阪神に移籍した大竹はソフトバンク時代、5年で10勝9敗1ホールド。しかし今季はボールに力強さが増し、開幕5連勝で先発陣の牽引役に 阪神に移籍した大竹はソフトバンク時代、5年で10勝9敗1ホールド。しかし今季はボールに力強さが増し、開幕5連勝で先発陣の牽引役に

昨年12月に初めて行なわれた「現役ドラフト」で、人生を好転させた男たちがいる。

出場機会に恵まれない選手の移籍を活性化し、新たな活躍の場を与えるのを目的として、日本野球機構(NPB)とプロ野球選手会の数年にわたる話し合いの末に導入された制度。各球団、「必ずひとりは出て、ひとりは入る」仕組みだ。

成功者の代表格は、ソフトバンクから阪神に移った大竹耕太郎だろう。5月13日、雨が降る甲子園球場で行なわれたDeNAとの首位攻防戦では6回4安打1失点で、その時点で両リーグ最多の5勝目を挙げ、防御率は0.59。開幕からの5戦5勝は球団史上3人目の快挙だ。

「相手は首位。絶対に勝ちたいという気持ちでした。雨はしょうがない。割り切って、逆に元気が出るくらいの気持ちでいきました」

前所属のソフトバンクには、2017年の育成ドラフト4位で入団。1年目途中に支配下登録され、翌年には先発ローテーションも担ったが、3年目以降は大半がファーム暮らしだった。

しかし、単にアピール不足だったとはいえない。20年は2軍のウエスタン・リーグで最多勝、防御率1位、最高勝率と「投手三冠」に輝いたし、21年も同リーグで2位の8勝を挙げた。

それでも1軍は遠かった。ソフトバンク先発陣の層の厚さに阻まれたのも理由だが、大竹自身の投球スタイルが首脳陣に求められるものとイマイチ合致しなかった。

パ・リーグは〝パワー系の野球〟だ。特に近年は150キロ台中盤を投げる投手も珍しくない。だが、大竹のストレートは140キロそこそこ。緩急やコースの出し入れが武器だが、それがあまり好まれなかった。

大竹もニーズに応える努力はした。先輩の和田 毅に弟子入りして肉体改造を行なった。だが、球速は急には上がらない。

2軍の好結果から、ローテーションの谷間でたびたびチャンスは得たものの、そのマウンドには一発勝負の重圧がかかる。よけいな力みから生命線の制球を乱し、失点するという悪循環で、再び2軍落ちが何度も続いた。

阪神に移り、セ・リーグの野球が肌に合ったのも活躍の一因だろう。また、肉体改造の成果もここにきて表れはじめ、直球がスピードガン以上に力強くなっている。先述した今季5勝目は、早稲田大の先輩でもある岡田彰布監督に通算600勝をプレゼントする白星にもなった。

「うれしいし、胴上げのために頑張りたい。次回以降も全身全霊で投げます」

今や大竹は、チームが目指す「アレ(=優勝)」のために欠かせぬ貴重な戦力だ。

DeNAの2軍で結果を残し、大砲候補として期待されていた細川は中日でブレイク。得点力不足に悩むチームの主軸を担い、打点を稼いでいる DeNAの2軍で結果を残し、大砲候補として期待されていた細川は中日でブレイク。得点力不足に悩むチームの主軸を担い、打点を稼いでいる

打者で成功しているのは、中日に移籍した細川成也。前所属のDeNAでは高卒1年目の17年に1軍で初打席本塁打。翌日も一発を放ち、「デビューから2試合連続本塁打を放った初の高卒新人選手」の称号を得た。

また、4年目の20年に2軍のイースタン・リーグで本塁打と打点の二冠王になるなど、2軍では4年連続2桁本塁打をマーク。大砲候補として期待され続けたが、DeNA時代の6年間は通算6本塁打、41安打に終わった。

それが、今回の中日移籍を機に才能を開花。打率.299はセ・リーグ13位(成績は5月16日時点。以下同)。チームでは打点(16打点)がトップで、中日の3番打者に定着している。同13日のヤクルト戦では待望の移籍1号も放った。

細川は好調の理由について、「和田(一浩)コーチの教えのおかげ」と口にする。恩師である明秀学園日立高・金沢成奉監督と和田コーチは東北福祉大のOB同士。そのため細川は、DeNA時代から解説者として球場を訪れる和田氏に、たびたび声をかけてもらっていたという。縁とはつくづく不思議なものである。

ほかにインパクトを残したのは、巨人入りしたオコエ瑠偉だ。15年にドラフト1位で楽天に入団し、結果は残せなかったものの、類いまれな身体能力の高さは誰もが認めるところ。現役ドラフトの中でも「目玉」とされた男は、春季キャンプの実戦、オープン戦で結果を残し、開幕戦に1番スタメンで名を連ねた。

4月9日の広島戦では移籍1号の先頭打者ホームラン。移動日を挟んだ11日の阪神戦では3安打の猛打賞。13日の同カードでも3安打を放つなど、4月中旬までは3割台中盤の打率を残す活躍で、巨人のリードオフマンとして十分な働きを見せていた。

だが、4月下旬になると打率が急降下。ベンチスタートも増え、5月8日に出場選手登録を抹消された。不調でやむをえない措置だったとはいえ、ファンからは「足と守備では使える」「もう少し我慢できないのか」など疑問を呈す声も。

楽天時代は〝アンチ〟の声も目立つ選手だったが、現役ドラフトを経て、背水の陣の思いで野球に取り組む姿勢が周囲にも伝わっているようだ。

その巨人から広島に移籍した戸根千明も、チームの戦力になっている。4月15日のヤクルト戦では、653日ぶりの白星を手にした。さらに中継ぎの記録であるホールドも4年ぶりにマーク(4ホールド)。〝左キラー〟として知られた左腕は、投げっぷりのよさでブルペンを支えている。

昨年の現役ドラフトでは計12名が移籍を果たした。プロ野球シーズンはまだ半ばに差しかかる頃。残る8名も新天地での活躍を夢見て腕を磨いているところだ。

選手は、1チームのみならず球界全体にとっての大事な財産。現役ドラフト導入にあたり、一時は負の要素も懸念されたが、ふたを開ければ大成功だったといえるのではなかろうか。