プロなのだから、こういう話題性のある移籍は歓迎。もっとあっていい。
今月6日、J2で2位(当時)の東京Vの主力であるMFバスケス・バイロンが、同じJ2で首位の町田に移籍した。
シーズン途中にJ1 昇格を争う近隣のチームへ、それも新国立競技場での直接対決の3日前に発表されたことから「異例の移籍」だと注目を集めた。
バスケスは町田の黒田監督が青森山田高校を率いていたときの教え子。それもあって、9日の試合前の所属選手とスタッフ紹介アナウンスでは、バスケスと黒田監督に対して東京Vサポーターから大ブーイングが起きた。僕はスタンドにいたんだけど、なんというか異様な雰囲気だったよ。
東京Vサポーターが怒る気持ちは理解できる。ただ、町田はルールに基づいて、チームの強化に必要な選手を獲得しただけの話。逆に東京Vはバスケスを引き留められなかった。そして、移籍の発表がたまたま直接対決の直前になった。
プロならより条件の良いクラブ、より上を目指せそうなクラブを選ぶのは当然のこと。日本では海外移籍が決まると、たとえ移籍金が安くてもその選手はサポーターに祝福されて送り出される。なのに、なぜ国内移籍はダメなのか。僕から見れば同じ移籍だ。
海外でもこうした移籍はたまにある。有名なところでは、昔、フィーゴ(バルセロナ→レアル・マドリード)やルイス・エンリケ(レアル・マドリード→バルセロナ)の移籍が大騒ぎになったことがあったね。でも、今回の町田と東京Vはレアルとバルサほど因縁深い関係ではない。
さっきも言ったけど、東京Vからすれば悔しいのは当然。ただ、今回の移籍をきっかけにサポーターもまとまっただろうし、新たにチームに興味を持ってくれた人もいるはず。実際、新国立での町田戦では、東京Vを応援する声の方が大きかった。悪いことばかりじゃないと前向きに考えてほしい。
一方、町田は今回の引き抜き以外にも、守備的なスタイル、試合中に露骨な時間稼ぎを厭わないなど徹底的に勝ちにこだわるサッカーで、悪役っぽいイメージを持たれている。
でも、それに関しても、僕は問題ないと思う。確かに、町田のやっているサッカーが魅力的かと言われれば微妙だし、東京V戦ではベンチが興奮しすぎていた。東京Vの方がはるかにいいサッカーをやっていた(試合は2-2の引き分け)。
とはいえ、プロは結果がすべて。町田の黒田監督は今持っている戦力で結果を出すために、ルール内で今のサッカーをやっているということ。
町田サポーターもいいサッカーよりも勝つサッカーの方がうれしいはず。昨年のカタールW杯でも日本代表は超守備的なサッカーをやっていたけど、ドイツとスペインに勝ったら日本中が大喜びしていたよね。
町田のこれまでの戦いぶりを見れば、来季のJ1昇格は堅いだろう。ただ、問題はそれからだ。
今のサッカーだとJ1では厳しい。12日の天皇杯3回戦では横浜FMに勝ったけど、リーグ戦はまったくの別物。財政面で苦労しているクラブが多い中、せっかく大きな親会社(サイバーエージェント)がいるのだから、「西の神戸、東の町田」と呼ばれるくらいの大型補強をして、Jリーグを活性化する存在になってほしい。
●セルジオ越後
1945年生まれ。72年の来日以降、指導者・解説者として活躍。活動の詳細は『セルジオ越後 オフィシャルサイト』にて