終盤に差し掛かったプロ野球。着実にマジックを減らし、18年ぶりの"A.R.E."、すなわちリーグ優勝へとひた走る阪神タイガース。歴史的瞬間はいつ訪れるのか!?【プロ野球2023ラストスパート・ワイド(1)】 
*成績はすべて9月4日時点

■盤石投手陣と"恐怖の8番打者"

2位・広島カープに7.5ゲーム差をつけ、ほぼ1強5弱状態の阪神タイガース。もっとも、阪神ファンにしてみれば、9月上旬時点で2位と5ゲーム差もありながら、逆転優勝を許してしまった2008年の苦い記憶もあるだけに、不安要素はすべて整理しておきたいところだろう。

そこで、本誌で何度も「今の阪神は強い」と語ってきた野球評論家のお股ニキ氏に、阪神の現状とセ・リーグの力関係を解説していただこう。

「阪神目線で見ると、骨のあるライバルチームがいないですね。5ゲーム差を詰めるには1ヵ月はかかるといわれているだけに、ケガ人さえ続出しなければ、ひっくり返される要素はほぼない状況です」

特に安定しているのは、充実の投手陣だ。

「チーム防御率2.73はパ・リーグを独走するオリックスとほぼ一緒で、セ・リーグでは断トツ。勝ち星が大きく増えなかった時期でも、阪神はずっと2.70前後をキープしています」

そんな盤石投手陣を形成した球団編成の手腕を、お股ニキ氏は改めて評価する。

「去年までも投手はそろっていましたが、そこに、大竹耕太郎と村上頌樹(しょうき)を抜擢(ばってき)し、戦いながら育ててしまうすごさ。普通のチームなら、エース格の青柳晃洋と西勇輝の調子が悪かったら、もう少し投手編成に苦労するはずです。しかも、リリーフ6番手に桐敷拓馬がいたり、加治屋蓮を2軍調整でリフレッシュさせたり、余裕があります」

岡田彰布監督の野手面での采配の妙といえば、昨季ショートでベストナイン受賞の中野拓夢をセカンドにコンバートし、ショートで木浪聖也と小幡竜平を競わせ、木浪の覚醒をもたらしたことだろう。"恐怖の8番打者・木浪"の存在は、それほどまでに大きい。

「木浪を少し使いすぎな気もしますが、今が29歳で全盛期ですし、大丈夫でしょう。投手の前の8番で勝負させ、100安打を達成するほど出塁できており、9番の投手が木浪を送って、また1番の近本につながる打線になった。これは岡田監督最大の功績と言ってもいいでしょう」

気になるのは、湯浅京己(あつき)の復帰が見込めず、抑えの岩崎優(すぐる)の負担が大きいこと。8月29日のDeNA戦では、まさかの2者連続弾を浴び、逆転負けを許した。捕手が構えた位置から外れる逆球も増えている印象を受けるが、大丈夫なのか?

「ひと口に逆球と言っても、"ダメな逆球"と"いい逆球"がある。岩崎の場合はボールの強度が落ちていないので問題ない。コントロールがいいからこそ、逆球は打者の意表を突くことにもなります。

それに、人間だから体調の悪い日もありますよ。これまで長い間築き上げてきた地位と本人の実力も含め、『岩崎が打たれた日はしょうがない』と割り切っていいと思います」

冒頭で「ケガ人さえ続出しなければ......」という話が出たが、8月13日のヤクルト戦で梅野隆太郎が左手首に死球を受けて骨折。今季絶望となってしまったことはあまりにも痛い。

「梅野の不在は厳しいですが、問題なのは捕手の併用ができないこと。代わりにスタメンマスクをかぶり続ける坂本誠志郎は守備に関して非常に優秀ですが、ずっと使っていると疲弊してしまう。ただ、結果として坂本が出続けても勝てているので大丈夫です。梅野もひょっとすれば、CSや日本シリーズで戻ってこられるかもしれません」

■神宮球場で伝説の再現なるか!?

首位をひた走る阪神が気をつけなければならないのは2位の広島。ゲーム差があるとはいえ、8月は1勝2敗と負け越し。阪神にマジックが初点灯した8月16日以降、8月の広島は9勝4敗1分けと好調を維持し、一度はマジックを消滅させただけに侮れない。

「広島は嫌な存在ではあるけど、優勝を争うライバルという感じでもありません。ただ、左打線が強力で投手も良くなっているだけに、一番やりにくい相手なのは間違いない。

また、動作解析システムの『ホークアイ』を導入してデータ活用にも積極的ですし、去年まで阪神でコーチを務めていた藤井彰人ヘッドコーチに、手の内を知られている点もやりにくいでしょうね。新井貴浩監督が一喜一憂している隣で、冷静にアドバイスを伝えている印象があります」

9月3日のヤクルト戦で死球を受けた近本。梅野に次ぐ主力の離脱は避けたい 9月3日のヤクルト戦で死球を受けた近本。梅野に次ぐ主力の離脱は避けたい
また、今季の阪神はマツダスタジアムで4勝5敗と負け越し。そのマツダでの試合をあと4戦も残し、そのうち、今季の広島が12戦全勝を誇る"土曜のマツダ"があと2試合もある。相手先発は"土曜のマツダ"で今季7勝の森下暢仁(まさと)が濃厚だ。

「マツダスタジアムは暑いし、雰囲気も異様だし、他球団からすると"投手の力が下げられる感覚"があるんですよね。しかも、今季の森下はいい投球をしていますから。逆に言えば、そのマツダでの試合で勝利できれば、優勝はグッと近づくはずです」

さて、そんな阪神の"A.R.E."、すなわちリーグ優勝のXデーはいつになるのか? お股ニキ氏は「順調にいけば9月中旬以降。20日前後では」と話すが、そこで気になるのが22日、23日の神宮球場でのヤクルトとの2連戦だ。

上述した梅野の死球だけでなく、9月3日の試合でも近本光司が死球を受けて途中交代し、岡田監督が激怒する事態に。近年ではほかにも、サイン盗み騒動があるなど、何かといわくつきの"因縁の対決"であるためか、23日の試合は8月時点で全席ソールドアウトになるほどの注目度となっている。

振り返れば、阪神が日本一に輝いた1985年シーズンにリーグ優勝を決めたのも神宮だった。歴史は繰り返すのだろうか。