高校野球の東東京大会の決勝、共栄学園と東亜学園の試合ですごいシーンを見ました。共栄学園が1点ビハインドで迎えた9回裏。2アウト2、3塁で、打者がまさかのセーフティバント。意表をついたプレーで相手のエラーを誘い、同点に追いついたのです。バントというプレーの奥深さと可能性を感じたシーンでした。

ただ、これは相当イレギュラーなケースだと思います。一般的にバントは確実にボールを転がし、ランナーを次の塁に進めるためのプレーで「犠打」とも呼ばれます。自分が犠牲になって、味方を進塁させる。チームプレーに欠かせない「日本人好み」なプレーですね。

以前、少年野球の指導者らしき方が、こんなことを書いているのを見ました。四球で出塁したら、足で揺さぶり2塁へ。そしてバントで3塁に送り、スクイズで1点。安打がなくてもバントだけで1点を取ることを理想としていたようです。

プロでも、バントの重要さは変わりません。「バント職人」、いや、「バントの神様」と呼ばれた川相昌弘さん(元巨人・中日)が通算533本のバントで世界記録を作ったことも、プロにおいて大きな武器になることを証明しています。

それは大前提とした上で、「ここはバントでいいのかな」と疑問に思うこともあります。

7月22日、DeNA対巨人の試合を見に行った時のことです。巨人の1点リードで迎えた3回のこと。安打が続き、ノーアウト1、2塁で迎えたバッターは3番の秋広優人選手。ここでベンチからバントのサインが出ました。

秋広選手といえば身長2メートルと大柄で、長打力に加えて技術も高い選手として売り出し中の高卒3年目の選手です。実はその2週間前に、秋広選手はプロ初犠打を決めたばかり。その時は初回の1死ランナー1塁からバントのサインが出て、見事に成功させました。

しかし、22日のDeNA戦では犠打を失敗。もちろんバントが悪いわけではありませんが、クリーンナップを担う選手としてさらなる成長を期待するという点を考えると、思いきり振らせてあげてもよかったのかな、とも感じました。その場面はSNS上でもさまざまな意見が出ていたようですが、それだけ秋広選手が期待されている選手ということですね。

ぜひみなさまの意見もお寄せくださいね。野球談義最高。 ぜひみなさまの意見もお寄せくださいね。野球談義最高。

バントは、なかなか得点が取れない状況で有効な戦略でもあります。冒頭でお話ししたようにランナーを確実に進めることができ、意表をついたり、力がある投手を揺さぶったり、という効果も期待できます。ただ、ランナーが出たから毎回バントという采配が続いたとしたら、ファンは野球に夢を感じなくなってしまう気もします。柔軟性や意外性がある采配も、野球の面白みのひとつですから。

長くなってしまいましたが、個人的に「あの時は秋広選手に打たせてほしかった」ということに尽きます(笑)。選手がひと皮むけて成長するシーンが見たいですし、秋広選手はそれを大きく期待させるような"器"の選手だと思っています。

繰り返しますが、バントが悪いと言っているわけではありません。メジャーはバントをあまりしないイメージあるかもしれませんが、チームや選手によって全然違います。例えば、クリーブランド・ガーディアンズはバントを多用しますね。どういう野球を志向するのかは、それぞれのチームの哲学なのだと思います。

勝っても負けても何か言いたくなるのが野球ファン。プロ野球の監督とはとても大変なお仕事だと思いますが、これからもたくさん夢を見させてほしいです。いやあ、野球って本当に素晴らしいものですね。それではまた来週。

★山本萩子(やまもと・しゅうこ)
1996年10月2日生まれ、神奈川県出身。フリーキャスター。野球好き一家に育ち、気がつけば野球フリークに。
2019年より『ワースポ×MLB』(NHK BS1)のキャスターを務める。愛猫の名前はバレンティン

★山本萩子の「6-4-3を待ちわびて」は、毎週土曜日朝更新!