イニエスタの影響力をフカボリ! イニエスタの影響力をフカボリ!
不動のボランチとしてジュビロ磐田の黄金期を支え、2006年開催のドイツワールドカップには、日本代表の中心メンバーとして出場。日本サッカーが世界水準へと飛躍していく瞬間をピッチの中央から見つめていた福西崇史。 

そんな福西崇史が、サッカーを徹底的に深掘りする連載『フカボリ・シンドローム』。サッカーはプレーを深掘りすればするほど観戦が楽しくなる!

第59回のテーマは今週末のJリーグ第19節を最後に退団するヴィッセル神戸のアンドレス・イニエスタについて。印象深いプレー、圧倒的な技術、日本サッカーへの影響力。改めてイニエスタというスター選手について福西崇史が解説する。

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ヴィッセル神戸のアンドレス・イニエスタが、今週末に行われる第19節の北海道コンサドーレ札幌戦を最後に、神戸を退団します。先月25日の記者会見で、イニエスタ本人の言葉によって退団が発表されましたが、その言葉を聞いて率直に寂しい思いです。

1タッチ、2タッチだけで観客を沸かせる圧倒的な技術の高さ、イマジネーションの豊富さ。そのプレーで誰しもがお金を払ってでも見たいと思わせてくれました。私も彼のプレーに魅了された一人ですが、そんな選手がいなくなるのは寂しいものです。

彼が魅せてくれた数々のスーパープレーで、個人的に一番印象深いものは2018年の第21節・ジュビロ磐田戦で決めたJリーグ初ゴールです。

前半15分に右サイドでボールを受けたルーカス・ポドルスキーがカットイン。そこで中央のイニエスタがCBの間にスルスルと走り込むとポドルスキーから鋭い縦パスが入り、それを右足で引いて巻き込みながら縦にターン。寄せに行った大井健太郎が足を伸ばすけれど届かず、飛び出してきたカミンスキーも冷静に交わして流し込みました。

あの場面、あのスピード感で右の足裏で引きながらのターンというのは驚きました。対応した健太郎も意表を突かれてまったくついていけませんでした。

スピードに乗っている状態でありながら足元に転がす絶妙な力加減のタッチ。なおかつ体勢がまったく崩れず、カミンスキーの飛び出しに対しても余裕を持ってかわしています。練習でやれと言われてもすぐにはできないし、それを試合でやるとなるとまぐれで1回できるかどうか。改めてとんでもないゴールだったと思います。

このプレーでも見られるようにイニエスタのタッチの感覚は特別なものがあります。さらにすごいと思うのは、自分のプレーサークルの使い方です。ボールを持ったときに相手を自分の間合いに引き込んでずらす、来なければ自ら突っ込んで行って相手が足を出そうとしたところでずらす。

そうやって常に相手を自分の間合いの中に入れて動かし、かわしていく。それは背負っているときでも同様で、相手を引き込んで逆を取るというのをいとも簡単にやってしまう。その技術は別格で、世界トップ選手であることを感じさせてくれました。一体どうやっているのか聞きたいくらいです。

彼が長くJリーグでプレーしてくれたことは、日本人選手の成長にも大きな影響があったと思います。とくに神戸でとものプレーした選手たちにとって、これ以上ない成長の機会だったはずです。その恩恵をもっとも受けたのは古橋亨梧でしょう。

もともと抜け出すスピードは秀でたものがあり、その武器をいつ、どこで使えばいいのか。スペースを見つけて良いタイミングで走り出せば必ず良いパスが来るというイニエスタとの出し手と受け手の信頼関係によって、その動き出しは洗練されていきました。

逆にイニエスタも古橋がいたことで、出し手の能力を存分に発揮することができ、2人は非常に良い関係性だったと思います。

Jリーグ30周年の歴史の中で、ジーコやサルバトーレ・スキラッチ、フリスト・ストイチコフ、ドゥンガ、ジョルジーニョ、ドラガン・ストイコビッチなど、ほかにも数多くの世界的なビッグネームがプレーしてきました。

その中でもイニエスタは世界への影響力、プレーレベルともに間違いなくトップオブトップでした。ビッグネームであってもJリーグで活躍し切れない選手もいた中で、圧倒的なプレーで観客を沸かし、世界トップであることを納得させてくれました。

2018年7月22日の第17節・湘南ベルマーレ戦でJリーグデビューを飾り、それから丸5年。当初の予想していた以上に長く日本いてくれた印象です。それは三木谷浩史オーナーの営業の力、本人のモチベーション、Jリーグのプレー環境、なにより本人はもちろん、ご家族も日本を好きになってくれたことが大きかったのだと思います。札幌戦でどれくらいプレーするかはわかりませんが、イニエスタが日本でプレーしてくれたことに感謝しつつ、神戸での最後プレーを胸に刻みたいと思います。

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