野球の目的は点を取ることです。チャンスの場面で打者がバッターボックスに立つと、ホームランやヒットに期待してしまいますし、チャンスでの凡打や三振はがっかりしてしまいます。

バッティングの結果はアウトか出塁の2択しかありません。追い込まれたカウントでバットを回転させた次の瞬間には、ヒットか、凡打か、あるいは三振か......となります。

ただ、そのどれにも当てはまらないケースがあります。それが「ファウルボール」です。

みなさんこんにちは、野球大好き山本萩子です。球場で観戦する際には、客席に飛び込んでくるファウルボールはとても危険です。応援団のみなさんの笛にはどれだけ助けられていることでしょう。

ファウルは"打ち損じ"のイメージが強いかもしれませんが、2ストライクからのファウルは打者にとって「助かった」といえます。凡退してしまったらアウトカウントがひとつ増えますが、打席に立っている限りは何かが起こる可能性があるので、ファウルでその権利を手にしたともいえますね。

ファウルボールで打者の調子がわかることがあります。よく耳にするのが、ファウルがバックネット方向にまっすぐ飛んでいくと、解説者の方が「投手とタイミングが合っている」というコメントする場合が。

ヤクルトの山田哲人選手は調子が悪い時、ファウルがなかなか打てず、凡打が増える傾向があります。ファウルの場合も打球に勢いがありません。一方で調子がいい時は、1塁、3塁側のスタンドのファウルゾーンにもに角度がついた山なりの打球が飛びます。そんなファウルを打ち出したら、「この打席は期待できるぞ」と思ってしまいます。

同じヤクルトの濱田太貴選手は長打力がある選手なので、追い込まれるまではガンガン振っていきますが、追い込まれてからは際どい球をコンタクトする方向に切り替え、甘い球を待って打つ感じになります。5月5日のDeNA戦では、8回に起死回生の同点3ランを放ちましたが、最初の2球で追い込まれてから、実に7球もファウルで粘って見事なアーチを架けました。

レッドソックスの吉田正尚選手のように、そもそもファウルが少ない選手もいます。つい最近も、吉田選手は空振りが少ないことで話題になりましたが、同じようにファウルも少ないんです。ボール球は見逃し、甘いボールは必ず仕留める。これはとびきりの選球眼がないとできないことです。

しかし、多くの野球選手が吉田選手と同じような才能を持っているわけではありません。

「カット打法」という「戦法」が甲子園で話題になったのは2013年のこと。バットを極端に短く持ち、厳しい球をすべてファウルにして甘い球を仕留める。あるいは四球での出塁を狙うというもので、これは体が小さかったり、打撃力に自信がない選手が出塁するには有効な技でした。

ファウルひとつとってもこれだけ奥深いのだから、野球ってやっぱり面白いですよね。ファウルひとつとってもこれだけ奥深いのだから、野球ってやっぱり面白いですよね。

しかし、カット打法を得意とした打者が高野連から注意を受けるという異例の展開で、野球ファンの間でも賛否両論が巻き起こりました。その中で印象に残っているは、「カット打法は誰にでもできることではなく、小柄な選手が血の滲むような努力をして獲得した技術だ」という意見でした。

プロ野球の選手でも、「ファウルゾーンに打ってみなさい」と言われると難しいそうです。あえてファウルを打つのは、もはや技術なんです。

ヤクルトの山崎晃大朗選手に先日インタビューした時に、ホームランバッターではない自分の仕事は「塁に出ること」だとはっきりと言っていました。そして、塁に出ること以外にも、投手にたくさん球数を投げさせることも同じように大事にしていると。

その結果気がついたのがファウルの重要性でした。山崎選手が取り組んでいるのが、ボールをギリギリまで見て呼び込んで打つ練習。手元までボールをしっかりと見て、ボールが来た方向から真横90度のファウルゾーンに打つ。それをひたすら繰り返していました。これはヤクルトのレジェンド・宮本慎也さんから教わった練習だそうです。

ファウルが多いと試合が長くなるため、時短を叫ぶ最近の野球界のトレンドとは逆行しているかもしれません。ただ、投手としては、何度もファウルで逃げられる打者との対戦は、ボディーブローのようにきいてくるはずです。しかも粘られた末に四球を与えてしまったら、ガクッときますよね。野球はチームスポーツですから、そういうふうに勝利に貢献する選手がいるのはとても素晴らしいことだと思います。

日本とメジャーのファウルに対する考え方の違いも面白いので、ご紹介させてください。何球も粘った末に三振すると、ため息が出るのが日本。一方で、たとえ結果が三振でも、粘って投手に球数を投げさせたことを評価して拍手が起きるのがメジャー。あちらでは、フルカウントになって、ファウルを打つだけで球場が沸きます。

これはメジャーの投手たちの球数が、故障を防ぐ目的で100球を目安に制限されていることも影響しているので、一概には言えませんが、ファウルの捉え方の大きな違いであると思います。

先ほどの山崎選手のように、粘って粘って塁に出るタイプの選手が2番に入っていたら、相手チームのバッテリーは嫌だろうな、と私でも思います。すでに日本のファンでも実践している方は多いと思いますが、これからはファウルに対しても大きな拍手を送るようにしてみませんか?

ということで、今回はファウル礼賛のススメでした。それではまた来週。

★山本萩子(やまもと・しゅうこ)
1996年10月2日生まれ、神奈川県出身。フリーキャスター。野球好き一家に育ち、気がつけば野球フリークに。
2019年より『ワースポ×MLB』(NHK BS1)のキャスターを務める。愛猫の名前はバレンティン

★山本萩子の「6-4-3を待ちわびて」は、毎週土曜日朝更新!