レアル・マドリードから、サウジアラビアのアル・イテハドへの移籍が決まったベンゼマ。3年契約、推定総額は最大で約299億円との報道もレアル・マドリードから、サウジアラビアのアル・イテハドへの移籍が決まったベンゼマ。3年契約、推定総額は最大で約299億円との報道も

とてつもない厚さの札束を携えて、サウジアラビアがサッカー界で猛威を振るっている。

2021年10月、同国の政府系ファンド「PIF」が英プレミアリーグのニューカッスル・ユナイテッドを買収。今年1月には、サウジ・プロフェッショナルリーグ(SPL)のアル・ナスルが、マンチェスター・ユナイテッドから契約を解除されていたクリスティアーノ・ロナウドを獲得した。

現在38歳のポルトガル代表ストライカーは、クラブと2年半の契約を結び、推定年俸は約310億円──月給にすると約25億8000万円となる計算だ。

そして欧州のフットボールシーズンが終わった今、同リーグのクラブはさらなる大物を狙っている。

まずロナウドに続いたのは、こちらもバロンドール受賞者のカリム・ベンゼマだ。

現在35歳の元フランス代表FWは、5つの欧州チャンピオンズリーグ優勝杯を置き土産にレアル・マドリードを離れ、ボーナスなどを含めて最大で推定総額約299億円に上る3年契約をアル・イテハドと締結。入団に際し、彼は次のように語っている。

「僕はイスラム教徒で、ここはイスラム教の国だ。僕はずっと『この国に住みたい』と思っていた」

一方、アル・ヒラルが年俸約611億円ともいわれるオファーを出していたとされるリオネル・メッシは、逆に中東のイスラム国家のライフスタイルが自身と家族には合わないと判断したようで、アメリカのインテル・マイアミと2年半契約を結んだ(推定年俸は70億円から105億円)。

ただ、最大のターゲットは逃がしたものの、SPLの各クラブは引き続き、ビッグネームを物色している。

これまでに噂に上った選手は、ネイマール、ルカ・モドリッチ、エンゴロ・カンテ、セルヒオ・ブスケツ、ピエール=エメリク・オーバメヤン、ハリー・ケイン、ソン・フンミン、ウーゴ・ロリス、アレクシス・サンチェス、ロベルト・フィルミーノ、ペペなどさまざま。

その中で、カンテとアル・イテハドは推定年俸約149億円の契約で、じきに合意に至るとみられている。

さらにアル・ヒラルは、欧州CL、ヨーロッパリーグ、ヨーロッパカンファレンスリーグと、3つのUEFA(欧州サッカー連盟)主要大会をすべて制した唯一の指揮官、ジョゼ・モウリーニョ(現ローマ監督)に約180億円を用意して勧誘しているようだ。

この動きの裏には、サウジアラビアの国家プロジェクトがある。今年の6月5日、同国スポーツ相のアブドゥル・アジズ・ビン・トゥルキ・ファイサル氏が、SPLの改革案を発表。新シーズンを前に、アル・ナスル、アル・ヒラル、アル・イテハド、アル・アハリの4クラブが政府系ファンドPIFに買収されることが明らかになった。

それまでスポーツ庁に保有されていた4クラブを民営化する形で、「潤沢な資金を動かしやすくすることが狙い」と言われている。それにより、リーグの年間収益が昨季の約167億円から、約670億円に増加されることを見込んでいるという。

そして30年までに約3000億円の規模にし、「世界トップ10の価値を持つリーグ」と認知されることを目指している。

今年1月からサウジアラビアのアル・ナスルでプレーする38歳のロナウド(中央)。リーグ戦16戦を消化した時点で14得点と、新天地で活躍している今年1月からサウジアラビアのアル・ナスルでプレーする38歳のロナウド(中央)。リーグ戦16戦を消化した時点で14得点と、新天地で活躍している

表向きの理由としては、きらびやかなスタープレーヤーを集めて国内リーグを魅力的なものにし、国民のスポーツへの意識を変えたいことがひとつ。

なぜなら、この中東の大国では、35歳以上の国民の70%超が適正体重を超えている現状があるという。同国サッカー協会に登録している男子選手数を、現在の2万1000人から、20万人に増加させたい意向もあるようだ。

また、政府が掲げる「Vision 2030」という計画の一環だとも説明された。その国家プロジェクトにより、これまでオイルに頼っていた経済構造をより多様化し、医療や教育、インフラなどの公的サービスを発展させ、国外からの投資をより多く招いて王国のイメージを改善させようとしている。

30年に一定の成果を見込んでその名称がつけられているが、同年のW杯開催地獲得ももくろんでいるといわれる。そのためにも自国リーグのレベルを高め、ゆくゆくは代表の強化にもつなげていきたいようだ。

ただし......ここ数年、主に欧州のメディアで問題視されている、国家や個人が自らの良くないイメージを覆い隠そうとする行為〝スポーツウォッシング〟の意図が、ここでも指摘されている。

絶対君主制国家・サウジアラビアは18年10月、同国出身の民主化運動家にして著名なジャーナリスト、ジャマル・カショギ氏をトルコのサウジアラビア総領事館で殺害した疑いが持たれている。

昨年には一日に81人の死刑を執行し、その半数以上がシーア派の人々だとされ、国際的な人権団体から人種差別的な動機が疑われてもいる。

同国の法律では、同性愛は犯罪で、発言や信教の自由や女性の権利は極めて限定されている。多くのスター選手の存在で、サウジアラビア政府にとって嫌な話題から目を背けさせようとする意向もあるのだろうか。

いずれにせよ、この途方もない〝札束攻勢〟はまだまだ続きそうだ。欧州のクラブとしては、移籍金がさらに高額になる可能性を懸念する向きがある一方で、サウジアラビアのクラブを「ピークを過ぎたビッグネームを高く買い取ってくれる商売相手」ととらえる人もいるようだ。

すでに巨額マネーにより、ゴルフ界をその手にしつつあるサウジアラビア(同国主導の「LIVゴルフ」がPGAツアーと合併)。その動きに反対の立場を取り続けるローリー・マキロイも、「結局、最後はカネがモノをいう」と諦め顔だ。

ゴルフの次は、世界中で大人気のスポーツ、サッカーの世界で強烈に存在感を示していくのだろうか。