前半戦で印象的だった守備陣をフカボリ! 前半戦で印象的だった守備陣をフカボリ!
不動のボランチとしてジュビロ磐田の黄金期を支え、2006年開催のドイツワールドカップには、日本代表の中心メンバーとして出場。日本サッカーが世界水準へと飛躍していく瞬間をピッチの中央から見つめていた福西崇史。 

そんな福西崇史が、サッカーを徹底的に深掘りする連載『フカボリ・シンドローム』。サッカーはプレーを深掘りすればするほど観戦が楽しくなる!

第62回のテーマは、2023年J1リーグ上半期で印象的だった守備陣。今季はハードワークをベースに強固な守備で躍進するクラブが多いシーズンの中、とくに優れた守備で堅守を築いている3クラブを福西崇史が解説する。

 * * *

これまでの攻撃的なスタイルから大きく方向転換をして躍進を遂げているのが、現在首位に立つヴィッセル神戸です。失点数は21節を終えて17点とリーグ最小で、守備の堅さは数字の上でも立証されています。

攻撃時は4-3-3のシステムですが、守備時にはインサイドハーフの佐々木大樹や井出遥也が一列上がって大迫勇也と2トップの形になり、4-4-2の形を取ります。全体的にコンパクトな陣形を保ちながら前からのプレッシングで制限をかけ、両サイドの武藤嘉紀、汰木康也のところでハメにいく。

そこをダブルボランチの山口蛍、齋藤未月という走力と運動量、ボール奪取能力に優れた2人がカバーし、溢れたボールを奪い、あるいは抜けられたところを潰しにいく。チームとして守り方や優先順位が非常に整理されました。さらにボールを運ばれても前の選手がサボらずにプレスバックし、スペースと時間を与えない。この献身性もこれまでの神戸と大きく変わった点だと思います。

以前の神戸は、全体的にコンパクトさに欠けたり、前からプレスにいっても後ろがついて来ていなかったり、チームとしてうまく連動できず、中盤のラインを簡単に突破されてDFラインが晒(さら)されてしまうようなことが多々あったと思います。それが前線から連動できていることで、CBのマテウス・トゥーレルや本多勇喜は晒されることなく、相手のFWに対して前で勝負できるようになっています。

吉田孝行監督になって守備の問題を改善したことで、大迫や武藤、汰木といった前線のタレントをシンプルに活かしやすい形となり、非常に効率が良いサッカースタイルが確立されました。安定した守備をベースに攻守が非常に噛み合っているのが神戸の強さの理由だと思います。

守備の立て直しに成功したといえば浦和レッズも今季を象徴するクラブだと思います。マチェイ・スコルジャ新監督を迎え、開幕から1、2試合はチームとしてのバランスに欠け、複数失点で2連敗を喫しました。しかし、そこから徐々に安定感を増していき、21節を終えて17失点。神戸と並んでリーグ最小です。その堅い守備はACL制覇の原動力にもなりました。

浦和の守備のベースは4-4-2のシステムで、非常にコンパクトな陣形を取って、チーム全体の連動したディフェンスにあります。相手が低い位置でボールを持ったときは、前からプレスに出てハメにいき、そこを突破されても全体の戻りが非常に速く、タイトな陣形を崩しません。

その全体に崩れない守備がベースにあることで、高さのあるマリウス・ホイブラーテン、カバーリングに優れたアレクサンダー・ショルツのCBコンビが非常に安定感のある最終ラインを築くことができています。

さらに昨季から守護神の西川周作のパフォーマンスが上がり、安定したセービングがより守備を強固にしている点も見逃せません。就任1年目にして守備を立て直し、ACLというビッグタイトルを奪還したスコルジャ監督のマネージメント力は見事。あとは得点力が改善されれば、優勝争いにも絡んでくるチームになると思います。

名古屋グランパスは長谷川健太監督の代名詞でもある堅守速攻スタイルで、失点20はリーグ3番目の数字。ここまで横浜F・マリノスに次いで3位と躍進しています。長谷川監督政権も2年目で戦術がかなり浸透し、決定力に秀でたストライカーのキャスパー・ユンカーを獲得したことでより完成度の高いチームになったと思います。

名古屋は基本の3-4-2-1のシステムから守備時は5バックになり、最終ラインのスペースを埋めて自陣で奪ったボールを永井謙佑、マテウス・カストロ、キャスパー・ユンカーという前線のタレント3人でカウンターを完結させる。これが最大の武器になっています。

この堅守速攻の要となっているのが、米本拓司と稲垣祥のボランチコンビです。前の3人がかわされたところはもちろん、ウイングバックが上がったあとのケアなど全体をカバーリングし、攻撃でもボランチのどちらかが攻撃に参加しないと難しいという場面でどっちが上がっていくかなど、攻守のバランス感覚が非常に優れています。

また、前線の3人が攻め残りしたり、ある程度おろそかな守備だったりしても2人が広範囲にカバーすることでフィルターとして機能し、最終ラインが晒されずに済んでいます。名古屋の堅守速攻にはボランチの高い守備能力、運動量、インテンシティ、バランス感覚が欠かせないものとなっているのです。

★『福西崇史 フカボリ・シンドローム』は毎週水曜日更新!★