慶応の107年ぶりの優勝に沸いた夏の高校野球。活躍した選手はたくさんいたけど、スカウトの目に留まったのは? 楽しみな未来のスター候補を今からチェック。
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■投手で評価を上げたのは?
今年の夏は〝KEIO旋風〟が吹き荒れた。甲子園決勝は連覇を狙う仙台育英(宮城)を慶応(神奈川)が8-2と圧倒し、実に107年ぶりの全国制覇を成し遂げた。
輝きを放ったのは、決勝戦で先頭打者本塁打を放った丸田湊斗や、防御率0点台と抜群の安定感を見せた2年生エースの小宅雅己ら。だが、飛び抜けたスター選手はいない。何しろ、ベンチ入りメンバー20人のうち、将来の夢を「プロ野球選手」としているのはわずか3人のみ。ドラフト候補なき全国制覇だった。
今夏の甲子園をひと言で総括すれば「投低打高」。視察したプロ球団のベテランスカウトは、「これだけ投手のドラフト候補が少ない大会は記憶にない」とこぼしたほどだった。
そんな中、インパクトを残したのは〝最速150キロトリオ〟を擁する準優勝の仙台育英。といっても、ダブルエースの湯田統真、髙橋煌稀はプロ志望届を提出せずに大学に進学する見込みだ。
決勝で先発した湯田は今春以降に急成長し、最速153キロの快速球とハイスピードで鋭く曲がるスライダーを武器にする。「プロ志望届を提出すれば上位指名も堅い」と語るほど評価するスカウトもいた。
髙橋は高校生とは思えない総合力の持ち主で、昨夏も安定した投球で優勝に貢献している。実戦で使える球種が多く、制球力もハイレベル。課題だった球威も向上しており、スピードは最速150キロまで増速した。湯田と共に大学では即戦力になるだろう。
仙台育英投手陣でプロ志望届を出す見込みなのは、甲子園で登板機会があまりなかった左腕の仁田陽翔である。最速151キロの快速球に、縦に鋭く曲がり落ちるスライダーを武器にする。
その投球スタイルについて、「松井裕樹(楽天)を彷彿とさせる」と語るスカウトもいる。ハマったときの投球は手がつけられず、大学生との練習試合で17奪三振の快投を演じたこともあるが、甲子園でも力んでボールがすっぽ抜ける悪癖を露呈したように、まだ自分のボールを制御しきれていない。
須江航監督が「素材としてはずばぬけている」と評価するように、実戦性が求められる大学野球よりもプロの環境でスケールアップするほうが吉と出そうだ。
甲子園で一躍全国区になったのは黒木陽琉(神村学園・鹿児島)。今春までは実績らしい実績はほとんどなく、今夏にベスト4と大ブレイク。指にかかった最速146キロのストレートは加速感があり、空振りを奪えるカーブとのコンビネーションは鮮烈だった。
実は大会前には大学進学が有力視されており、スカウトの注目度もさほど高くはなかった。大会初戦の立命館宇治(京都)戦も最終回に打者二人相手にしか投げておらず、スカウト陣の前で華々しいアピールはできていない。
スカウトの多くは全チームが初戦を終えた段階で甲子園を離れるだけに、大会後に一転してプロ志望を表明した黒木がどんな評価を受けるのか目が離せない。
■注目が集まったスラッガーは?
大会前から大きな注目を浴びてきたのは、「東の佐々木麟太郎(花巻東・岩手)、西の真鍋 慧(広陵・広島)」という二大スラッガーだ。
佐々木は身長184㎝、体重113㎏の巨漢で、高校通算140本塁打をマークする世代を代表する大砲。今夏の甲子園では16打数6安打、打率.375と存在感を見せた。
だが、安打はすべてシングルヒットで、期待された本塁打はなし。「詰まっても内野手の間を抜ける打球スピードがすさまじい」と評価するスカウトがいる一方、「あれだけアクションの大きなフォームではプロの速球についていけない。プロで矯正できるかも不安」と疑問符をつけるスカウトもいた。
そんな声があるのを知ってか知らずか、佐々木は2回戦のクラーク記念国際(北北海道)戦で突如打撃フォームを大きく変更。花巻東の偉大な先輩・大谷翔平(エンゼルス)のようにノーステップ打法を取り入れた。
1回戦では3打数3安打と当たっていただけにサプライズ感は強かったが、結果的にこの試合はノーヒット。3回戦からは父である佐々木 洋監督の説得もあり、従来の打撃フォームに戻している。佐々木はまだ高校卒業後の希望進路を表明しておらず、その動向は今秋のドラフトの行方を左右しそうだ。
真鍋は身長189㎝、体重93㎏と縦にも横にも大きな長距離砲。高校通算本塁打数は62本と佐々木に大きく水をあけられているが、「将来性や体の強さは佐々木より上」とみるスカウトもいる。
今夏が3回目の甲子園となった真鍋だが、待望の本塁打は出なかった。それどころか打撃不振に苦しみ、敗れた3回戦の慶応戦では送りバントのサインを出されて失敗。ドラフト上位候補としては、あまりに寂しい結果に終わった。
とはいえ、日頃から木製バットを使用して練習しており、バットヘッドのしなりを生かしたスイングは明らかにプロ向き。守備面ではスローイングも強く、プロでは一塁だけでなく三塁や外野手としての将来像も描ける。素材としてどれくらいの評価を受けるかがカギになりそうだ。
■スカウト評価を最も上げたのは?
今大会で最もスカウト陣の評価を高めたのは、森田大翔(履正社・大阪)だろう。
初戦の鳥取商戦、2回戦の高知中央戦と2試合連続本塁打を甲子園で放った。高校通算34本塁打と強打者としてはやや物足りない数字だが、そのうち28本は2年秋以降にマークしたように1年間の伸び幅が素晴らしかった。
今夏の森田を見たスカウト陣の評価は「構えからして雰囲気があった」「フォロースルーの大きなスイングで、プロで鍛えてみたいと思わせる素材」とおおむね好評。「右打ちの強打の内野手」はプロ側の需要が高い割に、今年のドラフト戦線にめぼしい候補が少ない。
森田は大会後のU-18W杯の高校日本代表にも選ばれており、ドラフト直前まで評価が高騰し続ける可能性は十分にある。
ほかにも、今大会は遊撃手にドラフト候補がひしめいていた。山田脩也(仙台育英)、百崎蒼生(東海大熊本星翔)、中澤恒貴(八戸学院光星・青森)と好素材が登場する中、特にスカウト陣の熱視線を受けたのは横山聖哉(上田西・長野)だ。
横山は今夏の長野大会で2本塁打を放ち、一躍プロ注目選手として脚光を浴びた新星。高校進学後に身長が8㎝伸び、体重は18㎏も増量。今では身長181㎝、体重82㎏と立派な体躯(たいく)を誇る。
今夏の甲子園では開幕戦に登場し、土浦日大(茨城)とのタイブレークの末に3-8で敗退。横山自身も5打数1安打と目立ったアピールはできなかった。
だが、プロのスカウトが見ているのは試合だけではない。「シートノックでの肩の強さを見て思わず笑ってしまいました」と語るスカウトがいたように、三遊間の深い位置からの〝レーザービーム〟は超高校級だった。
高校通算30本塁打をマークする打撃面は、土浦日大の好投手を相手にタイミングを取るのに苦慮するシーンも見られた。それでも類いまれな馬力を内蔵する原石だけに、前出のスカウトは「技術はプロで覚えればいい」と問題視しなかった。球団によってはドラフト上位クラスの評価をしても不思議ではない。
プロ野球ドラフト会議は10月26日に開かれる。今年は、育成に時間がかかりがちな高校生選手をどう評価するかプロ側の目利きが問われるだろう。それでも、聖地で輝いた金の卵はやがてプロの世界で孵化(ふか)し、きっと雄々しく羽ばたくはずだ。