来年開催のパリ五輪が約1年後に迫る中で、熾烈(しれつ)を極めているのが日本卓球女子のメンバー選考。東京五輪までは世界ランキング上位者に出場資格が与えられていたが、日本卓球協会は今回から独自のルールを導入した。
選考の期間は、2022年の全日本選手権終了の翌日から、24年の同大会終了日までの2年間。その間に、定められた国内選考会、Tリーグ個人戦、世界卓球など国際大会での成績を基にポイントを付与。上位2名がシングルスの出場資格を手にする。
この選考レース(7月4日現在)で首位、抜群の安定感を誇るのが早田ひな(日本生命)だ。前回の東京五輪では補欠メンバーに回ったが、ここ数年は国内外の大会で好成績を収めている。
今年1月に行なわれた全日本選手権では、女子選手として史上4人目となる三冠(シングルス、ダブルス、混合ダブルス)を達成。日本女子の中で最も脂が乗っている選手で、直近の選考会だった6月の「Tリーグ NOJIMA CUP2023」を終え、497.5ポイントを稼ぎ、2位に180ポイント以上の差をつけての独走状態だ。
これまでの早田は、男子選手顔負けの豪快なフォアドライブやスマッシュが持ち味とされてきた。それに加えて、バックハンドによる強打や長短を織り交ぜたサービス、ラリー戦における相手に合わせた緩急の使い分けなど、高いレベルにおいての技術的な引き出しが増えた。
5月に開催された「世界卓球選手権ダーバン大会2023(世界卓球)」のシングルス準々決勝、王艺迪(中国)相手に見せた9度のマッチポイントを防いでの勝利は、それが結果となって表れた形だ。
一方、選考会で苦しんできたのは、リオ五輪、東京五輪と2大会連続メダルを獲得し、日本のエースとして活躍してきた伊藤美誠(スターツ)。
今年1月頃から腰と臀部(でんぶ)の痛みがつきまとい、全日本選手権では高校生の選手に敗れ、まさかのベスト16敗退。過密日程の影響もあってコンディションが整わず、選考会での結果も伴わない状況に涙する場面も見られた。
しかし、世界卓球でその空気が一変した。「楽しくやる」と言い聞かせて臨んだ戦いで、故障を抱えながらも初戦からストレート勝ちを重ね、目標としていたベスト8入りを達成。試合後には笑顔も見られるなど、どん底状態から脱出するきっかけをつかんだ。
さらにNOJIMA CUPでは、準決勝で〝盟友〟の早田と対戦。波に乗るサウスポー相手にフルゲームの激闘を制した。決勝では敗れたが、大会の収穫を「早田選手を倒せたこと」と振り返った。
選考ポイントレースでも3位の275.5ポイントまで上げてきており、「まずはこの(選考レースの)接戦に乗れたことが大きい」とメンタル的な回復が窺(うかが)えた。結果が出てきたことはプラス材料で、逆転でのパリ行きは十分に射程圏内といっていい。
早田、伊藤と同じ2000年生まれの〝黄金世代〟で、10代から女子卓球界を牽引(けんいん)してきた平野美宇(木下グループ)も、パリ行きが期待されるひとり。リオ五輪では補欠メンバーで、前回の東京五輪の選考レースでは、今年5月に現役を引退した石川佳純との壮絶なデッドヒートを繰り広げた。
最終的には石川に逆転を許してシングルスの出場権を逃し、3人目の団体戦メンバーとして五輪の舞台を踏んだ。
パリ五輪の選考ポイントで早田に次ぐ2位の平野(312ポイント)も、伊藤と同じく選考会の序盤戦では苦戦を強いられた。
しかし、直近のNOJIMA CUP後には、「東京五輪のときは、17年に結果が出たこともあり、『五輪に行けなかったらもったいない』という気持ちがあった。それから5、6年くらいたって、日本や自分のレベルを考えたときに『(自分は)挑戦者だ』と思った」と、心境の変化を明かした。
キャリアを重ねたことで、〝ハリケーン・ヒラノ〟と脚光を浴びた10代の頃の勢いだけでなく、冷静に物事を俯瞰(ふかん)する〝新たな平野美宇〟が垣間見えるようになってきた。
その挑戦者としての姿勢は功を奏しており、NOJIMA CUP決勝では、選考レースのライバルである伊藤との〝黄金世代対決〟を制した。最終ゲームでは4-8とリードを許しながら焦りを見せず、最後は4連続ポイントで劇的な逆転勝ち。優勝後も浮つく様子はなく、自然体な姿が印象的だった。
さらに、6月下旬~7月上旬に行なわれた「WTTコンテンダーザグレブ」では、世界ランキング1位の孫穎莎(中国)を破って圧巻の優勝。早田の優位は揺るがないが、復調気配の伊藤と平野を含めた代表レースは激しさを増していくだろう。
この3人の間に割って入る選手はいるのか。注目選手のひとりが、日本男子のエース・張本智和の妹で、ここ1年で急成長を見せている張本美和(木下アカデミー)。5月に行なわれた「2023 全農CUP 平塚」の準々決勝では平野を下し、決勝まで進出。早田には敗れたが、一躍ダークホースへと名乗りを上げた。
WTTコンテンダーチュニスでは強烈なパワードライブを武器に、格上の申裕斌(韓国)を下して優勝。世界ランキングは日本勢4位の16位(7月4日発表分)に浮上した。
身長166㎝の張本は、バックハンドの威力に磨きがかかっており、まだ15歳と、さらなる成長も期待できる。現在のポイントランキングは7位だが、上位3人を窺う存在になれば面白い。
ほかにも、世界卓球でダブルス銅メダルを獲得した木原美悠と長﨑美柚(共に木下グループ)も選考ポイント上位には名を連ねる。選考レースは終盤にかけて混戦のまま続いていくことが濃厚で、7月22、23日には次の選考会「2023 全農CUP 東京」が控えている。
独走状態の早田を中心とした〝黄金世代〟を、伸び盛りの新世代が追いかけるという構図となりつつあるこの争いを制するのは誰か。パリ行きをかけた熾烈な戦いから、引き続き目が離せない。