不動のボランチとしてジュビロ磐田の黄金期を支え、2006年開催のドイツワールドカップには、日本代表の中心メンバーとして出場。日本サッカーが世界水準へと飛躍していく瞬間をピッチの中央から見つめていた福西崇史。
そんな福西崇史が、サッカーを徹底的に深掘りする連載『フカボリ・シンドローム』。サッカーはプレーを深掘りすればするほど観戦が楽しくなる!
第58回のテーマは、今季レアル・ソシエダで飛躍を遂げた久保建英選手について。なぜ久保はラ・レアルで攻撃のキーマンとしてブレイクできたのか。その理由と今季の成長、来季さらにもうひとブレイクするために必要なことを福西崇史が解説する。
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今シーズン、久保建英にとって飛躍の年となりました。レアル・マドリードからレアル・ソシエダに完全移籍し、リーグ35試合に出場して9得点7アシスト。9得点はラ・リーガでの日本人得点記録(乾貴士の5得点)を更新し、クラブの2013-2014シーズン以来3度目となるUEFAチャンピオンズリーグ出場権獲得に大きく貢献しました。ファン投票によるクラブの年間MVPにも選出され、サポーターにも久保の活躍は大いに認められました。
今シーズンの久保は、2トップや左右のウイングなど、さまざまな攻撃的なポジションで起用され、崩しのキーマンとして存在感を発揮。相手を見ながら得意のドリブルによって、あるいは想像力豊かなパスによって局面を打開し、多くのチャンスを創出するだけでなく、得点やアシストという数字も残しました。
シーズンの半ばにもなると、監督やチームメイトからの信頼は厚く、久保は王様のようにボールを待ちながら好きなように仕掛けることができていたと思います。久保がこれまでマジョルカやビジャレアル、ヘタフェで飛躍できず、ソシエダで開花した理由はここにあると思います。
チームのスタイルが久保とマッチして、守備もより献身的に走り回ったことも要因の1つではあると思いますが、なによりも信頼され、ボールを預けてもらえるようになったこと。久保はやっぱりボールを持ってなんぼの選手です。自分が「今ボールが欲しい」というタイミングでもらえるので、良い形で仕掛けることができるし、良い形であれば久保は高い確率で1対1の勝負に勝てるだけのドリブルスキルを持っています。
反対に久保はあまりボールをもらえなければ存在感が薄くなってしまうタイプの選手です。ボールが回ってきたとしても仕掛けられるような状況じゃないところでもらってもただ返すだけになったり、苦し紛れの選択しかないプレーばかりになってしまいます。
ボールが来ないからといって低い位置に下がってもらっても久保の怖さはまったくでません。それがマジョルカやヘタフェ時代だったと思います。
よりレベルの高いビジャレアルでは、そもそもプレー機会をもらえる数が少なく、信頼を得られていませんでした。それによってなかなか欲しいタイミングでボールが回ってこなくて、その中で久保はまだ結果を残せるだけの自信やクオリティはなかったのだと思います。
ソシエダは若手選手を積極的に起用するクラブとしての土壌があり、イマノル・アルグアシル監督も久保のクオリティを信頼し、開幕から多くのプレー機会を与えてくれました。チームとしてのスタイルや周りのサポートもありながら良い形で仕掛けることで、自信を深め、より信頼を勝ち取り、久保のプレーはどんどん冴え渡っていきました。
また、ダビド・シルバの存在も久保を大きく助けていましたね。同じリズムでプレーができ、抜群のタイミングでサポートやパスをくれることで、久保をより生かしてくれました。
それまでは「試合に出なきゃ」だったのが、「試合で何をするか」にフォーカスできるようになったことは非常に大きかったと思います。
そんなソシエダで飛躍した久保がもっとも成長したと感じるのは責任感です。一つひとつのプレーにしても先のことを考えてやろうとしているし、ミスをしたら取り返すという責任感がすごく出てきていました。
もともと負けん気の強い性格だと思いますが、そこから責任感によってさらに集中力が高まり、プレーに余裕が生まれ、パフォーマンスレベルのアベレージが上がったと思います。
これからさらに伸びるために必要なところでは、まず守備面があると思っています。今季の久保は、守備で個人の頑張りという面で非常に汗をかいていたと思います。それによって後ろが助けられる場面はたくさんありました。ただ、向上ということを考えると、組織的な守備を身に付けることが重要になると思っています。
久保が頑張って追いかけて奪うことができて、そこからボールをくれと言っても良い準備ができていなかったり、そこから仕掛ける体力が残っていなかったりします。自分が奪いに行くのではなく、味方に奪いに行かせるような守備を覚えれば、奪った後により良い形でもらえる準備ができるはずです。
ソシエダでの久保であれば、そういうやり方を確立できると思うし、それを主張できるだけの信頼を得ることはできたと思います。
攻撃の部分では来季は二桁得点を期待してしまいます。それにはもっと高い位置で久保を生かすことができれば、よりゴール前での面白さ、怖さが加わると思っています。個人だけではなく、チームとしてどう生かしていくかという話でもありますが、久保はよりエゴイスティックになることが必要だと思います。
そうして攻守にさらに伸び、もうひとブレイクできれば、本当のトップオブトップの選手になれると思います。そうなれば日本代表を引っ張り、非常に頼れる存在になれるはずです。そうしたことを期待しつつ来季はチャンピオンズリーグでどのような活躍を見せてくれるのか、そしてビッグクラブへステップアップできるのか、今から非常に楽しみですね。