日本代表の欧州遠征をフカボリ!日本代表の欧州遠征をフカボリ!
不動のボランチとしてジュビロ磐田の黄金期を支え、2006年開催のドイツワールドカップには、日本代表の中心メンバーとして出場。日本サッカーが世界水準へと飛躍していく瞬間をピッチの中央から見つめていた福西崇史。

そんな福西崇史が、サッカーを徹底的に深掘りする連載『フカボリ・シンドローム』。サッカーはプレーを深掘りすればするほど観戦が楽しくなる!

第69回のテーマは、昨日まで行われた日本代表の欧州遠征について。雪辱に燃えるドイツに4-1、トルコにも4-2と連勝を飾り、世界中に強さを示した日本代表を福西崇史が解説する。

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先週からのインターナショナルマッチ・ウィークで、欧州遠征に臨んだ日本はドイツに4-1、トルコに4-2と連勝を飾りました。

まずは10日(日)に行われたドイツ戦の結果には驚きました。昨年のカタールW杯のグループリーグで日本に負け、今年に入っての直近5試合も1勝1分3敗と絶不調。これ以上負けられないし、日本に連敗というのはプライドとしても許されない。親善試合とはいえ、ドイツが大きなプレッシャーの中で臨む一戦であることは、前日会見の様子からも伺うことができました。

そんなドイツに対して、アウェイで4-1と快勝。カタールでの勝利がフロックではないことを証明し、内容的にも圧倒した勝利でした。全体を通して攻守にわたって日本が自分たちの思い通りの試合をしたと思います。

試合の立ち上がりから日本は積極的に前からドイツへプレッシャーをかけていきました。カタールでもそういう時間帯はありましたが、後方がついて来られず、間伸びしてしまうところもありました。

しかし、今回は非常にコンパクトな陣形を保ち、積極的な守備でドイツを自由にさせませんでした。その上で、今や日本の強みである伊東純也、三笘薫という両ワイドの力で相手を押し込み、そこへ両サイドバックも良いタイミング、形でサポートに入り、ドイツを圧倒しました。

先制点の場面では、相手を押し込めていることで、守田英正がボールロストしてもCBの冨安健洋が前に出てこぼれ球をワンタッチで逆サイドの鎌田大地へ展開することができました。

鎌田へ展開後、菅原由勢がすぐにサポートし、ドリブル突破。その瞬間に伊東がリュディガーの背後から前に入る駆け引き、動き出しも巧みで、クロスにダイレクトで合わせたシュートも見事でした。非常に良い流れでの得点だったと思います。

前からのプレッシングだけでなく、ミドルゾーンでの守備も日本は非常にタイトで、ドイツは簡単には中へ入れず、終始守備ブロックの外側でボールを回さざるを得ない状態でした。

ただ、日本の失点シーンでは、ライン間に入ったギュンドアンへ良いボールを差し込まれ、前を向いたヴィルツに良い形でボールがわたってしまいました。左サイドから中央まで侵入されたことで、伊藤洋輝が中へ絞らざるを得なくなり、ザネがフリーになったところへ三笘の戻りが間に合いませんでした。

良い守備をしていても、ああいった場面を許してしまうことはあるものです。ただ、中に入られたときに、チームとしてどう対応するかが大事です。

あの場面では、ギュンドアンにボールを差し込まれたときに、ボランチと連携して内側を切り、逆サイドへ展開されない守り方ができれば良かったと思います。そこで一旦相手の攻撃を止められれば、その後の伊藤や三笘の対応も違っていたと思います。

失点はしましたが、そこで受け身に回るのではなく、すぐに追加点が奪えたことは日本の強さ、成長を見せられたと思います。冨安のフィードから相手の高いラインの逆サイドを素早く突いて、再び伊東、鎌田、菅原のコンビネーションで崩して上田綺世の得点つながりました。

後半に入ると日本は4バックから5バックに変更し、手こずっていたザネに対応できる形に変更しました。日本は前の人数が減り、相手にボールを持たれる時間が増えることになりますが、相手の攻撃を停滞させ、リードを守りながらカウンターを狙うというプランを完璧に遂行しました。状況によってシステムの変更、可変に対応し、チームとしての戦術の幅を見せることができたと思います。

チームとしてはもちろん、個々を見ていっても全員が素晴らしい活躍でした。とくに冨安はMVPと言える活躍。もっとも印象的だったのは、前半45分にザネが抜け出したところを止めたシーンでしょう。

あれだけ良い形で抜け出されれば普通の選手では追いつけません。抜け出してからのザネの持ち運びも良かったと思います。それに対して冨安の追い込み方は完璧で、個人能力の高さを見せつけました。守備だけでなく、先制点、2点目の起点となったフィードで見せたように、攻撃面でも冨安がなぜアーセナルに所属できているのかを証明するクオリティでした。

長く議論されている1トップのポジションも上田が非常に高いクオリティを披露したと思います。ゴールを記録したことはもちろん、リュディガー、ズーレというDFを相手にしても体を張って起点を作り、得意な裏へ抜け出す動きも見せていました。ここはプレー時間が増えて周りとの連係が高まれば、より活かせて日本の武器になる部分だと思います。

ほかにも冨安とコンビを組んだ板倉滉、ダブルボランチの遠藤航、守田は相変わらず安定感抜群だったし、鎌田も前線で起点となるプレー、守備面も非常に効いていました。また、途中で出た浅野拓磨、久保建英、田中碧はゴール、アシストと結果を残し、ベンチワークの層の厚さも見せました。

とくに調子の良い久保や10番の堂安律が先発で出られないという競争力の高さは、日本のレベルアップ、進化を感じさせます。今後もこのドイツ戦のメンバーがベースになっていくと思わせる素晴らしい試合でした。

続いて12日(火)のトルコ戦も4-2で勝利しましたが、ドイツ戦が素晴らしかっただけに、やや物足りなさを感じてしまいました。ただ、控え組が中心で、連係面がドイツ戦のメンバーと比べて低いため、ある程度は仕方のないことです。

その中で代表デビュー組の毎熊晟矢と町田浩樹は余裕を持ってプレーできていたし、毎熊はボール奪取からアシストも記録しました。代表2キャップ目の伊藤敦樹は先制点を挙げ、ある程度やれることは示し、2ゴールの中村敬斗も結果を出しました。

一方で、久保は高いクオリティを披露しましたが、田中、堂安、古橋ら代表の中堅組はもっと存在感を示さなければならないと感じましたね。伊東を投入して流れが変わり、遠藤、冨安が入ってチームが落ち着いたことを見ると、そこがドイツ戦のメンバーとの差が現れたところでしょう。

ただ、トルコ相手に控え中心で、4得点で勝っても物足りなさを感じてしまうことは、日本がそれだけ大きくレベルアップしている証です。代表の競争力がより激化し、かなり充実した欧州遠征だったと思います。

今回の遠征を経て、所属クラブに戻った選手たちがどれだけ個々でレベルアップし、10月のカナダ、チュニジアとの強化試合、11月のW杯アジア予選、来年1月のアジアカップでどんな内容と結果を見せてくれるのか、ぜひ注目してください。

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