みなさんこんにちは、野球大好き山本萩子です。今日は当たると痛い、時に大ケガにつながるデッドボールについてお話しさせてください。

少し前に、ヤクルトが相手チームの打者にたくさんデッドボールを与えてしまったことが話題になりました。8月19日の試合で頭部に死球を受け、出場選手登録を抹消された中日の石川昂弥選手の状態もとても心配です。先日、無事に練習に復帰されたようですが、1日も早い一軍昇格を祈るばかりです。

デッドボールを与えてしまった後に、投手が帽子を脱いで謝るのはプロ野球でよく見かけるシーンです。その投手が翌日、相手の監督のもとに謝りに行くこともありますね。これって、実はとても日本的な行ないなんです。

アメリカではデッドボールを当ててしまった後に、相手に謝ることはありません。勝負を挑んで際どいボールを投げた結果、たまたま当たってしまっただけ。だから悪いことではないと。そのペナルティとして、ランナーは塁に出ることができるわけですから、それでイーブンだと考えているのかもしれません。(選手同士で個人的に謝罪することはあるそうです)

そう聞くと、メジャーのほうが割り切っているように思えますよね。日本はしがらみが多くて、アメリカにはないのか......というと、そんなことはありません。たとえば、投手が打者の背中の後ろを通る危険なボールを投げたら、メジャーでは"バトル開始"のサインです。

ほかにも、暗黙のルールがいくつもあります。

・大差がついている時はカウント3-0から打ちにいってはいけない

・大差で勝っている時に盗塁をしてはいけない

・ノーヒットノーラン継続中にバントヒットを狙わない

・打者を打ち取った時に、投手は派手なガッツポーズをしない

こういった「アンリトンルール」は不文律、紳士協定と呼ばれたりしますが、実に100近くあるとされています。これを破ると報復としてデッドボールを当てられるのですが、その際も「頭を狙ってはいけない」という暗黙のルールが......。

アメリカでは暗黙のルールを破る→報復という流れは、選手はもちろんファンもわかっています。甲子園で話題になった丸刈りvsサラサラヘアではありませんが、スポーツを盛り上げるのは"文脈"。遺恨やライバル関係があったほうが、次の日の試合は盛り上がります。

すべての選手がケガなく健康に、シーズンを全うできることを願うばかりです。 すべての選手がケガなく健康に、シーズンを全うできることを願うばかりです。

ただ、どれだけエキサイトしたとしても、一定のラインを超えてはいけません。

現在DeNAに所属するタイラー・オースティン選手がヤンキースでプレーしていた2018年4月、レッドソックス(当時)のジョー・ケリー投手から死球を受けて乱闘になったことがありました。体にボールが当たった直後にオースティン選手がバットを叩きつけて怒りをあらわにすると、ケリー投手がオースティン選手を煽ったことで大乱闘に発展します。

その時、誰よりも先に乱闘の輪の中に飛び込んだのはヤンキースのアーロン・ジャッジ選手でした。ジャッジ選手が何をしたかというと、相手のケリー投手の近くに行って暴力から守ろうとしたんです。相手への怒りから乱闘が始まったとしても、プレー以外でケガをするのは違うと考えたのだと思います。

時が経ち、日本に来たオースティン選手が交流戦のオリックス戦でデッドボールを受けた時には、ファーストを守っていた杉本裕太郎選手が帽子を脱いで謝っていました。投手以外の選手が謝るのも、実に日本的でいいですよね。当ててしまった投手は動揺もあるでしょうし、死球を与えてしまった時は、周囲の選手がサポートしてあげたら助かるのではないかと思います。

アメリカでは敗者に鞭を打たないことが美学だから、勝っているチームは"手加減"をする。それに対して日本は、最後まで全力を出すのが美学。デッドボールに関しても、アメリカではわざとではないから謝らない。日本では全力を尽くした結果だとしても、謝る。「罪を憎んで人を憎まず」とも言いますが、きっちりと謝ったら許してあげよう、という空気も生まれます。

デッドボール時の対応ひとつとっても、日本とアメリカ、それぞれの"らしさ"が現れていて面白いですね。

デッドボールでケガをした選手のニュースを見るたび、あらためて野球は危険と隣り合わせのスポーツなのだと思います。すべての野球選手たちが安全に野球をできることを祈って、今日は筆を置きたいと思います。それではまた来週。

★山本萩子(やまもと・しゅうこ)
1996年10月2日生まれ、神奈川県出身。フリーキャスター。野球好き一家に育ち、気がつけば野球フリークに。
2019年より『ワースポ×MLB』(NHK BS1)のキャスターを務める。愛猫の名前はバレンティン

★山本萩子の「6-4-3を待ちわびて」は、毎週土曜日朝更新!