サッカー日本代表を背負う堂安律はどのように10代を過ごしたのか? 初書籍『俺しかいない』の3刷重版も決定した堂安律が世界に羽ばたく前、ガンバ大阪で成長した日々を指導者&先輩の証言で振り返る。今回は堂安律の1歳上の先輩、初瀬亮選手(ヴィッセル神戸)に話を伺った(全4回の第2回)。
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■「末っ子気質の律は先輩に甘えるのが上手で誰からも可愛がられていました」
「同級生みたいな感覚ながら、弟みたいな可愛さもある」
現在、ヴィッセル神戸で活躍する初瀬亮が抱く堂安律へのイメージは、昔も今も変わっていない。年齢は堂安が1歳下ながら先輩後輩の壁はなく、今でも堂安が帰国した際には決まって連絡があり、食事に出掛ける。
「ガンバ大阪ジュニアユースの頃から、末っ子気質の律は先輩に甘えるのが上手で誰からも可愛がられていました。相手の懐に入っていくのが上手いというか、あれは生まれ持っての才能ですね。実際、3人兄弟の末っ子だからか歳上の選手を前にしても物怖じすることはなかったです。僕の経験からもそのくらいの年代の時は先輩に遠慮してもおかしくないのに律はぜんぜんでした(笑)。
なのに、誰も律を生意気だとかって言う選手はいなかったし、むしろ可愛がっていました。そんな性格だから海外に行っても、すぐに誰とでも打ち解けられるのかも。これだけ長い付き合いやのに、未だに僕には敬語ですけどね(笑)。もはや同級生感覚なのでぜんぜんタメ語でいいのに、そういう律儀なところも可愛いというか、弟気質やなって思います」
同じチームでプレーするようになったのは、初瀬が2年生の時。堂安がAチーム入りをしてから。中でも3年生になる直前の春休みのスペイン遠征は苦い思い出として記憶しているという。実はこの時、調子を落としていた初瀬は定位置の左サイドバックを堂安に奪われるという悔しさを味わっていた。
初瀬の記憶によれば、堂安と仲良くなったのはそのスペイン遠征の後くらいから。2人は共に、JR茨木駅から自転車で練習場に行くグループだったこともあって、練習の行き帰りを含め時間を共にすることが増えていった。
■「心のどこかでは『もってる』で片付けんとって、とも思っていました (笑)」
ジュニアユース、ユース時代を通して「一貫してすごかった」と振り返るのが堂安の勝負強さだ。初瀬の学年は、のちに共にトップチーム昇格を果たした市丸瑞希や高木彰人(現・ザスパクサツ群馬)をはじめ、林大地(現・シントトロイデン)ら、錚々たる選手が顔を揃えた世代。
中学3年生時にはガンバアカデミー史上初めて、JFAプレミアカップ2012 supported by NIKE、8月の日本クラブユースサッカー選手権(U-15)大会、高円宮杯全日本ユース(U-15)サッカー選手権大会で"三冠"を実現している。そんな3年生に混じって、"いつも美味しいところを持っていく後輩"が堂安だったという。
「大きな大会の前になると決まって律がスタメンに戻ってきて、大一番で点を決めていました。ジュニアユースではプレミアカップの決勝でも点を獲ったし、高円宮杯でも決めていました。ユースでも最後、ヴィッセル神戸に勝てばプレミアリーグWESTで優勝だっていう試合があったんですが、それまでトップチームの練習に参加していた律が、その試合だけ戻ってきて決勝ゴールを決め、優勝ですから。
どんだけ美味しいところを持っていくねん、と(笑)。その姿をずっと見てきただけに、W杯カタール大会の初戦・ドイツ戦でゴールを決めた時も驚きはなかったです。あの勝負強さをどうやって育んだのか、本人に聞いておいてください」
初瀬の疑問を、そのまま堂安にぶつけると、勝負強さは自覚していたものの、「正直、何も考えていなかった」と堂安。ただし、「自分を信じる力はすごくあった気がする」と振り返った。
「試合に出ていなくても、『自分はやれる』『能力がある』と自分を信じる力はすごくあった気がします。諦めるヤツには絶対にチャンスは転がってこない、ということも常日頃から思っていました。あとは点を取りまくっていた小学生時代とは違い、ガンバジュニアユースに加入して周りのレベルも上がり、食らいついていくのが必死という毎日の中で、いつも『このままじゃヤバい』って思って怯えていた記憶もあります。
よく周りからは『最後はやっぱりお前やん』って言われることも多かったけど、自分としては結果が出てホッとしたという気持ちのほうが大きかった。あと、心のどこかでは『もってる』で片付けんとって、とも思っていました(笑)。そのくらい自分の中では、結果を出すために練習していると自負していたんやと思います」(堂安)
そんな堂安の勝負強さは、初瀬が高校2年生、堂安が1年生の時に参加したトップチームの一次キャンプでも示された。この時期、日本代表の活動でチームを離れる選手が多かったというトップチームの事情もあり、堂安は沖縄での一次キャンプから、初瀬は市丸や高木と共に宮崎での二次キャンプから駆り出されたが、初瀬らが参加した時にはすっかりトップに溶け込んでいた。
「宮崎キャンプではトップの先輩に『それで16歳なら化け物やな!』的にイジられたりしながら、すっかり可愛がられる存在になっていました。さすがにトップでは緊張すると思っていたし、僕らの世代はみんなそんな感じでしたけど、律は楽しそうでした。確か、あのキャンプでトップチーム昇格が決まったはずですよ」
そういえば、キャンプ中はよく練習後に先輩選手に混じって『クロスバーあて』を楽しむ堂安の姿を見かけた。堂安に負けはなく、『バーに当てたら飯を奢ってもらえる』といったルールでの遊びだったが、そこでも勝負強さを発揮した彼は、キャンプの最終日に「ご飯をご馳走になりました」と嬉しそうだった。
■「『この世界は満足した時点で成長も止まる』と常に言い合っていました」
そうして時間を共にしながら、揃ってトップチーム昇格を実現した2016年は初瀬も堂安も、ガンバ大阪U-23が主戦場に。それでも初瀬はトップに駆り出されることも度々あったが、だからと言って彼の前で堂安が悔しい表情を見せることはなかったという。
「当時は平尾壮(現・FC MIOびわこ滋賀)を含めて3兄弟みたいな感じで、寮生活も、プライベートも、食事に行くのもいつも一緒でしたが、サッカーについて話すのは『俺らはもっとできるよな』ってことくらい。先輩のアドバイスもあって、『この世界は満足した時点で成長も止まる。このくらいでいいと思ってやっていたら取り返しがつかなくなる』と常に言い合っていました」
そんなふうに共に過ごした日々は、堂安の海外移籍によって終止符が打たれる。U-20W杯韓国2017の直後のことだ。2017年6月に堂安はオランダのFCフローニンゲンヘの移籍を決断し、子供の頃からの夢だった海外への第一歩を踏み出した。
「律が海外に行ってからも試合結果は全部チェックしています。いつも僕が深夜、寝る前にスタメンが発表されて、起きたら結果が出ているんですけど、律が点を取ったとか、アシストをした時には、必ずそのシーンを映像で確認して刺激をもらってから練習に出掛けます。
もちろんW杯も全試合、見ました。そういえば、ドイツ戦でゴールを決めた数日後、そろそろみんなからの連絡が落ち着いたやろうなって頃にLINEを送ったんです。そしたら、『もう一発いきますわ』と返事が来たので、スペイン戦でも決めそうやなと思っていたら案の定でした。マジで、勝負強い。
でも、それはチャンスで最大限に輝けるように準備してきたからだと思います。大会前もフライブルクで調子が良かっただけに、ドイツ戦に先発できなかったのはどう考えても悔しかったと思うんです。そこで気持ちを折らずに、出た時に結果を出すための準備をやり切って、それをピッチで表現した。逆境に立たされた時のメンタリティが律の一番のすごさやと思います」
さらに、「あと、昔から律を知る仲間として、これは絶対に言っておきたい!」と語気を強めた。
「W杯前、一度日本代表を外れた時くらいから律の発言が注目を集めるようになりましたけど、僕にしてみれば『普通やで』って感じ(笑)。結果が出る、出ないに関係なく、普段もあのくらいのことは言っています。でもそれは決して強気の発言ではなく、彼なりの危機感の表れ。ほんまにしつこいくらい、昔からず??っと『このままじゃアカン』『俺ならやれる』って言ってますから。それ以外は、しょうもない話しかしないけど(笑)」
2人で定期的にやりとりしているLINEの最後は、いつも決まって堂安の「お互い頑張りましょうね」という言葉で締めくくられるそうだ。そして、その言葉を聞くたびに、初瀬はプロになりたての頃、何十回、何百回と掛け合った「俺らはもっとできる。このままやったらあかんよな」という言葉をリマインドしている。
●堂安 律(どうあん・りつ)
1998年6月16日生まれ、兵庫県尼崎市出身。ガンバ大阪、FCフローニンゲン(オランダ・エールディヴィジ)、PSVアイントホーフェン(オランダ・エールディヴィジ)を経て、2020年9月にアルミニア・ビーレフェルト(ドイツ・ブンデスリーガ)へ期限付き移籍。21年には再びPSVアイントホーフェンでプレーし、22年7月にSCフライブルク(ドイツ・ブンデスリーガ)へ完全移籍。18年9月からサッカー日本代表としても活躍中。21年の東京五輪では背番号10、22年のカタールW杯では背番号8を背負った。また、地元・尼崎で実兄の憂とともに、未来の日本代表10番を育成するフットボールスクール「NEXT10 FOOTBALL LAB」を運営中
■『俺しかいない』
集英社 定価:1650円(税込)
<祝・3刷重版決定!!>たとえ批判を浴びようとも、大きな壁にひるむことなく、逆境を楽しみ、常に自分を信じ続けることができるのはなぜか――。挫折や葛藤を乗り越えて揺るぎない自信を身につけ、W杯という夢舞台で圧倒的な輝きを放つまでの軌跡を克明に記した、待望の初書籍。日本代表デビューを飾った2018年から4年半以上続く本誌連載コラム『堂安 律の最深部』で赤裸々に明かしてきた本音のほか、これまでのサッカー人生で最大の挑戦となったカタールW杯の舞台裏、新生日本代表のリーダーになる覚悟と決意など、初公開の情報をたっぷりと収録