冨安の現在地をフカボリ! 冨安の現在地をフカボリ!
不動のボランチとしてジュビロ磐田の黄金期を支え、2006年開催のドイツワールドカップには、日本代表の中心メンバーとして出場。日本サッカーが世界水準へと飛躍していく瞬間をピッチの中央から見つめていた福西崇史。 

そんな福西崇史が、サッカーを徹底的に深掘りする連載『フカボリ・シンドローム』。サッカーはプレーを深掘りすればするほど観戦が楽しくなる!

第56回のテーマは、アーセナルに所属する冨安健洋選手について。今季は控えでの出場がメインとなり、ミケル・アルテタ監督の中で序列が下がっているのではないかという見方もある。そんな冨安の現在地を福西崇史が解説する。

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今季のアーセナルは、リーグ終盤まで首位を走りながら最後にマンチェスター・シティに捉えられ、19年ぶりのプレミアリーグ制覇という夢があと一歩のところで潰えました。しかしながら7シーズンぶりにチャンピオンズリーグの舞台に返り咲き、名門の復活を印象づけました。

そんなアーセナルに所属するのが、日本代表のDF冨安健洋選手です。昨季、セリエAのボローニャから加入した冨安は、高い守備力を武器に右サイドバックで早々にフィット。脆かった守備の立て直しに貢献し、アーセナル復活の一因となりました。

しかし、今季はCBのウィリアム・サリバがローン先のオリンピック・マルセイユから戻り、右CBのレギュラーを掴むと、それまでレギュラーだったベン・ホワイトが右サイドバックにコンバート。それに押し出される形で冨安の先発での出場機会が減少し、出場の多くが試合の終盤での守備固めで逃げ切りを図る展開でした。

そうした冨安の起用を見て、右サイドバックでの序列が下がり、アーセナルで再びレギュラーを獲得するのは難しいのではと感じる方もいるかもしれません。ただ、私は冨安の実力がホワイトに劣っているとはまったく思いませんし、ホワイトが絶対的なレギュラーだとも思っていません。対等なレベルで、どちらが出ても遜色ない活躍ができると思っています。あるとすれば力の差ではなく、キャラクターの違いだと思います。

ホワイトも冨安と同じように元々はCBが本職で、サイドバックにコンバートされました。足元の技術が高く、ビルドアップの能力に優れていて、その能力はサイドバックでのビルドアップや前線に上がったときの攻撃参加に生かされています。一方の冨安は高さやスピードをベースに、空中戦や一対一の対人守備に強みがあります。そのキャラクターの違いによって、ミケル・アルテタ監督は使い分けていたと思います。

実際、第10節のリヴァプール戦では、相手のエースのモハメド・サラーを対策するために左サイドバックで起用されたり、守勢に回ることが多くなると予想される第12節のマンチェスターシティ戦でも右サイドバックで先発しています。ホワイトと冨安を競わせ、うまく使い分けていましたが、ヨーロッパリーグのラウンド16、スポルティングとの第2戦で負傷し、結局シーズンを棒に振ることになりました。

冨安はこの怪我の多さが昨季から大きなマイナスとなっています。実力が拮抗していて、どっちをスタートから使おうと考えたときに、怪我がちの選手に使いづらさを感じてしまうのは自然なことです。ですから今季の場合は、基本は先発にホワイトを使い、守備を固めたい展開で冨安を投入という起用法がメインになったのだと思います。

怪我を直し、コンディションが整えば冨安の実力に対して、アルテタ監督は今も信頼を寄せていると思います。リーグ終盤に逃げ切りで冨安を使いたい場面はたくさんありました。しかし、怪我の再発がないように対策をしていかなければ、どうしても計算に入れづらくなってしまいます。

冨安のような筋肉系の怪我には、癖になっていたり、筋持久力が不足していたり、柔軟性に欠けていたり、原因はさまざまあります。いずれにしても今オフシーズンにアーセナルのメディカルスタッフとともに、その原因を分析して、十分な対策を考えてリハビリ、トレーニングを経て復帰してくれると思います。来季こそ冨安がシーズン通して出場し、リーグの優勝争い、CLという大舞台での活躍に期待したいと思います。

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