ヴィッセル神戸好調の要因をフカボリ! ヴィッセル神戸好調の要因をフカボリ!
不動のボランチとしてジュビロ磐田の黄金期を支え、2006年開催のドイツワールドカップには、日本代表の中心メンバーとして出場。日本サッカーが世界水準へと飛躍していく瞬間をピッチの中央から見つめていた福西崇史。 

そんな福西崇史が、サッカーを徹底的に深掘りする連載『フカボリ・シンドローム』。サッカーはプレーを深掘りすればするほど観戦が楽しくなる! 

第53回のテーマは、現在J1で首位を走るヴィッセル神戸について。元日本代表の大迫勇也選手を中心に、リーグを席巻している神戸の新スタイル、好調の要因を福西崇史が解説する。

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今季のJ1もシーズンの約1/3を消化し、各クラブの戦力や好不調の具合が見えてきました。その中で現在(第13節終了時点)首位に立っているのがヴィッセル神戸です。昨季は一時残留争いを演じるまで下位に沈み、苦しいシーズンを送った神戸でしたが、今季はまったく違うチームに変貌を遂げています。

神戸といえばアンドレス・イニエスタ選手を中心に、DFラインのビルドアップからボールをしっかりと繋ぐ、ポゼッション重視でゲームをコントロールするスタイルが代名詞でした。

しかし、昨季はイニエスタ選手をはじめ、セルジ・サンペール選手など、中心となる選手が怪我で離脱し、自分たちのスタイルを思うように表現できなくなっていました。そこで昨季途中から指揮を執る吉田孝行監督は、ポゼッション重視からスタイルを変える決断をしました。

ベースにあるのは守備です。前線からハードワークを惜しまずにプレスをかけ、相手のボールの流れを限定し、しっかりとボールの取りどころをチームで定めて奪い切る。昨季と比べて守り方がチームではっきりして、強度がグッと上がったことは大きいと思います。

神戸は攻撃では4-3-3のシステムですが、守備になると中盤の井出遥也選手が1列前へ出て、大迫勇也選手と2トップのような形となり、4-4-2のシステムに可変していきます。

前の2人で追い込み、場合によっては両サイドの武藤嘉紀選手、汰木康也選手も前に出て相手を捕まえにいく。後ろに山口蛍選手と齊藤未月選手といった広範囲にカバーできる選手が控えていることで、前の選手たちは思い切って「ここ」という狙いどころに高い強度でプレスに出ていけています。

ボールを奪えば大迫選手にシンプルに当てる、あるいは両サイドで張った武藤選手、汰木選手にロングフィードを入れる。攻守にやることが非常に整理され、選手に迷いがなく、局面ごとに割り切ってプレーができています。

そうした堅守速攻を武器に、第12節を終えて26得点・8失点はどちらもここまでリーグ1位の数字です。これまでの自分たちがボールを握ることありきのスタイルとは真逆とも言えるスタイルがハマり、破竹の勢いで勝点を積み重ねています。

サッカーのスタイルだけでなく、好調の要因の一つに大迫選手の復調、コンディションの良さが挙げられると思います。前線からの守備でハードワークしながら持ち味であるキープ力でカウンターの起点となったり、不利な状況下で時間を作ってくれるのはチームを非常に助けています。

また、エースストライカーらしくフィニッシュのところでも質の高さを見せ、得点を量産。彼のチームへの貢献度は計り知れません。

さらに両ウイングの武藤選手と、汰木選手もハードワークに加えて、ドリブルの推進力・打開力が相手にとってかなりの脅威となっています。

今季から中盤に齊藤選手と井出選手が加わったことも同様。彼らと山口蛍選手を加えた中盤の3人が守備でひたすら相手にプレッシャーをかけ、攻撃になれば果敢に前へ出ていける。あれだけの攻守にわたる運動量と強度は、Jリーグの中で屈指のクオリティがあります。

他にも守備ラインにはオールラウンドに能力の高い酒井高徳選手、左右両足で高いキックの質を持つ初瀬亮選手、左足の高いフィード能力を持つ本多勇喜選手など、特徴があり、クオリティの高い選手たちが多く揃い、なおかつそれぞれにやりたいこと、得意なことがチームのスタイルにうまくマッチしていると感じています。

細かなコミュニケーションが取りやすい日本人選手でメンバーを揃えたことで、これだけ早く戦術が浸透し、チームがうまくまとまったという側面もあると思います。ここまでまとめあげた吉田監督のマネージメント能力も特筆すべきものがあります。

第9節で昨季王者の横浜F・マリノスとの対戦は非常に見応えあるものでした。序盤は横浜FMの渡辺皓太選手、喜田拓也選手の位置が低く、前線が孤立する場面を多く作られ、神戸の狙いがハマっていました。

それに対して横浜FMは水沼宏太選手が中に入ってみたり、アンデルソン・ロペス選手とマルコス・ジュニオール選手が入れ替わってみたり、齊藤選手が動いた脇のスペースを活用したり、畠中槙之輔選手が中盤を飛ばすような鋭い縦パスを入れ出したりと、さまざまなせめぎ合いが見えるようになりました。神戸のサッカーに対しての対策、リアクションがハイレベルで、非常に面白い試合でした。

今後、神戸のサッカーの対策をしっかりと講じてくるチームが増えてくるのは間違いありません。例えば大迫選手をガッチリ抑えられたらどこで起点を作るのか。横浜FMのようにどんどん変化させてきたときにそれに対応できるのか。そこの引き出しはまだ時間はかかると思いますが、能力の高い選手は多いので、修正していくことも可能でしょう。

また、イニエスタ選手やサンペール選手など、復帰してきた選手たちのコンディションが整ったとき、彼らをどのように今のチームに加えていくか。これだけ調子が良いと、スタイル、メンバーを変えるというのは難しいし、違う選手を入れたことでスピード感やリズムが変わってチーム全体が機能しなくなるというのは往々にしてあります。

イニエスタ選手が終盤で使われることもありますが、難しいボールを収める技術はさすがだなと思わせる一方で、正直まだフィットできていないのは否めません。コンディションがまだ上がっていないし、今のチームのスタイルに彼の特性が合っていないというのもあるでしょう。

だからといって、彼をこのままにしておくのももったいない。試合の中でチームが行き詰まり、流れを変えたいときにイニエスタ選手はうってつけの交代カードです。

スタートはテンポの早い堅守速攻スタイルで入り、相手に対策されたときにイニエスタを入れてまったくリズムのことなるサッカーを展開するといったように、今のスタイルをベースに彼を融合させることができれば、ものすごくチームの引き出しは増えると思います。

ただ、当然ハイプレスをどう維持するのかといった問題は出てきます。神戸がこのまま首位をキープするためには、吉田監督がこれからどのようなマネージメントでチームをさらに進化させていくのかにかかっていると思います。

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