激戦区の愛知で甲子園出場を目指す享栄のエース・東松。最速152キロのもとになる体のパワーは、重量挙げの日本王者だった父譲り激戦区の愛知で甲子園出場を目指す享栄のエース・東松。最速152キロのもとになる体のパワーは、重量挙げの日本王者だった父譲り

今年の高校野球ナンバーワン選手は誰か? 完全無欠の左腕・前田悠伍(大阪桐蔭)か、高校通算130本塁打を超えた佐々木麟太郎(花巻東)か、大きな伸びしろを残す長身スラッガーの真鍋慧(広陵)か。現段階のトップランナーは、甲子園出場経験のあるこの3選手だろう。

だが、前田は春以降にマウンドから遠ざかった空白期間があり、故障の不安がささやかれている。佐々木も背中痛を訴えて春の岩手大会を2試合欠場。真鍋は地元・広島のスカウトが「(ドラフト順位は)3~5位評価」と発言するなど、盤石とは言い難い。

そこで、ここまで甲子園出場経験はないものの、今夏に一気にスターダムへとのし上がる可能性を秘めた逸材3選手を紹介しよう。

まずひとり目は東松快征(享栄)だ。前田と同じく左投手だが、前田が「柔」なら東松は「剛」。身長178㎝、体重92㎏の厚みのある体形から最速152キロをマークする。捕手のミットを「ガツン!」と叩く硬質のストレートには破壊力がある。

今年4月には侍ジャパンU-18代表候補に選出され、強化合宿の紅白戦では前田と投げ合った。代表監督の馬淵史郎監督(明徳義塾)から「ボールに勢いがあった」と上々の評価を受けた登板後、東松はわざわざ反対側のベンチに赴き前田に助言を仰いでいる。

「(前田は)甲子園でいっぱい勝ってるピッチャーなので。ライバルではありますけど、吸収できるところは吸収したいと思ってアドバイスをもらいました」

豪快な投球スタイルとは裏腹に、素直さと愛嬌(あいきょう)がある。甲子園に出たら人気が出そうなキャラクターだ。

課題は変化球だったが、「ストレートと同じ腕の振りで、変化球ほど前でリリースする」感覚をマスターして、スライダーに手応えを得た。右打者にはチェンジアップを駆使してタイミングを外せる。

享栄は2000年春以来、甲子園から遠ざかっているものの、中京大中京を全国制覇に導いた大藤敏行監督が18年に就任してから復活の機運にある。野手陣にも好選手をそろえ、今年の代にかかる期待は大きい。

それでも、全国屈指の激戦区・愛知ではそう簡単に甲子園には出られない。今春のセンバツで2勝を挙げた東邦、投打にハイレベルな役者がそろう愛工大名電など強大なライバルがひしめいている。

享栄の初戦は7月16日の3回戦。同じブロックには好投手を擁する愛産大工など油断できない強敵も潜む。東松にとって全国区のスター候補にのし上がるか、地方の好素材止まりに終わるか、分岐点の夏になりそうだ。

滝川二の186㎝の長身右腕・坂井は、高校入学後に課題のコントロールが改善して成長。登板時以外にはライトでプレーし、打力も高い滝川二の186㎝の長身右腕・坂井は、高校入学後に課題のコントロールが改善して成長。登板時以外にはライトでプレーし、打力も高い

右投手なら坂井陽翔(滝川二)も将来性豊かな大器である。身長186㎝、体重83㎏の大型右腕で、最速149キロを計測する。今春のセンバツに登場した右投手と比較してもスケールの大きさは坂井が一段上だろう。

打者が見上げるような高いリリースポイントから、低めのストライクゾーンギリギリに突き刺さるボールの角度は驚異的。坂井は「リリースがハマれば『ピチ!』という音が聞こえて絶対に打たれない自信がある」と豪語する。

変化球もコントロールに自信を持つカットボールや、精度が上がってきたフォークなどがある。ただ力任せに投げる投手ではない。

中学時代はコントロールが悪く、チーム内で3、4番手格の投手だった。打撃力を評価されていたが、投打の〝二刀流〟として評価してもらえた滝川二に進学。高校ではマウンドに上がるたび、「楽しくてしょうがない」と水を得た魚のように腕を振った。

投手としてすくすく成長する坂井だが、「目の上のたんこぶ」としてそびえるのが報徳学園だ。1年秋の初対戦ではコールドで敗れるなど、公式戦や練習試合で連戦連敗が続いている。ドラフト候補の強肩捕手・堀柊那を擁するタレント軍団は、今春センバツでも準優勝と躍進している。

今夏に8年ぶりの甲子園出場を目指す滝川二にとって、報徳学園が最大の障壁になりそうだ。坂井は「毎日、寝る前に報徳と戦う自分を想像して、最後は僕が抑えて勝っている」と語る。その執念が実ったとき、坂井の存在は今まで以上に大きくなっているはずだ。

「プロでも二刀流」を目標にする山形中央の武田。侍ジャパンU-18合宿で、名将・馬淵史郎監督も絶賛した天才肌の選手だ「プロでも二刀流」を目標にする山形中央の武田。侍ジャパンU-18合宿で、名将・馬淵史郎監督も絶賛した天才肌の選手だ

最後に名前を挙げたいのは、「プロで二刀流としてプレーしたい」と熱望する武田陸玖(山形中央)。東松も坂井も参加した侍ジャパンU-18代表候補強化合宿では、馬淵監督から「投打ともちょっと違うと思った」と絶賛されている。

身長174㎝、体重75㎏と体格的には平凡な左投げ左打ち。だが、投げては最速147キロをマークする切れ味抜群のボールを披露。打っても天才的な対応力で快打を連発し、俊足強肩も武器にする。

選手としてのタイプは、昨年ドラフト1位指名で日本ハムに入団した矢澤宏太によく似ている。野手としての能力がずばぬけていながら、急成長中の投手としても捨て難い。そんな過程まで矢澤と武田は酷似している。

「いろんな人から『すごいね』と言われるんですけど、どんな意識でやっているか聞かれても答えられないんです」

本人がそう語るように、プレースタイルは本能型。代表合宿で接した前田や東松について聞いても、特別な感想は返ってこない。わが道を行く奔放さも武田の魅力なのだ。

昨秋は東北大会ベスト8とセンバツ出場に近づきながら、あと一歩のところで逃した。今年の山形は一躍ドラフト候補に躍り出た本格派右腕・菅井颯を擁する日大山形ら多士済々。山形中央は準々決勝で甲子園常連校の鶴岡東との対戦が予想されている。強大な壁に立ち向かう中で、武田のポテンシャルはさらに開発されていくだろう。

今夏に大変身するシンデレラボーイは現れるのか。甲子園大会の前に、地方大会から目が離せない。