「三冠王」も射程圏内にとらえるソフトバンクの近藤健介「三冠王」も射程圏内にとらえるソフトバンクの近藤健介

8月21日時点でリーグ1位の67打点を誇り、リーグ2位の18本塁打、リーグ3位の打率.302と地味に「三冠王」も射程圏内にとらえるソフトバンク・近藤健介。WBCでも活躍した希代のヒットメーカーに今季起きている〝バッティングの進化〟とは!?

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■選球眼型打者から〝自分で決める打者〟へ

エンゼルス・大谷翔平の「三冠王」の可能性がニュースでたびたび報じられている。が、灯台下暗し、日本でも三冠王に挑む選手がいた。日本ハム時代の大谷が「師匠」とまで語ったことのある希代のヒットメーカー、ソフトバンクの近藤健介だ。

7年総額50億円という破格の条件で日本ハムからソフトバンクに移籍して迎えた今季、春先は侍ジャパンの「不動の2番」としてWBC制覇に大きく貢献。ペナントレースでも期待どおりの数字を残し、打率.302はリーグ3位。1位の頓宮裕真(オリックス)とは1分3厘の差だ。

また、早くもキャリアハイ(11本)を大きく超える18本塁打は1位の浅村栄斗(楽天)と3本差の2位。そして、キャリアハイ(69打点)に迫る67打点は堂々のリーグ1位で、チームメイトの柳田悠岐が61打点で追いかけている(成績はすべて8月21日時点)。

過去に何度もランクインしたことのある打率は「さすが」として、どうして本塁打や打点の成績も残せているのか? そして、三冠王の可能性は現実的にあるのか? 週刊プレイボーイ本誌おなじみの野球評論家・お股ニキ氏に解説していただこう。

「大谷が慕っているのもそうですし、球界関係者からの評価がずっと高い選手です。日本ハム時代は、日本人がイメージする〝打率を残す選球眼型打者〟で、2017年には出場試合数が少ないながらも、打率.413という数字を残しています。WBCでも2番に入り、1番・ヌートバーと3番・大谷、4番・吉田正尚をつなぐ潤滑油として活躍しました」

では、具体的に今季の近藤は何が変わったのか?

「以前の近藤は、勝負どころで自分で打って決めるよりも、選球眼の良さを生かして四球を狙っていくようなスタイルでした。

結果として出塁率は高いものの、ボールをよく見ようとするあまり、打つポイントが手元に近く、差し込まれることもありました。そのため、広い札幌ドームでは柵越えすることがあまりできず、フェンス直撃の打球も多かったんです。

その点、今季からホームランテラスのある福岡PayPayドームが本拠地になったことで、開幕前から『20本くらい打てる』と期待する声は確かにありました」

大谷翔平に「師匠」と慕われる近藤。WBCでは2番打者として世界一に貢献した大谷翔平に「師匠」と慕われる近藤。WBCでは2番打者として世界一に貢献した

ただ、本拠地が変わる以前から、近藤自身の打撃スタイルにも変化があったという。

「昨年くらいから、『自分が打たないと』とホームランを狙うパワーフォルムになり、若干、〝大谷感〟が出てきたというか、レフト方向にもホームランが入る打ち方になりました。

移籍や高額契約のプレッシャーで力みもあったのか、4月、5月は打つポイントがやや近すぎましたが、6月以降は長打も増え、ホームランも増加しています」

その変化を生んだ要因のひとつとして、ソフトバンクでの役割の変化も見過ごせない。

「開幕当初は侍ジャパンにならって2番が定位置。やがて3番になり、8月以降はほぼ4番で固定。4番になったことで4番らしい打撃になっているのが面白いです。また、7月に右膝を負傷して全力で走れなくなった分、どっしりと構えて振り抜く打撃になった影響もあるかもしれません」

実際、4月、5月の月間打率は2割5分前後と苦しんでいたが、6月以降の月間打率は3割5分前後をキープ。9割を超えれば一流打者といわれるOPS(出塁率+長打率)はシーズン平均で.948。6月以降はなんと1.000以上をキープしている。

「ボールが飛びにくく、投高打低が顕著な今のプロ野球でこの数字はすごい。やはり、出塁率が高いといっても、最初から四球狙いの打者は怖くない。自分で勝負を決める、という意識の変化も大きいでしょう。今の状態であれば、打点王のタイトル獲得の可能性は十分あると思います」

■夢の三冠王へ! イメージはイチロー

近藤の打点王獲得に期待を寄せるお股ニキ氏。では、三冠王獲得のため、打率と本塁打を争うライバルたちの動向もチェックしてみよう。

「頓宮は打率が残るスイングで、この先、大きく数字を落とすとはあまり考えにくい。そして、ホームランに関しては浅村の調子が良く、打率は2割7分くらいでもいいから一発大きいのを狙っていく打ち方になっている。近藤からすれば、三冠王を狙うには打率を維持したまま長打を打つ必要があり、現実的には高い壁といえます」

各部門の打撃成績をじっくり見ると、パの投高打低ぶりがよくわかる。3割超えはわずか3人。本塁打、打点もかなり低調だ。そんな状況で数字を残す近藤に対して、お股ニキ氏はあるレジェンドを想起する。

「思い出すのは1995年のイチローです。あの年もパは3割打者が4人だけでした。その中で抜けていたのがイチローで、打率.342、80打点で2冠達成。本塁打もキャリアハイの25本を放ち、28本で本塁打王になった小久保裕紀との差はわずか3本でした。投手のレベルが格段に上がったことを考えれば、今は当時よりもさらに打低といえます」

だからこそ、今季の近藤の打撃成績には目を見張るものがあるという。

「歴史的な投高打低シーズンでこれだけの打撃成績を残せるのは素直にすごい。昔だったら打率.330、ホームランもすでに25本くらいは打っているイメージです」

そんな近藤が三冠王になるために、何か考えられる方策はあるか?

「本塁打増の観点から言えば、4番のほうが不利。打数も減る上に、歩かされるケースが増えるからです。『近藤が一番すごい』という評価なのはわかりますが、むしろ、開幕直後の2番・近藤、3番・柳田のほうが流れは自然で、総合的な得点力につながると思います。

柳田をWBCの大谷に見立て、その前を近藤に打たせたい。柳田の調子がいいので、2番・近藤にも勝負してもらえる機会が増えますから」

ちなみに、柳田は現在、近藤を上回るリーグ2位の打率をキープ。本塁打は近藤より1本少ないリーグ4位で、打点は前述したようにリーグ2位。近藤にとっては、三冠王への最大のライバルになる可能性も十分にある。シーズン終盤、チーム内で三冠王を争う熱い展開を期待したい。