うらやましいね。それが最初の感想だ。
サウジアラビアリーグのクラブが立て続けに大物選手を獲得している。昨年12月のロナウドに続き、この夏はベンゼマ、ネイマール、カンテ、マネ、フィルミーノ、マフレズ、ヘンダーソン、ファビーニョ......と名前を挙げればきりがない。錚々たる顔ぶれだ。
過去には中国、カタール、さらにはJリーグもビッグネームを集めたこともあったけど、スケールが違う。そろそろ現役生活の終わりが見えてきた選手だけでなく、まだまだ欧州のビッグクラブで活躍できそうな20代の選手もいるからね。
キャリアについての考え方はいろいろだけど、選択肢が増えるのは選手にとって歓迎すべきこと。何よりプロにとってお金は大事。今後はサウジを目指す選手も増えるだろう。
ロナウドの約290億円を筆頭に、今や世界で年俸の高い選手トップ10のうち8人がサウジリーグ所属。ネイマールは巨額の年俸のほかにも、プライベートジェット、豪邸、高級車8台を提供してもらうそうだ。きっと勝利給もすごいんだろうね。
リーグのレベルを考えれば、今後、代表チームに選ばれなくなる可能性もあるけど、20代前半ならともかく、ある程度の年齢の選手にとってはそれを補って余りある魅力がある。100億円のオファーをもらったら誰でも悩むだろう。
ビジネス面でいえば、これからどんなにお客さんが増えても、多額の放映権料が入るにしても、これだけ莫大な金額を選手に支払っていたらペイしない。サウジ側もそこは頭にないはず。
それよりも、サウジ代表の強化、ACL(AFCチャンピオンズリーグ)対策、さらには将来のW杯誘致を考えているんじゃないかな。そのために看板になる選手をかき集めている印象だ。W杯を開催したカタールに対するライバル意識もあるだろう。
とはいえ、気になるのは、この流れをどこまで継続できるのかだ。サウジは中東の中でもイスラム教の戒律が厳しい国。選手は生活環境の違いに戸惑うはず。特に奥さんや子供のいる選手はなじめない可能性もある。
メッシやモドリッチなどサウジからの巨額オファーを断ったといわれる選手もそこを考慮に入れたと思う。一方で移籍した選手たちは家族も含めてどこまで順応できるか。
昔の話で恐縮だけど、僕の友人のリベリーノ(元ブラジル代表の10番。1970年W杯で優勝)も現役最後はサウジでプレーしている(1979~81年にアルヒラル所属)。彼は「稼ぐにはいい。でも、住むのは大変」と言っていた。実際、奥さんがすぐにブラジルに帰ってしまった。ネットもない時代だから大変だったと思う。
ネイマールがプライベートジェットを提供してもらったのも、いつでもヨーロッパに羽を伸ばしに行けるようにということだろう。
そういう環境でかつてのJリーグにおけるジーコのように、長くその国のサッカーに貢献してくれる選手がどのくらい出てくるか。今の時点では何とも言えない。まあ、ジーコも鹿島じゃなく東京に住んでいたんだけどね。
ちなみに、もし僕が現役選手で、今サウジからのオファーを受けたら? 悩むだろうけど、宝くじの当せん金くらいもらえるなら行くよ(笑)。
●セルジオ越後
1945年生まれ。72年の来日以降、指導者・解説者として活躍。活動の詳細は『セルジオ越後 オフィシャルサイト』にて