冨樫監督は「世界一を目指したい」と豪語していたものの、1勝2敗でグループリーグ敗退となった 冨樫監督は「世界一を目指したい」と豪語していたものの、1勝2敗でグループリーグ敗退となった

U-20W杯に出場したU-20日本代表。エース松木玖生(FC東京)のほかにも、海外クラブ所属の4選手を擁するなどして、低めの前評判を覆す躍進もあるのではないかと期待されたが......、結果はあえなくグループリーグ敗退。若き精鋭たちのふがいない戦いぶりを見て、この先の日本代表が少し心配になった――。

■松木玖生が痛感した世界との差とは?

あまりに寂しく、そしてもったいない結末だった。

20歳以下の世界一を決めるU-20W杯。この大会に出場したU-20日本代表は、「世界一を目指したい」(冨樫剛一[こういち]監督)と鼻息荒く、遠くアルゼンチンへと旅立ったものの、よもやのグループリーグ敗退に終わった。

今回で11回目の出場だった日本が、過去にグループリーグで敗退したのは、開催国枠で出場した1979年大会を除くと、2001年大会の一度だけ(くしくも、このときもアルゼンチン開催だった)。

これでは、惨敗と評されても仕方がない結果だろう。

日本は初戦のセネガル戦で、相手の高い身体能力に苦しみながらも、キャプテンの松木玖生(くりゅう/FC東京)が豪快なミドルシュートで決めた虎の子の1点を死守。1-0と勝利し、幸先のいいスタートを切ったはずだった。

松木玖生はU-20代表のキャプテンにして大黒柱。今後はパリ五輪出場を目指すU-22代表にも加わってくるはずだ 松木玖生はU-20代表のキャプテンにして大黒柱。今後はパリ五輪出場を目指すU-22代表にも加わってくるはずだ

ところが、コロンビアとの第2戦では、CKから山根陸(りく/横浜F・マリノス)のゴールで先制するも、相手の猛攻を受けた後半、立て続けに失点して1-2の逆転負け。

そして最後のイスラエル戦もまた、前半にFKから坂本一彩(いさ/ファジアーノ岡山)がヘディングシュートを決めながら、再び試合をひっくり返された。

しかも、1-0のリードで迎えた68分にはイスラエルに退場者が出て、日本が数的優位に立ったにもかかわらず、76分に同点に追いつかれると、試合終了直前の90+1分に逆転ゴールを許してしまったのである。

勝てばもちろん、引き分けでも決勝トーナメント進出が決まっていただけに、悔やんでも悔やみ切れない終戦となった。

相手の力に歯が立たなかったのなら諦めもつくが、3試合すべてで前半に先制点を奪いながら、うち2試合で逆転負け。気持ちが弱いのか、試合運びが拙(つたな)いのか。理由はともかく、もったいない結果だったというしかない。無念の松木が悔しそうに語る。

「最後に決め切る力があるところや、個人の能力で試合を終わらせてしまうところに、日本との差があると痛感させられた」

■日本選手の課題で顕著だったのは守備

こうして世界の分厚い壁にはね返されたU-20日本代表だったが、そもそもメンバーの顔ぶれを見ると、過去のチームに比べて小粒な印象が否めなかった。

今大会の登録メンバー21人のうち、今季J1クラブに所属している選手は7人だけ。しかも、そこでレギュラーポジションを手にしているのは、松木くらいのものなのだ。

ちなみに、前回日本が出場した19年大会当時は、J1所属が21人中15人。その中には所属クラブで主力を務める選手が少なくなかった。

翻(ひるがえ)って今回のチームで数を増やしたのは、J2クラブに所属する選手と大学生。合わせて10人は過去最多である。

J1クラブに所属していても試合に出られないなら、カテゴリーを落としてでも実戦経験を積んだほうがいい――。

そんな発想が、若い世代の間に浸透してきたことは、長期的な強化の視点に立てば悪いことではないが、20歳以下にJ1で戦える選手が少なくなっているとなれば話は別。

せっかく先制しても、時間の経過とともにパワーダウンしていく傾向が見られたことは、そうした背景と無関係ではなかっただろう。

とりわけ日本選手の課題が顕著になったのは、守備の場面。1対1、あるいは日本選手のほうが多い2対1の状況でもボールが奪えず、相手選手にかわされてしまうシーンは大会を通じて目についた。

特に1、2戦目は、日本がなかなかボールを保持できなかったこともあり、防戦を強いられる時間が長く続いた。身体能力頼みのセネガルが相手ならどうにかしのげても、技術を併せ持つコロンビアになると持ちこたえられない。それが非情な現実だった。

北野颯太(そうた/セレッソ大阪)は、「一番の違いはリーチの長さ。いつもやったら(ボールを)取れる感覚でいってるのに取れない。これが世界なんやなと思う」と、半ばあきれ顔。

山根もまた「(U-20)W杯というのは、アジアと違い、そういった(1対1の)場面で(マークを)はがせる選手だったり、強さを持ってる選手が出てくる。デュエルのところは、自分たちはまだまだだと思う」と、世界との差を口にした。

そうした日本人選手の課題をひと言で表すなら、「プレー強度不足」。素早く、かつ力強く相手に寄せて、ボールを奪い切る。そんなプレーが連続してできれば、結果としてマイボールの時間を増やすことにもつながったはずだが、残念ながら今大会の日本人選手にはその強さが足りなかった。

■今大会で株を上げた4人の「海外組」

そんな中、攻守両面で最も頼りになったのが、松木である。それは日本に唯一の勝利をもたらしたセネガル戦でのゴールがあったからだけでなく、プレー強度においても、外国人選手と互角に渡り合うことができていたからだ。

今大会の試合会場はピッチ状態があまり良くなく、ボールをコントロールするのも難しかったに違いない。しかし、松木だけは多少のズレが生じても、相手選手に体をぶつけながらボールをキープできる強さを見せていた。

やはりJ1で普通にプレーできるくらいの選手でなければ、このレベルでは戦えない。もちろん、国際経験を積むことは大事だが、20歳以下の選手たちが日常の中でレベルアップする必要があることを、松木の存在が示していた。

とはいえ、今大会を通じて株を上げたのは、松木だけではない。

センターバックとして抜群の守備能力を見せたチェイス・アンリ(シュツットガルト/ドイツ)や、まだ17歳ながら果敢なプレーが目を引いた髙橋仁胡(にこ/バルセロナ/スペイン)。

あるいは、体の強さと技術を併せ持っていた福井太智(たいち/バイエルン・ミュンヘン/ドイツ)らは、今大会で評価を高めた選手だろう。

サガン鳥栖からバイエルン・ミュンヘンに引き抜かれた俊英、福井太智。ボランチとして攻守両面で貢献度の高いプレーを披露した サガン鳥栖からバイエルン・ミュンヘンに引き抜かれた俊英、福井太智。ボランチとして攻守両面で貢献度の高いプレーを披露した

そんな彼ら3人に共通するのは、すでにヨーロッパのクラブでプレーする"海外組"であるということ。

今大会の登録メンバーにおいて、J1クラブに所属する選手が減少したことはすでに記したが、その一方で、福田師王(しおう/ボルシアMG/ドイツ)を加えた海外組4人は過去最多。海外移籍の若年齢化は、このチームのメンバー構成にもはっきりと反映されている。

彼らはいずれもトップチームではなく下部組織の所属とはいえ、日常的に高いレベルでプレーしているだけあって、簡単に当たり負けしないし、気おされもしない。

「アンリは1年間ドイツでもまれたことで、ひとりで守れる力がさらにレベルアップしていた」

チェイスとセンターバックコンビを組んだ田中隼人(柏レイソル)がそう話していたのも、うなずけるところだ。チェイスはもともと決して器用な選手ではなかったが、そつなく攻撃の起点となるパスを出せていたのは、日常的に厳しいプレッシャーの中でプレーしてきた成果なのだろう。 

渡独当初は苦しむも、着実に成長を遂げて評価を高めたチェイス・アンリ。今大会では「自分の名前を広めたい」と意気込んでいた 渡独当初は苦しむも、着実に成長を遂げて評価を高めたチェイス・アンリ。今大会では「自分の名前を広めたい」と意気込んでいた

しかも、単に海外組が増えたというだけでなく、そこへ至るルートが多彩になったことも、興味深いポイントだ。

福田やチェイスは、日本の高校を卒業後、いずれもJリーグを経由することなく渡独。また、アルゼンチン人の父と日本人の母を持つ髙橋は、スペイン生まれのスペイン育ちで、いわば"サッカー版ヌートバー"としてチームに加わった選手である。

髙橋仁胡はバルサの育成組織に所属するレフティ。左サイドバック不足に悩む森保一監督にとっても軽視できない存在か 髙橋仁胡はバルサの育成組織に所属するレフティ。左サイドバック不足に悩む森保一監督にとっても軽視できない存在か

従来の海外組といえば、Jクラブでの活躍を足がかりに海を渡るのが当たり前だったが、その後、日本サッカーを取り巻く環境は大きく変化。年代別を含めた日本代表にも、新たな波が押し寄せている。

22年ぶりの1次リーグ敗退という、まさかの結末を見た今大会。図らずも海外でもまれることの重要性を、より強調する結果となったことは間違いない。

これをきっかけに、おそらく海外移籍の若年齢化はさらに加速する。

決してJリーグの価値を軽んじるわけではないが、そうならざるをえない現実を突きつけられたことも確かである。