「MLBの宝」である大谷はどんな選択をするのか「MLBの宝」である大谷はどんな選択をするのか

エンゼルス・大谷翔平が右肘靱帯を損傷し、世界中の野球ファンが心を痛めた。故障の遠因、二刀流復活の目、今季終了後のFAなど、"MLBの宝"の気になる今後を検証する。

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■初完封から一転。故障の要因は?

あまりにも衝撃的だった「エンゼルス・大谷翔平、右肘靱帯損傷。今季登板は絶望」の一報。前人未到の「本塁打王&サイ・ヤング賞のダブル受賞も!?」という期待もあっただけに、ファンならずとも落胆は大きい。『週刊プレイボーイ』本誌おなじみの野球評論家・お股ニキ氏もそのひとりだ。

「WBCも含め、昨年くらいから超人的すぎて、大谷自身も『自分ならケガをしない』『エンゼルスでなんとかプレーオフに出たい』と、そういう気持ちが強すぎたのかもしれません。私自身も、『超人・大谷なら大丈夫』と感覚が麻痺(まひ)していたのが本音です」

やはり、7月末から筋肉の痙攣(けいれん)の症状が出ていたのは予兆だったのだろうか。

「結果論ですが、しっかり休養を取っていれば......。栗山英樹さんが『大谷を壊したら僕が死んでも責任は取れない』というような発言をしていたことを思い出しました」

もっとも、疲労の蓄積以外にも、今季のあるシーンが気になる、とお股ニキ氏は語る。

「7月末にメジャー初完投、初完封したタイガース戦で、一塁ベースカバーの際に走者とぶつかり、右肘を痛そうにしていました。あのときに痛めた可能性もあります」

その初完封も含め、今季の投手・大谷を振り返ろう。

「WBCにピークを持っていったこともあり、絶好調のまま開幕を迎えて、4月はストレートの回転数も軌道も非常にいい状態でした。でも、5月以降、マメが潰れた影響もあったのか、だんだんと回転数が落ちてきていました」

確かに、4月の大谷は5戦4勝、防御率も2点台と安定。だが、5月以降は調子を落とし、話題を呼んだ「スイーパー」も昨季より制球面で苦しんでいた。それでも、シーズン途中でアジャストできる柔軟性が大谷の強みだ。

「7月中盤からセットポジション時にやや上半身を前傾させ、足を上げてから軸足を折るようになったことで、前に進む動きは良くなりました。配球面ではフォーシームを増やし、スイーパーに加えてフォークも効果的に使うことで、7月末に待望のメジャー初完投、初完封を達成し、8月も自責点ゼロでした。

投球フォームや投球内容は良くなっていただけに、疲労が回復すれば、サイ・ヤング賞へのラストスパートも可能、と期待していた最中でした」

ただ、今季の投球や環境面を振り返ると、スイーパー偏重も含め、肘への負担で気になる点がいくつかあった。

「今季からピッチクロックが導入されて投手の負担は明らかに増加。そのため、大谷の場合はどうしても楽に抑えられるスイーパーに頼りがちでした。

また、今季からメジャー球の縫い目の高さが変わってスライダーの曲がり方が変化したり、投手の球種を高精度で再現できる打撃マシンの導入によって、打者がボールを体感し、リアルにイメージできるようになったりして、投打のバランスが変わってきたことも、肘への負担が増した遠因かもしれません」

■超人・大谷ならではの奇跡的カムバックも!?

現段階では、「前回トミー・ジョン(TJ)手術を受けた2018年の損傷とは違う箇所」を痛めたという報道もあるが、大谷が2度目のTJ手術を受けるかは「セカンドオピニオンを仰いでからの判断」と不透明だ。

「再断裂ではなく、違う箇所なら再生医療と言われるPRP療法で様子を見る可能性もあります。サイ・ヤング賞2回のジェイコブ・デグロム(レンジャーズ)も以前、半年ほど投げずに保存療法を選択して回復したことがありました。といっても、結局は今年、2度目のTJ手術を受けることになったのですが......」

では、実際、TJ手術を2度受けた投手には、どんな〝その後〟が待っているのか?

「2度のTJ手術経験者で希望となるのは、今季すでに11勝のネーサン・イオバルディ(レンジャーズ)でしょうか。しかし、復帰前の水準に戻った事例は少ないのが現状です。また、2回目のほうが復帰に時間がかかるという証言もあり、難しい挑戦なのは間違いありません」

ただ、大谷レベルの超人は常識で測れないケースもあると、お股ニキ氏は別の超人・ジャスティン・バーランダー(アストロズ)の復帰事例も紹介してくれた。

「バーランダーがTJ手術から約2年ぶりに復帰した去年、もう39歳で限界かと思ったら、復帰したそのシーズンで3度目のサイ・ヤング賞を受賞。

バーランダーは初めてのTJ手術でしたが、大谷も含めて歴史に名を残すレジェンドたちは想像もできないことをやってのけるから、超人なんです。大谷にはぜひ、常識を覆すようなカムバックをしてもらいたいですね」

投手・大谷の完全復活はいずれにせよ、少し遠い未来。直近の大谷にはどんな可能性があるのか?

「右投げ左打ちの場合は打撃への影響が少ないようで、実際に緊急降板後の数試合は打ち方が良く、走塁も積極的。ほぼ確実な本塁打王だけでなく、三冠王や〝30・30〟(30本塁打・30盗塁)を狙うなど、これまで以上に打者・大谷の大活躍が見られるかも」

レッズとのダブルヘッダー第1試合で緊急降板する直前、今季44号本塁打を放った。右肘靱帯損傷発覚後も打者として出場を継続しているレッズとのダブルヘッダー第1試合で緊急降板する直前、今季44号本塁打を放った。右肘靱帯損傷発覚後も打者として出場を継続している

今季終了後にFA資格を得る予定の大谷。今回のケガは、来季以降の契約や移籍にどんな影響を与えそうか?

「FA市場への影響も当然大きいです。自分は10年800億円規模の契約もありえると思っていました。個人的なオススメはマリナーズ。投手陣が厚く、投手・大谷への依存度が少なくて済み、DHが弱いのも大谷のために空けているのかなと思うほどだったのですが......。

投手は当面無理でDH専属となれば、超大型契約は難しい。エンゼルスと再契約の可能性もあります」

いずれにせよ、選択肢はより複雑になっている。

「長期契約を避けて〝1年だけマリナーズ〟など、ケガの状況次第で単年契約を結ぶ可能性も。あるいは、マーケティング的要素も考慮し、ケガの時期も含めて契約する球団もあるかもしれません」

〝MLBの宝〟である大谷翔平はどんな選択をするのか。前代未聞の野球人生が続くのは間違いない。