野球の魅力のひとつといえば、誰にも触られることなく打球がスタンドに飛び込むホームラン。ただ、ホームランといってもいろいろなパターンがあります。どかんと1発行ってみよう、ということで、今回は「ソロホームラン」についてお話しさせてください。
2021年に現役を引退されましたが、DeNAやオリックスでプレーした白崎浩之という選手がいました。駒沢大学時代は首位打者とベストナインに輝き、2012年にドラ1でDeNAに入団。50メートル5秒9の俊足と、遠投110メートルの強肩が特徴の内野手でした。白崎さんは2014年のシーズン最終戦で、ヤクルト小川泰弘投手から4回にプロ初ホームランを放ちます。ランナーはいなかったのでソロアーチでした。
球団やファンから将来を期待された白崎さんでしたが、思ったような成績は残せず、2018年にトレードでオリックスへ移籍。2021年に九州アジアリーグの大分B-リングスの選手兼任コーチを務めたのち、現役引退。現在は西武ライオンズアカデミーでコーチを務めていらっしゃいます。
その白崎さんには"ミスターソロホームラン"という異名がありました。オリックス移籍第1号こそ2ランでしたが、それ以外は見事にソロホームランのみ。プロ野球で放った16本のうち、実に15本がソロホームランというから驚きです。ソロホームラン率は、なんと90%超。
ヤクルトでいえば、バレンティンもソロアーチが多かったイメージです。強打者を相手にした時、ランナーがいないという状況は投手にとって大きな心理的アドバンテージになるんだと思います。プレッシャーを感じてないからこそ投手は思い切り投げられるけど、放り込まれることもある。
でも、ソロホームランは"事故"だと割り切れることもあるでしょうね。投手の立場からしたら、塁に出られて、ランナーがたまって、ずるずるとチャンスが続くのが一番嫌だろうと推察します。だったら、ソロアーチはリセットしやすいという考え方もできます。
特に、試合序盤のソロホームランは痛手が少ないんじゃないかと。打者からしたら大事な一発ですし、得点を挙げることも大切であることは間違いないのですが、そこまで引きずることではないはず。
個人的に、投手の価値や格は、ランナーがいる時に出ると思っています。ランナーがいない時に手を抜いている、というわけではありませんが、多少は出力を調整しているはずです。特に先発投手は長いイニングを投げるので、強弱は必要だと思います。
メジャーの投手も、ソロホームランを打たれてもそんなに気にしてないように見えます。交代の目安になる球数もありますし、「クオリティスタート(6回3失点)を目指すならば、どうせ失点するならソロホームランを打たれたほうがいい」と考えている投手もいるかもしれません。
実際にソロホームランを打たれて、エースが崩れるイメージはありません。大谷翔平選手も、投手の時はソロホームランを打たれても、試合を通したら抑えているイメージがあります。それよりも、連続して打たれる2ベースの方がよっぽど怖そう。プロ野球のセ・リーグを連覇していた頃の広島がまさにそうで、ホームランが出なくてもどんどん点が入っていきました。投手としてはさぞかし嫌だったと思います。
逆に、ソロホームランが起爆剤になることもあります。期待を込めて代打で送り込んだ選手がホームランを打つ。「停滞した空気を変えてほしい」という思いを、最も効率のいい手段で得点にするわけですから、ベンチのテンションは間違いなく上がるでしょう。まさに反撃の狼煙。
試合の勝ち負けとは関係ない部分ですが、ソロホームランって見ていても気持ちよさそうですよね。ランナーがいない中でアーチをかける。テレビカメラはその打者を追いかけ続けますし、ダイヤモンドを一周する間もずっと注目される。塁に出ていたランナーのお迎えもない。実はすごく快感なのかもと思いましたし、その後も気持ちよくプレーできるのかも。
何げないソロアーチは、試合を変える合図なのかもしれません。劣勢で迎えた9回、ツーアウトランナーなしからのソロアーチなんて、その後の展開への期待が高まりますよね。たとえそのまま敗戦したとしても、その瞬間の盛り上がりはその先の試合に生きるはずです。
やっぱりホームランっていいものですね。ホワイトベリーさんの『夏祭り』を聴きながら、そんなことを思った1日でした。それではまた。
★山本萩子(やまもと・しゅうこ)
1996年10月2日生まれ、神奈川県出身。フリーキャスター。野球好き一家に育ち、気がつけば野球フリークに。
2019年より『ワースポ×MLB』(NHK BS1)のキャスターを務める。愛猫の名前はバレンティン