ブライトンの強さをフカボリ!ブライトンの強さをフカボリ!
不動のボランチとしてジュビロ磐田の黄金期を支え、2006年開催のドイツワールドカップには、日本代表の中心メンバーとして出場。日本サッカーが世界水準へと飛躍していく瞬間をピッチの中央から見つめていた福西崇史。 

そんな福西崇史が、サッカーを徹底的に深掘りする連載『フカボリ・シンドローム』。サッカーはプレーを深掘りすればするほど観戦が楽しくなる!

第55回のテーマは、プレミアリーグで大躍進の三笘薫選手が所属するブライトンについて。ロベルト・デゼルビ監督のもと、三笘はなぜ活躍できるのか。圧倒的なポゼッションでゲームを支配するブライトンの魅力的なサッカーを福西崇史が解説する。

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2022-2023シーズンのプレミアリーグも全38節が終了し、マンチェスター・シティの3連覇で幕を閉じました。アーセナルとの熾烈な優勝争いやニューカッスルの21年ぶりとなるCL出場権獲得など、さまざまなドラマやトピックがありました。その中で個人的に注目してきたのが、三笘薫選手が所属するブライトンの躍進です。

今季のブライトンはシーズン序盤の9月8日にグレアム・ポッター監督がチェルシーに引き抜かれ、同18日にロベルト・デゼルビ監督が就任しました。そこから攻撃的なポゼッションサッカーでリーグを席巻し、6位でクラブ史上初のUEFAヨーロッパリーグの出場権を獲得。FAカップでも準決勝まで進出し、大躍進のシーズンとなりました。

ブライトンはリーグとカップ戦での結果もさることながら、ポゼッションを重視したサッカースタイルが非常に魅力的なものでした。キャプテンのルイス・ダンクとアダム・ウェブスター(あるいはレビ・コルウィル)のCBコンビは足元の技術と判断力に優れ、ビルドアップでは「ここまでするか」というくらい相手が動くのを待って引きつけ、中盤に縦パスを通します。

その中盤の中央にはモイセス・カイセドやアレクシス・マクアリスター、パスカル・グロス、アダム・ララーナなど、テクニックがあり、プレス耐性の強い選手たちが的確な立ち位置とパスワーク、キープ力で仕掛けを作り、相手がどのように対応するかによって両サイドバックを使いながら巧みに中盤のラインを前進していきます。

そして前線の高い位置で待っている三笘とソリー・マーチというサイドでの一対一に極めて強いアタッカーへボールを届け、そこから一気に打開していく。CBのビルドアップから中央に相手を引き寄せてサイドを空け、両ワイドの三笘とマーチに勝負をさせるという形が見事にデザインされ、面白いように幾度もチャンスを作ってきました。

このウイングの位置には、どのチームも一対一で優位が計算できるタレントを配置しています。その崩しのキーパーソンとも言える役割を日本人の三笘が務めているわけです。Jリーグ時代に川崎フロンターレでもその役割を担っていましたが、世界最高峰のプレミアリーグでも同じようにやれていることに脱帽ですし、日本人として誇らしいと思います。

もちろん、サイドの攻撃だけでは手詰まりになることもあります。しかし、ブライトンはそれだけではありません。1トップのエバン・ファーガソンやダニー・ウェルベックが下りてきて起点を作り、その空いた中央のスペースにトップ下の選手が抜け出したり、両ワイドの三笘、マーチがダイアゴナルに走り込んで抜け出したり。

外がダメなら中を攻めるという形も用意され、それを相手の対応の仕方を見ながらチームとしてどう攻めるべきかを選択できるわけです。

その中で前進すべきか、あるいはボールを戻してやり直すべきかという判断もチームとして的確で、ブライトンはそう簡単にボールを奪われません。毎試合高いボールポゼッションを誇り、自分たちの形で勝負ができる。これほど見ていて楽しいサッカーはなかなかないと思います。

もちろん、攻撃に人数をかけ、DFラインも高いので、ボールを奪われたときのカウンターのリスクは高く、実際にそこから失点することは少なくありませんでした。ただ、そうしたリスクを犯しながら攻撃的なサッカーを展開し、これだけの結果を出すことができました。

また、18歳のファーガソンやファクンド・ブオナノッテ、19歳のフリオ・エンシソなど、若いタレントが台頭し、大きなインパクトを残しました。カイセドやマクアリスターというスター選手の移籍の噂は絶えず飛び交っていますが、それに変わる若い力が次々と生まれてくるのもブライトンというクラブの魅力だと思います。

攻撃的な魅力あるサッカーで勝って、さらに若手という伸びしろまで感じることができ、ブライトンのサポーターは本当にスリリングで楽しいシーズンを送れたと思います。

デビューシーズンにしてプレミア屈指のアタッカーという地位まで上り詰めた三笘選手にも移籍の噂はすでに多くありますが、これからさらにたくさんあるでしょう。どう転ぶかはわかりませんが、どんな形になったとしても来シーズンのプレーが今から楽しみで仕方ありません。

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