不動のボランチとしてジュビロ磐田の黄金期を支え、2006年開催のドイツワールドカップには、日本代表の中心メンバーとして出場。日本サッカーが世界水準へと飛躍していく瞬間をピッチの中央から見つめていた福西崇史。
そんな福西崇史が、サッカーを徹底的に深掘りする連載『フカボリ・シンドローム』。サッカーはプレーを深掘りすればするほど観戦が楽しくなる!
第54回のテーマは、今季不振に陥っている川崎フロンターレについて。相次ぐ主力の怪我、谷口彰悟選手のカタールへの移籍など、絶対王者として君臨してきた川崎の苦戦の原因を福西崇史が解説する。
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今季のJリーグを見ていて、個人的に気になっているのは川崎フロンターレの不調です。ここ6年でリーグは4度、ゼロックス杯は2度、天皇杯とルヴァン杯でも1度ずつ優勝し、間違いなく近年の国内サッカーを牽引してきたのは川崎です。
そんな川崎が今季、序盤で大いに苦しんでいます。昨年も苦しみましたがシーズン通して8敗(2位)、4位だった2019年でも6敗です。それが今季14試合を終えた時点ですでに6敗を喫し、近年ではもっとも厳しいシーズンの序盤と言えるでしょう。
不調の大きな要因は主力の怪我、移籍による攻守の機能低下が挙げられます。その中でもとくに影響が大きいのは谷口彰悟選手のカタールのアル・ラーヤンへの移籍、第3節・湘南ベルマーレ戦で左膝外側半月板を負傷したジェジエウ選手の離脱です。
昨季もジェジエウが怪我をしてから守備の強度が失われ、不安定な試合が続きました。今季も同様のことが起こっている上に、谷口選手も離れたことでさらに難しい状況になっています。ジェジエウは圧倒的なパワーとスピード、高さで川崎の守備の強度を一人で上げられる存在です。彼がいることで高い最終ラインを維持できていたと言っても過言ではありません。
川崎は最終ラインを高く上げ、全体をコンパクトにすることで前線から積極的にプレスに出ることができ、カウンターを受けても彼のスピードと一対一の強さで防ぐことができていました。彼と同じレベルのプレーをできる選手は、川崎どころかJ全体を見てもなかなかいません。
川崎は攻撃がフォーカスされがちですが、ボールを奪われてからの素早い切り替えによるチーム全体での守備がとくに優れたチームなわけです。それが彼の不在によって機能が低下してしまうことは大きな課題になっています。
攻撃の面でもレアンドロ・ダミアン選手の怪我から復帰後、コンディションがまだ上がらず、今季も途中出場で2試合しか出られていない影響も大きいと思います。彼の前線で起点になるプレー、ゴール前でのフィニッシュのクオリティは川崎の攻撃の軸です。
現在1トップを務めている宮代大聖選手はまったく異なるタイプのFWで、これまでのような川崎のサッカーをしても彼のところで詰まってしまう印象です。左ウイングのマルシーニョ選手も怪我でリーグは5試合を欠場していました。右サイドの家長昭博選手でキープし、オープンになった左サイドのマルシーニョに展開して個で突破というのは川崎の武器の一つですが、それもこれまでほどの脅威を与えられていません。
それの影響もあるのか、右サイドの家長選手のキープから山根視来選手、脇坂泰斗選手が絡むコンビネーションもややもの足りなさを感じます。曲者である脇坂選手が、得意とするいやらしい位置でボールがもらえず、本来の力が発揮できていない印象です。
川崎の攻撃はある程度読まれていても、それを上回るコンビネーション、スピード、タイミング、個の力でねじ伏せてきましたが、全体的な機能低下によってそれが難しくなっています。
川崎の主力選手の流出は旗手怜央選手や守田英正選手、田中碧選手、三笘薫選手など、これまでも多々ありました。そのたびに鬼木達監督の優れたマネージメントや強化部の働きによって、戦力をキープしてきました。ただ、そこに主力の怪我が重なったことで、それだけでは攻守に難しい状況を強いられています。
今でも優秀なサブの選手や若手選手はいますが、その選手たちがいきなり主力として出てこれまでのサッカーのレベルをキープできるかと言われると難しいでしょう。とくに川崎のサッカーは高い連携が求められ、組織としての練度が必要ですぐにフィットするのは簡単ではありません。
この状況を打破するために、川崎がどのようなアプローチをするのかは気になるところです。現状の選手たちでなんとか我慢をするのか、川崎のサッカーに合ったクオリティのある選手を取ってくるのか。鬼木監督がやるとは思えないですが、ヴィッセル神戸のようにサッカーの方向性を変えるというのも一つの手ではあります。
これまでのサッカーが維持できなくなったとき、まずは守備を整えるというのはチームの立て直し方として常套手段です。いずれにしても今季で7年目と川崎で長期政権を築き、数々のタイトルをもたらしてきた名将・鬼木監督が、この苦境をどのようにして乗り切るのかに注目したいと思います。