暑い。暑い。大事なことなので、何度でも言います。今日も暑いです。そして、炎天下でプレーする選手たちの健康は心配ですが、甲子園でも熱い戦いが繰り広げられています。

いつからか、彼らが試合中に笑顔を浮かべるようになったと思いませんか? 今日は高校球児の笑顔についてお話しさせてください。

今大会、千葉県代表の専大松戸が、1回戦の6回のピンチで伝令を2人出したことが話題になりました。最初に伝令を送り出したあと、すぐにもうひとりの伝令を"念押し"として送ったのだとか。勝敗を左右する大事な場面だと判断したのでしょう。

伝令には規定があって、1試合につき攻撃・守備3回ずつとされており、延長に入った場合はそれまでの回数に関係なく1イニングにつき1回使用できます。伝令がチームメイトと話せるのは、審判員がタイムを宣告してから30秒以内です。

伝令は高校野球独自のもので、プロ野球にはありません。自主性を重んじる高校野球では「監督はグラウンド内に入れない」という規定があるため、監督の指示を選手に伝えることが主な目的です。

先の専大松戸の試合に話を戻します。ベンチ入りしている選手だったら誰でも伝令に行けるのですが、「2人行ってもいいんだ」と思った方も多いと思います。どうやらルール上では、何人行っても問題はなさそうです。

主な仕事は「監督の指示」を伝えることですが、単に伝令だけでなく、リラックスさせる役割もあるのでしょう。ムードメーカーが送り込まれるのもよく見るシーンですね。かつて、伝令の選手がわざとチームメイトの前を通り過ぎて笑いを誘うシーンもありましたが、今でもよく覚えています。

伝令が行くと、ピンチの時でも選手たちに笑顔が戻ります。笑顔を届ける伝令はとても大事な役割です。そんな笑顔も、高校野球特有のものになりましたね。昔は、グランドの上では笑わないで黙々とプレーする子たちが多かったと思うのですが、今の子たちは本当によく笑うようになりました。私は「試合中にヘラヘラするな」と怒られてきた世代なので、とても不思議な気持ちになります。

球児たちの姿に涙が溢れる頻度が高くなってきました......。 球児たちの姿に涙が溢れる頻度が高くなってきました......。

でも、今の指導者や選手たちは、笑いを上手に取り入れていますよね。

高校生はプロの選手たちと比べると未熟ですから、ピンチの場面では動揺が表情に出ることも多いですし、甲子園の雰囲気に呑まれてしまうこともあります。顔面蒼白でマウンドに立っている投手を見ていると、テレビの前にいる私たちまで手に汗を握ってしまいます。

そんなとき、笑顔でリラックスさせる場面をよく見ます。高校生はメンタルの持ちようでプレーの質が大きく左右されますから、笑うことはすごく有効なんでしょう。私はピンチで笑顔を浮かべる高校生を見ると、キックが効いてるときにニヤリと笑うムエタイの選手を思い出します。彼らは笑うことで自らを鼓舞するそうで、痛いのに笑っているのを見て相手も不気味に思うんだとか。

あと、自由にのびのびとプレーする選手たちも増えた印象があります。髪型を伸ばしていることで話題になった慶應の選手などは、まさに現代の高校球児という感じです。私も、髪型は自由でいいのではと思います。

一方で坊主頭の、ヘッドスライディングでユニフォームをドロドロにする選手たちも、野球にとことん集中している感じがしてとても素敵だと思います。もしかしたら心の中では「髪を伸ばしているやつらに負けてたまるか」と思っているのかも。でも、そうやって、気持ちを盛り上がるのはとてもいいことですね。阪神vs巨人戦や早慶戦しかり、いいライバルがいてこそ、スポーツは盛り上がるのですから。

笑顔の話から少し逸れますが、高校野球のキャプテンって、なんであんなに立派なんでしょう。試合中は誰よりも声を出してチームを盛り上げ、勝っても負けても試合後には立派なコメントを残すことができる。特に強豪校のキャプテンはみんな人格者で、「人生2周目なのでは?」と思うほど。まだ10代なのに、常に重い責任を背負っていて、本当に立派だなと思います。

私は「キャプテンになれ」と言われてもきっと無理。キャプテンシーというのは生来のものだと思っていますから。人を引っ張っていく力があるタイプの人がいて、私は昔からそういう選手が好きでした。元ヤクルトの宮本慎也さんなどはまさにそのタイプですね。

ちなみに私は、副キャプテンタイプ。常に誰かにリードされるスタイルで生きてきました。では、うちの旦那さんはというと、これまた副キャプテンタイプ。我が家に主将は不在ですが、おかげさまで仲良くやっております。

次の試合は、各校のキャプテンに注目したらもっと面白くなるかも。頑張れ、キャプテン。笑顔で頑張れ高校球児たち。それではまた。

★山本萩子(やまもと・しゅうこ)
1996年10月2日生まれ、神奈川県出身。フリーキャスター。野球好き一家に育ち、気がつけば野球フリークに。
2019年より『ワースポ×MLB』(NHK BS1)のキャスターを務める。愛猫の名前はバレンティン

★山本萩子の「6-4-3を待ちわびて」は、毎週土曜日朝更新!