花巻東3年の佐々木は5月27日の試合で高校通算130号を放った。身長184㎝、体重113㎏、1年時からホームランを量産する怪物だ花巻東3年の佐々木は5月27日の試合で高校通算130号を放った。身長184㎝、体重113㎏、1年時からホームランを量産する怪物だ

先発メンバーに「佐々木麟太郎」の名前がない――。5月22日、春季東北地区高校野球の岩手県大会初戦に臨んだ花巻東だったが、主砲である麟太郎は背中の違和感を訴えて欠場。中1日挟んだ準々決勝も欠場した。

麟太郎はその時点で高校通算129本塁打をマークする、高校球界の目玉選手である。身長184㎝、体重113㎏と縦にも横にも大きな巨漢。

父は花巻東の監督として大谷翔平(エンゼルス)らの育成に携わった佐々木 洋。中学時代に所属した金ケ崎リトルシニアの恩師は大谷の父・徹。そんなドラマ性あふれる境遇で育まれたと聞けば、期待は青天井に膨らんでしまう。

しかし、ここにきて麟太郎の資質を疑問視する声も上がっている。高校入学後の故障があまりにも多いからだ。

1年秋には左足脛骨を疲労骨折。1年冬には胸郭出口症候群の治療のため両肩を手術。2年夏には左手人さし指の骨折で手術。3年になってからも左足かかとの痛みを発症し、5月13日の沖縄市招待交流試合で背中の違和感を訴えて途中交代......。

麟太郎の驚異的なパワーは疑いようがない。それでも疑問符がついてしまうのは、過去に似たような前例があるからだ。2017年に高校生史上最多タイとなる7球団から1位指名された清宮幸太郎(日本ハム)である。

清宮は高校通算111本塁打を放ち、高校1年時から国民的な知名度を得ていた。そんな清宮でさえ、プロ入り後は苦しんだ。清宮の外れ1位でヤクルトに入団した村上宗隆が大スターとして君臨する中、一流選手になりきれないシーズンが続いている。

清宮も高校時代から故障が多く、プロ入り後も毎年のように故障離脱を繰り返している。伸び盛りの20歳前後の時期に鍛え込めなければ、育成に時間がかかってしまう。

また、清宮が昨季18本塁打を放ってプロで浮上の兆しを見せたきっかけは、新庄剛志監督から受けた「減量指令」だった。麟太郎は高校時代に101㎏だった清宮以上にサイズが大きい。すでに麟太郎に対し、「太りすぎ」を指摘する声も上がっている。

花巻東で指揮を執るのは、父の佐々木 洋監督。かつて菊池雄星や大谷翔平も育てた指揮官は、息子の体を気遣いながら育成を続ける花巻東で指揮を執るのは、父の佐々木 洋監督。かつて菊池雄星や大谷翔平も育てた指揮官は、息子の体を気遣いながら育成を続ける

だが、以上の要因から「麟太郎はプロで苦労する」と断ずるのは早計だ。22日の試合後、麟太郎の欠場について説明した佐々木監督は、意外な事実を明かした。

「地区予選から状態が上向いて出力が上がっていたので、骨にきたのかなと心配していたんです。でも、何度も精密検査をして、骨に異常はないということでした。まだ骨端線(こつたんせん)が残っていて、骨が成長してるものですから」

注目すべきは「骨端線」というキーワードだ。実は高校時代の大谷を語る上でも、骨端線は欠かせない。

骨をエックス線撮影した際に、子供の骨は軟骨部分が写らず黒い線になる。これを「骨端線」という。つまり、骨端線が残っているということは、まだ骨の成長が止まっていないことを意味する。

大谷もまた高校時代に骨端線が閉じておらず、2年時に股関節の骨端線を損傷した時期があった。佐々木監督に「骨端線が閉じていないのは大谷と一緒ですね」と尋ねると、こんな反応があった。

「骨端線が完全に閉じないと、あの出力に体がついていけないのかなと。大谷もそうでしたけど、20歳くらいになって骨の成長が止まらないと、出力の大きさと体のバランスが合わないのかな」

そして、佐々木監督は「大谷は骨端線を痛めて良かったと思ってるんです」と意外な持論を語り始めた。

「東北って、冬は雪が降ってやることがないので、走ってばかりだったんです。でも大谷は(股関節を痛めた影響で)走れなかったので、ごはんを食べて、寝て、冬に20㎏くらい増えたんです。

打つのは痛くないというので打たせていたら、バッティングも良くなって。大谷が160キロを投げられたのも、バッティングのコアができたのも、ケガしたからだと思います」

ちなみに、佐々木監督は麟太郎の体重に関しては「あのままいったほうがいい」という考えを持っている。

「痩せたほうがいいと言われますが、彼の個性ですから。体を細くして、打率を残すタイプの選手ではないですし。骨の成長が止まるまでは故障と向き合いながら、個性を失わないよう可能性を伸ばしてやれたらと思います」

起用が多いファーストの守備は課題のひとつ。ケガも多いが、骨の成長が止まっておらず、様子を見ながらの起用になっているようだ起用が多いファーストの守備は課題のひとつ。ケガも多いが、骨の成長が止まっておらず、様子を見ながらの起用になっているようだ

未完成だった高校時代の大谷と同じような段階――。そう割り切れば、「故障が多い」という点も致し方ないと思えないだろうか。

その5日後、医師から出場許可を得た麟太郎は、フラストレーションを晴らすような大爆発を見せる。準決勝では高校通算130号をバックスクリーンに突き刺すなど、2安打4打点。決勝戦でも走者一掃の3点二塁打など、再び2安打4打点を記録した。

「しばらくバットを振ってなくて本調子じゃないのは明らかですけど、ベストではない中でしっかり対応できたと思います」

確かに故障は多いかもしれない。110㎏を超える巨漢で大記録を残した選手はいないかもしれない。それでも、麟太郎が最初の選手になればいいだけではないか。大谷が〝二刀流〟として世界的な存在になったのと同じように。

そして、麟太郎はこんな志を口にする。

「自分も新しいことに挑戦したいと思ってます。いろんな評価はあるでしょうが、自分がやることは変わりません」

麟太郎の名前は、勝海舟の幼名が由来である。時代を切り開いた先駆者の魂を胸に、前代未聞の巨漢スラッガーは自分の道を突き進む。