2ヵ月ぶり2度目の本企画。開幕から好スタートを切り、5月には月間19勝を記録した岡田阪神の現状を分析する。
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■強すぎた「5月の虎」。立役者と〝岡田イズム〟
交流戦も終わり、プロ野球は勝負の夏へ。開幕から好調の阪神は、5月に球団歴代最多タイの月間19勝と勝ちまくり、オールスターでは全ポジションで選出されそうな勢い。ただ、交流戦では苦戦する姿も......。
そこで、開幕前から阪神の躍進を予見していた野球評論家・お股ニキ氏に、ここまでの戦いぶりと今後の展望を考察してもらおう。
まず注目は、お股ニキ氏も以前、「メジャー級の充実度」と評した投手陣だ。
「普通なら、エースの青柳晃洋と西勇輝がこれだけ不調だと崩壊するはず。それなのにチーム防御率は12球団1位。投手を見る目と育成力がずばぬけている証拠です」
代わって先発陣を牽引(けんいん)するのは、共に防御率1点台の村上頌樹と大竹耕太郎。昨季はローテにいなかったふたりだ。
「村上はもともと技術・制球・投球術があり、2軍では2年連続タイトル獲得と無双。ただ、球速・球威が物足りず、2軍の帝王になるのか、もう1ランク上がって1軍に適応できるかの境目でした」
結果的に今季は制球力を維持したまま、最速150キロを計測。さらに、ボールの軌道も理想的だという。
「『ライジングマッスラ』とでもいうべき、右打者の左上(外角高め)に浮き上がるような理想的なストレート。左打者にもインハイに食い込むので効果的です。加えてカッター、スプリット、フォーク、カーブを思いのままに投げ分けられています」
一方、現役ドラフトで移籍してきた大竹はどうか?
「ソフトバンク時代のスピードばかり求められる環境から、制球・投球術重視の阪神で開花。球速も若干上がり、フォームが安定してストレートの質・制球が素晴らしい。ストレートのように見えて沈むツーシーム、カットボール、さらに遅いチェンジアップが数種類。たまに投げるカーブのコンビネーションも絶妙です」
そんな村上、大竹の良さを引き出すのは、彼らが登板時に捕手を務める坂本誠志郎。実際、坂本がスタメンマスクの際はチーム防御率が著しく低く、一時期、「坂本不敗神話」が語られたほど。お股ニキ氏は、特にフレーミング技術と配球面を高く評価する。
「坂本のフレーミングは以前、ダルビッシュ有(パドレス)も絶賛したほど。制球の良い大竹や村上ほど、際どいコースを狙って投げることができるので、その恩恵をより受けている。ボールの軌道や質の理解が正確で配球も良く、構える位置や真っすぐで刺すタイミングも抜群です」
では、野手陣でここまで目立った存在は誰か? お股ニキ氏はショートに定着した木浪聖也、さらに大山悠輔と近本光司の3名を挙げる。
「木浪は守備の貢献だけでなく、あえて8番に据えることで、9番の投手を挟んで、近本・中野拓夢の1、2番へとつなぐ流れが生まれている。自分自身でもチャンスに強い打ち方ができています」
4番を務める大山は?
「数字以上に勝負強い『本当の4番バッター』になりました。ファーストの守備もうまく、頼りになる選手です」
では、不動の1番・近本は?
「『打つか打たないか』を決めるポイントを少し投手寄りにしたことで、前でとらえられるように。結果、打球が飛ぶようになりました」
「前でとらえる」は岡田彰布監督が提唱していること。ほかにも〝岡田イズム〟の浸透はいくつもあるという。
「ポイントを前で打つ意識を持ちつつ、『見逃し三振はOK』や『四球の年俸インセンティブ』を導入。これにより、打撃も改善しつつ、四球が増加し、チームとして相手を崩せるようになっています」
木浪がショートに定着できたことにしても、「中野のセカンド転向」という岡田監督の決断があったからだ。
「スケールのある中野をあえてセカンドで起用し、木浪と小幡竜平の競争を促した。普通では浮かばないアイデアです。中野もセカンドで守備範囲や送球が安定し、併殺を確実に取れるように。サードの佐藤輝明、ファーストの大山の固定も悪くない。失策数以上に守備が改善しました」
そんなレギュラー陣の顔ぶれを見ると、阪神好調の要因は岡田監督の手腕だけでなく、フロントも含めた球団全体の力であることがわかるという。
「近本や大山、佐藤輝といった1位指名を軸に、2016年以降のドラフト選手が多く活躍。NPBのレベル向上で外国人選手が活躍しにくい状況でも、阪神には結果を出す外国人が多い。大竹や加治屋蓮のように他球団で伸びなかった選手も改良して戦力にできる。そりゃあ強いですよ」
■交流戦でなぜ失速!? 課題は〝長期的視点〟
とはいえ、交流戦で勢いが失速した感は否めない。その理由と今後の課題も整理しておこう。ひとつのきっかけとしてお股ニキ氏が挙げたのは、甲子園でのロッテ3連戦の初戦が雨で流れた点だ。
「月曜にズレて9連戦となり、大卒2年目左腕の桐敷拓馬を登板させたため、新人・富田蓮を翌週の金曜に先発させざるをえなくなった。その上、月曜の試合がもつれて試合終了が23時過ぎに。翌日は楽天戦のため宮城まで移動して即試合でしたから、疲労が蓄積する流れになりました」
実際、この9連戦は4勝4敗1分け。よく踏ん張ったといえるが、投手陣の蓄積ダメージは今後に向けて不安材料だ。その意味でも投手の運用には不可解な点があるという。
「昨年好調だった浜地真澄と西純矢は縦回転のフォームが乱れており、球質と制球が悪化。しっかりと2軍調整して固めていきたいが、すぐ1軍に戻して中継ぎで起用し、重要な場面で打たれることも。
また、WBC後、肘の違和感で本調子ではない湯浅京己の復帰後即クローザー起用も少し急ぎすぎな気がします。もっと万全にしてからでもよかったはずです」
調子を落とした選手がいる一方で、調子は良さそうなのに起用場面が少ないのは、共に防御率1点台のK・ケラーと及川雅貴だ。
「ケラーも及川も投げている球はすごいのに、岡田監督は四球が多い投手をあまり信用していない印象を受けます。その意味で、代えが利かない存在なのはコントロールのいい岩崎優と加治屋。加治屋なんて20試合以上に投げていまだ防御率0.00ですから」
投手運用に関しては、長期視点に立ったマネジメントができるかどうかがカギを握る。
「レベルが上がった今のプロ野球では、少しでもコンディションが悪いとごまかしが利きません。代えの利かない彼らのコンディション維持は最も注力したいです。
村上や大竹もローテ初年度なのだから、だんだん疲れてくるし、相手も慣れてくる。勝ちパターンやローテの固定にこだわりすぎずに回していくことが重要です」
こうした「固定しすぎ」の弊害は野手陣も例外ではない。
「木浪だって1年フルでやったことのある選手ではないし、土のグラウンドだから疲労はなおさらたまる。小幡も悪くないので、もう少し使っていい。同様に糸原健斗や渡邉諒を使わないのはもったいないので、サードの佐藤輝をたまに外野で起用するなど、臨機応変さも期待したいです」
■後半戦への期待はエース&若手&起用法
一方で好転要素もいくつもある。ひとつは、開幕前からお股ニキ氏が評価していた石井大智が復帰したことだ。
「腰を痛めて2軍落ちするまで防御率0.60と期待どおりの活躍。7、8回をしっかり任せたい存在です」
また、ファンが期待するのはエース青柳の復調だろう。
「青柳の不在で金曜の先発が弱い。早く本調子になってもらわないと。今年は、球威はあるのに制球と配球が悪く、左打者の外にツーシームとシンカーばかり投げて、それを狙われて打たれている。
昨年、一昨年と飛躍のきっかけとなったカッターやスライダー、高めと低めの高低差も含め、いかに真ん中から散らしていくかを思い出してほしいです」
さらに、「クイックにこだわりすぎでは」と提言する。
「必要ない場面でもクイックで投げようと意地になりすぎている印象です。クイックでは明らかにフォームのタイミングが早すぎてボールが抜けてしまいます」
シーズン中の飛躍を期待したい若手選手もいる。野手では交流戦で3番、5番を任された高卒2年目の前川右京だ。
「スイングが良く、ストレートに強い打ち方。変化球にはまだ脆(もろ)さがあるけど、期待させるだけのものはあります」
投手では桐敷の名を挙げ、MLBで増えてきた起用法〝ピギーバック〟をオススメする。
「桐敷は球威、変化球の質が上がっていて面白い存在。ただ、無理に長いイニングを任せるよりも、桐敷と西純ら、ふたりで6~7回を分担する〝ピギーバック〟を検討してみてほしい。若手投手の育成にも適した運用ですから。新外国人のビーズリーも先発させたら面白いと思います」
そして、分担といえば救援陣の負担分担をどうするか?
「今年の岩崎は絶対的存在ですが、それでも固定しすぎはよくない。湯浅と共存させ、岩崎が30セーブ、湯浅が14セーブくらいの比重で使うのがいいと思います」
WBCがあったため、例年以上に長く感じる今シーズン。後半戦へ向け、ますます目が離せない戦いが続きそうだ。