キャプテン論をフカボリ!キャプテン論をフカボリ!
不動のボランチとしてジュビロ磐田の黄金期を支え、2006年開催のドイツワールドカップには、日本代表の中心メンバーとして出場。日本サッカーが世界水準へと飛躍していく瞬間をピッチの中央から見つめていた福西崇史。 

そんな福西崇史が、サッカーを徹底的に深掘りする連載『フカボリ・シンドローム』。サッカーはプレーを深掘りすればするほど観戦が楽しくなる!

第64回のテーマは、日本代表のキャプテンについて。先日のキリンチャレンジカップで吉田麻也から遠藤航へ主将がバトンタッチされた。歴代のキャプテンに振り返りながら意外と深いキャプテン論を福西崇史が解説する。

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日本代表のキャプテンとしてロシアW杯以降の4年間、吉田麻也が代表チームを率いてきました。そして先日のキリンカップチャレンジ2023でのエルサルバドル戦で、正式に遠藤航が新キャプテンに就任しました。チームにおいてキャプテンは集団をまとめる中心的存在で、とりわけ短期間で集まって試合をしなければならない代表チームにとって重要な役割となります。

歴代の日本代表で一般的に強く印象に残っている最初のキャプテンは、1993年W杯アジア最終予選の"ドーハの悲劇"でもキャプテンマークを巻いた"闘将"柱谷哲二さんでしょう。その後は1998年フランスW杯では井原正巳さん、2002年日韓W杯は森岡隆三、2006年ドイツW杯(2002~2004年は中田英寿)は宮本恒靖、2010年南アフリカW杯(2006~2008年は川口能活、2008~2010年は中澤佑二)からロシアW杯にかけて長谷部誠と、W杯ごとに印象的なキャプテンが代表チームを束ね、今日まで繋いできました。

新しいキャプテン選びは、すでにわかりやすくチームを引っ張っている存在がいない場合は悩ましく、影響力を考えると難しい問題です。個人的にはボランチやセンターバック(CB)など、後ろの選手がやるべきだと思っています。歴代の代表キャプテンもそれぞれのキャラクターは違うけれど、ほとんどが後ろのポジションの選手が務めてきました。

なぜかというと、キャプテンはピッチ内外で責任感を持ちながらチームのことを考え、さまざまなところに目を向ける必要があるからです。試合中は荒れたときにレフェリーに呼ばれてチームを落ち着かせるように促されたり、試合展開の中でチームへさまざまな声をかけたり、立場的にも多くのことが求められます。

そういったときに後ろから常にチーム全体を冷静に見ることができるCBやゲームの流れの中心となって落ち着かせることができて、ゲームメイクの得意なボランチが適していると思っています。そういう選手はピッチ外でも周りがよく見えていて、気を配れる場合が多いです。

逆に前の選手がそういった立場になると、チームのことを考えてしまい突拍子もないことができづらくなり、トゲがなくなってしまいます。前の選手には良い意味で好き勝手にプレーしてもらうことが必要だと思うので、やはりキャプテンにするのは守備的な選手の方が適しているのかなと個人的には思いますね。

私が出場したドイツW杯のときのキャプテンもCBのツネ(宮本恒靖)でした。彼はピッチ内でのキャプテンシーだけでなく、選手と監督との橋渡し役として本当に優れていました。選手たちの思いをうまく汲み取って監督に伝えることができたし、監督の気持ちも汲んで選手が納得できるよう伝えてくれました。

また、代表は強烈な個性を持った選手の集まりですが、ツネがいつも周りを気にかけ、選手たちが孤立することなく、チームが一つになるよう繋いでくれていました。すごくキャプテンに向いた選手だったと思います。

ただ例外として、例えばカタールW杯で優勝したアルゼンチン代表のリオネル・メッシのような圧倒的な影響力を持ち、「その選手を中心にチームを作るしかない」というケースでは、前の選手であってもキャプテンにせざるを得ないし、するべきだと思います。

ジュビロ磐田の黄金期の最初の頃もゴンさん(中山雅史)が絶対的な存在でした。ただ、ゲームになるとゴンさんはFWの仕事に専念するために、ハット(服部年宏)がその役割を担うこともあったり、ドゥンガはキャプテンマークを巻いていようがいまいがキャプテンという存在感がありました。ハットは実際に1999~2005年まで長くキャプテンを務めました。

ゴンさんはプレーや存在感でチームを引っ張れるのはもちろんですが、ピッチ外で選手たちが思うことがあるときに、監督との間に入って意見を聞いてくれる存在でもあって、なにかあったらゴンさんに話すというのはチームの中で決まっていました。そのおかげで選手たちが困ることはありませんでした。

ツネもそうでしたが、選手の意見を集めて監督に伝える、監督の意見を選手たちに伝えるというのもキャプテンに求められる大事な役割です。

もう一つ選ぶときに「どの年代の選手に任せるか」というのも大事なポイントです。個人的には若い選手に任せたほうがいいと思っています。なぜならば、キャプテンを任された選手が本当にキャプテンとなるには時間がかかるものだからです。

長谷部も今では歴代の中でも象徴的なキャプテンですが、藤枝東高校から18歳で浦和レッズに加入した頃は、やんちゃでとてもチームをまとめるようなタイプではなかったと思います。それでも岡田武史監督に南アフリカW杯の直前に25歳で抜擢されたことで意識が変わり、彼の根の真面目さもありながら徐々にキャプテンらしくなっていったと思います。

時間をかけてキャプテンらしくなり、任命された時期が早かったことでW杯も3大会にわたって率いることができました。そういった意味でも、個人的には26歳の板倉滉に任せても面白いのではないかと思っています。

もちろん、遠藤のキャプテンシーや強い責任感、豊富な経験値は間違いなく代表キャプテンにふさわしく、申し分ありません。誰が務めるかはチーム事情によって監督が選ぶものですから、森保一監督の選択は正しいと思います。遠藤がこれからどのように日本代表を率いていくのか、注目していきたいと思います。

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