出される、剣を振り下ろすポーズの「ソードセレブレーション」。日本でもファームではこのパフォーマンスで場内を沸かせたが、相手へのリスペクトを欠く挑発行為だと取る人たちもいる。
「バウアーはそういうことをやるのもやられるのも大好き。かつてティム・アンダーソン(ホワイトソックス)のホームランパフォーマンスである"バットフリップ(バット投げ)"が挑発行為だとして問題になった際も、バウアーは公然と擁護しました。
メジャーリーグでは多くの言動が『バウアーだからしょうがない』という特別枠みたいな感じもありましたが、日本ではどうなるか。ただ、頭のいい選手なので、空気を読んで対応すると思います。
ちなみにソードセレブレーションを1軍デビュー戦でやらなかったことについて、本人は『発動する条件じゃなかった』と言っていますが、確かにメジャーでも、ハーフスイングで三振を取ったときにやっていました。マウンドの上でも、降りた後も、目が離せないワクワク感がありますよね」
最後に、前出の野村氏が今後への期待を語る。
「2試合だけではまだまだ実力の底は見えませんが、非常にクレバーな投手。最後はアメリカで頑張りたいという思いはあるでしょうから、この1年は『これだけ投げられる』というアピールの場でもあります。これからは研究と対策を施した真剣な投球が見られるでしょう。楽しみですよ」
●トレバー・バウアー(Trevor BAUER)
1991年1月17日生まれ、米LA出身。大学在学中にMLBドラフト全体3位でダイヤモンドバックスに指名され、2012年にメジャーデビュー。その後インディアンス、レッズ、ドジャースでプレーしMLB通算83勝69敗。20年にコロナ禍の短縮シーズンながらサイ・ヤング賞を受賞。先進的なトレーニングや解析を好む投球オタクで、中3日制の提唱者であり、YouTuber・ツイッタラーでもある。21年に女性に対する暴行疑惑が発覚し(後に証拠不十分で不起訴)、今季途中までMLB出場停止処分中。DeNAとの1年契約(年俸4億円)にはグッズや個人ファンクラブなどの共同展開が含まれる