前回の19年大会はベスト16。今回は、長らく10番を背負い、4大会連続出場を目指していた岩渕真奈(30歳、前列左端)が落選。若手が多めのメンバー構成に。下馬評は低い前回の19年大会はベスト16。今回は、長らく10番を背負い、4大会連続出場を目指していた岩渕真奈(30歳、前列左端)が落選。若手が多めのメンバー構成に。下馬評は低い

あの盛り上がりはどこへ......。かつて世界を制し、国民栄誉賞も受賞するなど一大ブームを巻き起こした、なでしこジャパン。ところが今、4年に一度の女子W杯の開幕が近づいているのに、世間の関心は超低空飛行。あまりに寂しいので、なでしこの番記者3人に注目選手、勝ち上がりのカギなどを聞いた。ぐゎんばれ、なでしこジャパン!!

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■ラッキーな組分けでベスト4を狙える!

一般紙女子サッカー番記者A氏(以下、) 大会開幕が近づけばなでしこ絡みの報道が少しは増えるかと想像していたけど、各メディアとも見事なまでの放置プレイ(苦笑)。4日時点でまだテレビ中継も決まっていないし......。

サッカー専門誌編集者B氏(以下、) 今回はスペインやドイツといった欧州の女子サッカー人気国でさえ、放映権料の暴騰を嫌ってどの局も手を挙げなかったからね。慌てたFIFA(国際サッカー連盟)が開幕直前で譲歩し、欧州広域単位の包括契約にすることで一局当たりの負担額を下げて、なんとか地上波中継にこぎ着けたそう。

ただ、こと日本に限っては、2011年大会の劇的な優勝や15年大会の準V以降、世界大会でなでしこが目立った成績を残せなかったのが大きい。マイナースポーツは「日本代表」が大舞台でファンのナショナリズムをくすぐれないと、どうしても一過性の人気で終わってしまうからね。

スポーツライターC氏(以下、) でもだからこそ、快進撃を見せれば一気に世間の話題をさらえる可能性があるんですよ。私は低い下馬評ほど今大会のなでしこに対して悲観的じゃないですね。

 その理由は?

 まず、これ以上ないくらい組分けに恵まれました。日本(FIFAランク11位)のグループCは、ほかにスペイン(同6位)、コスタリカ(同36位)、ザンビア(同77位)という顔ぶれ。絶対的な存在のチームがいないんです。

 え? スペインが頭ひとつもふたつも抜けてて、次に日本が続き、あとの2ヵ国は問題外って力関係ではなく?

 確かに本来の実力の比較ならスペインは別格。ですが昨年9月、「現監督の指導方針は受け入れられない」と、代表選手のうち15人が招集を辞退したんです。今大会の登録メンバーには辞退組のほとんどが戻ってきましたが、それでも守備陣の主力数人を欠いたまま。

しかもエースのプテジャスは昨年、左膝の前十字靱帯を断裂し、ようやく実戦復帰できたのが今年4月で、まだ90分フルにはプレーできません。

チームの結束的にも戦力的にもベストと呼べない状態で、つけ入るスキは大いにアリと見ます。

 じゃあ日本のグループリーグ突破はもちろん、1位抜けも期待できると?

 ええ。そして、もしトップ通過すると、決勝トーナメント1回戦の相手はグループAの2位だから、おそらくスイス(同20位)かニュージーランド(同26位)。

Aで1位濃厚のノルウェー(同12位)に比べればはるかに戦いやすく、勝てば準々決勝の相手はたぶんスウェーデン(同3位)対オランダ(同9位)の勝者。いずれも過去、日本にとってさほど相性の悪いチームではなく、4強入りだって狙えると踏んでるんです。

 それを考えると、グループCに振り分けられたのは超ラッキーだったと。

 ただ、コスタリカはともかく、グループ中で世界ランクが最も低いザンビアが不気味な存在で。前線に速くて強いFWがふたりもいて、先日のスイスとの親善試合では、3-3で引き分けてるんですよ。初戦で日本がザンビアとドローもしくは負けたりすると、グループリーグ敗退も覚悟しなきゃいけない。

 〝速くて強い〟って、日本のDF陣が一番苦手なタイプのFWだよな。

■池田監督に期待したい適材適所の采配!

 DF陣の話が出たので、今大会での日本をポジション別に展望してみましょうか。

 DFはおそらく、三宅史織(INAC)、熊谷紗希(ローマ)、南萌華(ローマ)で構成する3バックがベースになる。

でも今の話じゃないけど3人とも速さや強さや高さのある相手に強いとはいえず、マークを外しやすい。だから左右のサイドハーフが献身的に上下動を繰り返し、3バックと連携を取りつつ敵アタッカーにいかに自由を与えないかが守備組織のポイントといえるだろうね。

 その点、3-4-2-1システムの「4」の右に入る清水梨紗(ウェストハム)は、攻守に計算が立つことを証明済み。

左は相手に応じて杉田妃和(ポートランド)と遠藤純(エンジェル・シティ)を使い分けるんだろうけど、両者とも攻撃に関してはアメリカの女子プロリーグでそれぞれの決定力や突破力に磨きがかかった。

でも今のなでしこでは攻撃だけでなく、守備での運動量も求められる。つまりディフェンス面では、彼女たち左サイドハーフの出来がカギを握るんじゃないかな。

 中のボランチ2枚は、長谷川唯(マンチェスター・シティ)と長野風花(リバプール)でいくみたいだね。

 長谷川はもう1列前で使いたいけどなあ。

 そう。今季移籍したマンCでは未経験のボランチを任されたんですが、戸惑うどころか持ち前のサッカーセンスで新境地を開拓しました。攻守で気の利いたプレーを連発して、今やクラブの大黒柱。

しかし、なでしこではやはり、最大の持ち味であるラストパスのセンスを存分に発揮してほしいし、そうでなければ身体能力に劣る日本のアタッカー陣が世界の強豪からゴールを奪うのは難しい。

 でも池田太監督は長谷川をトップ下で使いたがらないんだよなあ。今大会は2シャドーを置くようだけど、宮澤ひなた(マイナビ仙台)と猶本光(浦和)の起用が濃厚だ。

 宮澤得意のドリブルで敵の最終ラインに突っかけて、決定機をつくってほしいという意図はわかる。解せないのは、今回がW杯初出場となる猶本だよ。

確かに今季のWEリーグを制した浦和である程度のゲームメーク力は見せたけど、あくまで国内レベルでの話。厳しいプレッシャーにさらされる国際試合のトップ下でボールを操れるうまさや強さやアジリティ、プレーの意外性といった点がどうしても物足りない。FKキッカーとしての安定感は日本の武器になりえるとは思うが......。

 そのゲームメークの部分で、なでしこにはもっと大きな懸念材料が。持てる資質を考えればなでしこの攻撃は長谷川が仕切るべきなんですが、大会前の発言などから推察するに、長野も司令塔役を自任しているフシがあるんです。

 確かに彼女はこれまでの所属クラブで攻撃の中心としてやってきたけど、長谷川との力量差は歴然としてるよね。

 そして猶本も2シャドーの一角でもし起用されれば当然、攻撃のタクトを振ろうとするでしょう。「船頭多くして船山に上る」よろしく、ゲームメーカー然とプレーする選手が3人もいたら、W杯では勝てない。

11年大会で日本が優勝できたのは、澤穂希に勝るとも劣らない技術とパスセンスを持った阪口夢穂が、ダブルボランチの相棒である澤の黒子に徹し、戦術眼を生かして攻守のリンク役に徹したからこそ。長野に求められるのは、そうした縁の下の力持ち的な仕事です。

同様に池田監督には、長谷川と猶本のポジションの入れ替えを検討してもらいたい。3-4-2-1システムなら、絶対そっちのほうが適材適所ですよ。

 じゃあ最前線のワントップは誰が?

 どうやら監督は田中美南(INAC)を先発として考えてるみたいだけど、これまでの国際大会でのパフォーマンスを振り返ると、悪いけど彼女がW杯でゴールを決めるイメージが湧かない。のるかそるかの賭けになるけど、ここは19歳の浜野まいか(ハンマルビー)の大抜擢を期待したいな。

イングランドリーグ女王のチェルシーが今年2月に獲得したほどの逸材で、レンタルに出されたスウェーデンの現所属チームで点を取りまくってるからね。

 大会を通じて勢いのある若手がぐんぐん成長していくパターンってありますからね。ただ彼女はひとりで局面を打開してゴールを決めるというより、コンビネーションの中で生かされるタイプ。その意味でも2シャドーの人選が大事になってくるのですが......。

 池田監督の采配も、チームの勝敗を大いに左右する要素ってことだね。今大会のなでしこには意外に期待が持てそうだから、日本中をあっと言わせてほしいよ!