日本男子シングルスの新エース、日本大学4年の奈良岡。5月以降の大会で決勝進出が1度、4強が4度、8強が2度と安定した成績を残している日本男子シングルスの新エース、日本大学4年の奈良岡。5月以降の大会で決勝進出が1度、4強が4度、8強が2度と安定した成績を残している

バドミントンで2024年パリ五輪の出場権を争うレースが本格化している。出場権に関わるランキング(五輪ランキング)の対象大会が今年5月から始まり、約3分の1が終了した。

出場権は地域性の要素もあるため一概には言えないが、各国の出場枠には上限があり、「シングルスは16位以内に2選手以上がランクインする国が最大2名、ダブルスは8位以内に2組以上入っている国が最大2組」となる。レースは来年4月末に終わり、その時点での五輪ランキングで出場の可否が決まる。

レースは前半も終わっていないが、早くも窮地に陥っているのが男子シングルスの元世界王者・桃田賢斗だ。

現地時間8月27日までデンマークのコペンハーゲンで行なわれた世界選手権。与えられるポイントは対象大会の中で最も大きいが、2018、19年大会を連覇した桃田の姿はなかった。エントリー可能なランキングの圏外にいたためだ。

かつて1位だった世界ランキングは、今や日本勢で5番手の48位(データは8月29日現在。以下同)。五輪ランキングでも日本勢4番手の43位で、2番手で7位の西本拳太とは大きな差がある。

ここから這い上がるためにはワールドツアーで勝ちを積み重ねていくしかないが、そこにもまたハードルがある。ツアーには世界ランキングの上位から優先してエントリーされるため、今の桃田のランキングでは、グレードが高く獲得ポイントが大きい大会に出るのは難しい。

実際に、最もグレードが高い大会のひとつである「中国オープン」(9月5日開幕)にはエントリーできておらず、グレードが3番手の「香港オープン」(9月12日開幕)も、本戦からではなく予選を勝ち上がらなければいけない。桃田のパリ五輪への道が消えたわけではないが、茨(いばら)よりも厳しい道が待ち受けていると言っていいだろう。

桃田と入れ替わるように日本のトップに躍り出たのが、22歳の奈良岡功大。世界選手権では2位に食い込み、日本勢でふたり目となるメダルを獲得した。ツアーでも安定して好成績を残しており、世界ランキングは日本勢最高の3位、五輪ランキングは世界全体のトップをひた走る。

身長173㎝と上背はないが、鉄壁の守備と正確なショット、戦術の引き出しの多さで世界の上位陣とも互角以上に渡り合える日本の新エース。世界選手権で銀メダルを獲得したことでパリ五輪のメダル候補にも名を連ねるはずだ。

それに続くのが29歳の西本。東京五輪代表争いでは桃田と常山幹太の後塵を拝したが、今回の世界選手権ではライバルの常山をストレートで破って8強入りした。「今回こそはという思いを常に持ってやっている」と話し、並々ならぬ覚悟で五輪切符獲得に向けて歩みを進めている。

女子シングルスでは世界ランキング2位の山口 茜が健在だ。世界選手権は準決勝で敗れて3位と3連覇は逃したが、世界トップクラスの実力は折り紙つき。大きなケガをしなければ、代表入りすることは間違いないだろう。

リオ五輪の女子シングルス銅メダルの奥原はケガに苦しんでいたが、世界選手権で強敵を倒しての8強入り。復活を印象づけるプレーを見せたリオ五輪の女子シングルス銅メダルの奥原はケガに苦しんでいたが、世界選手権で強敵を倒しての8強入り。復活を印象づけるプレーを見せた

2番手争いに名乗りを上げたのは、16年のリオデジャネイロ五輪で銅メダルを獲得した奥原希望。近年はケガ続きでなかなか満足のいく結果を残せていなかったが、3大会ぶりの出場となった世界選手権で完全復活を印象づけた。

2回戦で19年世界女王のシンドゥ・プサルラ(インド)、3回戦では13年大会覇者のラチャノック・インタノン(タイ)に勝って8強入り。準々決勝では世界ランキング1位の安洗塋(韓国)にフルゲームで敗れた。

最終的に優勝した安洗塋が、今大会で唯一ゲームを落としたのは奥原だけ。負けはしたが「奥原、ここにあり」と示すには十分な内容だった。ケガの影響で五輪レースは大きく出遅れたものの、一気に上げてきそうな気配がある。

一方で、混沌(こんとん)としているのは女子ダブルス。日本は世界的にも強いペアが多く、五輪のたびに苛烈な争いとなってきた。だが、今回はいつもと少し様相が違う。

世界選手権では東京五輪に出場した「フクヒロ」こと福島由紀・廣田彩花組と、五輪初出場を目指す「シダマツ」志田千陽・松山奈未組が準々決勝に進んだのが最高だった。過去2回、世界選手権を制した東京五輪代表の「ナガマツ」永原和可那・松本麻佑組は3回戦で姿を消した。

世界選手権では7大会連続でメダルを獲得してきた日本の得意種目だが、今回はメダルなしだった。「今までは世界のトップに日本のペアが複数いて、その中で争ってきた。でも、今回はそうじゃない」とは松本の談。日本の女子ダブルスの戦い方が研究されてきたということもあるだろうが、東京五輪までとは違った形でしのぎを削っている。

日本勢で五輪ランキングのトップは、2度の世界女王になった実績がある永原・松本組。世界選手権は3回戦敗退だったとはいえ、実力的には表彰台を狙える位置にいる。

だが、決して安全圏ではない。2番手の福島・廣田組との差はわずかで、3番手の志田・松山組との差も大きくない。今後のツアーでも着実に上位に食い込む必要がある。

3番手の志田・松山組は、世界選手権が転機となりそうだ。3回戦で、2連敗中だった五輪レース4番手の岩永鈴・中西貴映組と対戦。苦手な相手に勝てるかどうかは、今後のレースの行方を左右しかねないとも思われていたが、結果はストレートで快勝。敗れれば大きく後れを取りかねない状況だったが、踏みとどまった。

パリ五輪出場権のレースは「フクヒロ」「ナガマツ」「シダマツ」の3組を軸に、これからも激しい争いが繰り広げられるだろう。3組とも世界で上位に食い込める力があるからこそ、厳しい戦いになる。当事者にとっては、気が休まらない日々が来年4月まで続きそうだ。