ジュビロ磐田限定の歴代ベストイレブンを選出! ジュビロ磐田限定の歴代ベストイレブンを選出!
不動のボランチとしてジュビロ磐田の黄金期を支え、2006年開催のドイツワールドカップには、日本代表の中心メンバーとして出場。日本サッカーが世界水準へと飛躍していく瞬間をピッチの中央から見つめていた福西崇史。 

そんな福西崇史が、サッカーを徹底的に深掘りする連載『フカボリ・シンドローム』。サッカーはプレーを深掘りすればするほど観戦が楽しくなる!

第60回のテーマは、"ジュビロ磐田限定"歴代ベストイレブン。Jリーグ30周年にちなんだJ歴代ベストイレブン企画にやや乗り遅れたところで、少し趣向を凝らして磐田に限定した福西崇史らしいイレブンを選出した。

 * * *

まず2トップは中山雅史と高原直泰。J全体で見ても歴代でこの2人に敵うコンビはいないと思います。個人でいえばサルバトーレ・スキラッチなどもいますが、なにより2人のコンビネーションが絶妙でした。

互いの足りないところを補い合えるバランスが良かったし、守備組織を壊すのに重要な囮(おとり)の動きをお互いができる。それを阿吽の呼吸でできるので、出し手としては出しやすく、相手としては対応しづらい。コンビとして揃ったときの破壊力は歴代随一でした。それでいて守備でもプレッシングをサボらず、ひたすら前から相手を追い込んでくれるので、後ろとしては非常に助けられました。

2列目には名波浩、藤田俊哉、奥大介。この3人は本当に三者三様。それぞれ異なる尖った才能がありながら、互いを補い合える非常にバランスの取れたタレントで、外せない選手たちです。

後ろはボールを預ける先としてまずパサーの名波さんを探します。そこから一つのパスで崩すこともできるし、リズムを作ることもできる。守り切られて詰まったときは名波さんが後ろに引いてくるので、引いてできたスペースにドゥンガや僕といったボランチが飛び出していく。それも阿吽の呼吸でできました。

もしパスでうまく組織を崩せないときは、ドリブルで運べる大ちゃんを探します。ドリブルの突破力はトップクラスで、相手が飛び込んで来てくれたら必ずかわして数的優位を作ってくれました。時間を作るキープ力も抜群だったし、2列目から裏へ飛び出すのも上手かったです。

そしてうまく運べたら裏に飛び出す俊哉さんの動きを見る。裏へ飛び出すセンスは天才的でした。ゴンさんやタカが作ったスペースに入るのが上手かったし、ボールを持って相手を導き出すのも上手かった。相手によってプレーを変えつつ、ここぞのタイミングで抜け出して点を決めるセンスは俊哉さんにしかできない芸当でした。

役割分担がはっきりして、相手にどう守られても何かしらできる策を持っていたし、その相乗効果は抜群。それぞれが尖っていながらそれをさらに太くできる3人でした。

ボランチは服部年宏とドゥンガ。攻撃的な2列目を最大限に生かすためにバランスを取るのがこの2人のボランチです。とくにあの頃の磐田はチーム全体として絶妙なバランスで成り立っていましたが、そのバランスを成立させていたのはハットの存在でした。

左サイドの守備が手薄になるところを全部埋めてくれていたし、「状況によってチームの穴になるところを最終的に埋めてくれるのがハット」というのは、チームの共通認識としてありました。あの危機察知能力やバランス感覚、万能性、運動量は代えの効かないものでした。

ドゥンガは敵も味方もビビるほどの熱いキャプテンシーで、チームの空気を引き締めてくれる存在でした。それだけでなく、本物のプロ意識が何たるかを日本サッカー界に示してくれた人でもあったと思います。一つひとつの言葉や姿勢、立ち振る舞いによってチーム全体を勝利に導ける存在で、本当に多くのことを学ばせてもらいました。彼がいなければ今の自分はいなかったと思います。

熱さばかりが記憶に残りがちですが、テクニックも高く、プレーはシンプルで洗練されていました。ワンタッチ、ツータッチで捌きながら一つひとつに意図があり、チーム全体を上手く動かしていくその判断力は、さすがセレソンで中心を担った選手であると実感させられました。走力や運動量はなかったけれど、その分味方の動かし方も巧みで、自分にとってまさにお手本でした。

DFは田中誠、ジェラルド・ファネンブルグ、鈴木秀人。この3人も互いを補完するバランス感覚がとても優れていました。

マコはポジショニングがよくて、味方を動かす守備が上手かったです。後ろからのコーチングで全体の守備をオーガナイズしてくれていました。あまりスピードがなかったからこそ、前の人間を使って追い込んでパスカットやタックルで奪う。それに長けていました。

ファネンブルグもマコと同じようにポジショニングとコーチングがよかったですが、それ以上に優れていると感じたのは、俯瞰でピッチ全体を見る視野の広さ。それは度肝を抜かれるくらいすごかったです。全体が見えているから読みは鋭いし、判断がとにかく早い。ボールを奪ったあとにすぐにパスを出して、味方が追いつけないこともしばしばありました。

秀人さんは僕が一番助けられた人ですね。足が速くて、カバーリング能力も高いので、僕の後ろを全部カバーしてくれました。僕が遅れていたら早めに潰しに来て戻る時間を作ってくれたり、間に合っていれば秀人さんのところへ追い込んで2人で挟み込んだり。相手のサイドに速い選手がいれば、秀人さんが横にスライドして、僕がストッパーに入ることも多々ありました。

また、磐田はボールが持てるし攻撃的だったので、ラインの裏を一発で狙われることが多かったですが、秀人さんのスピードに助けられた場面はものすごく多かったですね。

GKは川口能活。日本を代表する守護神なのは言うまでもないですね。守備範囲が広く、裏に抜けられたとしても一人で止めてしまえるずば抜けたセービング能力がありました。また、アルノ・ヴァン・ズワムもよかったです。長い手足のリーチを生かして壁のようになってシュートを止められるので、また違った特徴があって頼りになりました。

磐田の歴代ベストイレブンと聞いて、8人はすぐにパッと頭に浮かびました。それくらい黄金期と言われたこのチームは、他の世代が入り込む余地がないほど完成されていました。

攻撃でサイドに速い選手を置いていなかったり、相手のサイドに速い選手がいたときに対応が難しかったり、全体のバランス的に現代サッカーとは少しそぐわないところもありますが、今のJリーグの中でも優勝を狙えるくらい強いと思います。磐田に限らず、J全体でもこのイレブンを選びたいくらい鉄板の良いメンバーだと思います。

★『福西崇史 フカボリ・シンドローム』は毎週水曜日更新!★