日本のためにありがとう! 頼もしいぞ!! W杯初戦のチリ戦を終えたラグビー日本代表。過去の大会同様に、チームには多様なルーツを持つ選手たちが名を連ね、貴重な戦力となっている。桜のジャージをまとって奮闘する彼らの素顔に迫る!
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■ジャパン最長身は日本ラグビー育ち
ラグビーW杯フランス大会が開幕した。
われらがジェイミージャパンは初戦のチリ戦を終え、次の相手にしてグループ内最強との声もあるイングランドを撃破すべく、着々と準備を進めている真っ最中だ。
今回の日本代表には過去の大会同様、外国出身選手が多く含まれている。これはほかのスポーツのような国籍主義ではなく、ラグビーが伝統的に所属協会主義を採っているからで、ほかの国での代表戦出場歴がない限り、
・当該国(日本)で出生している。
・両親、祖父母のひとりが当該国(日本)で出生している。
・プレーする時点の直前の60ヵ月間(2021年12月31日までは36ヵ月間)継続して当該国(日本)を居住地としていた。
・プレーする時点までに、通算10年間、当該国(日本)に滞在していた。
のいずれかの条件を満たせば、日本国籍を持っていなくてもジャパンの一員としてプレーできる。
フランス大会の登録メンバー33人中、約半数は外国出身の選手。さまざまなルーツを持ちながらラグビーが縁となって日本との関わりが生まれ、桜のジャージをまとって戦う決意をした彼らの中でも、特筆すべき男たちの素顔を紹介していこう。
●クレイグ・ミラー(PR・ニュージーランド出身・埼玉・32歳)
ラグビージャーナリストの村上晃一氏が語る。
「大学卒業後、会計士として働きながらプレーした後、プロとなって現地の強豪ハイランダーズ入り。そのときのヘッドコーチ(HC)とアシスタントコーチが、現日本代表でも同職にあるジェイミー・ジョセフとトニー・ブラウンでした。屈強さが持ち味ながら、ゲーム展開を予測して適切なポジション取りのできるスマートな選手でもあります」
同じくラグビージャーナリストの斉藤健仁氏は、彼の人となりを紹介してくれた。
「どんな場面でも手を抜かずこつこつ真面目にやる、質実剛健タイプ。ニュージーランド時代も田舎町でプレーしていたので、今のホームである(埼玉県)熊谷(市)の環境を『住みやすい』と気に入っています。(新潟県の)妙高高原までスキーを楽しみに行くこともあるそうです」
●具智元(PR・韓国出身・神戸・29歳)
「日本のスクラムの屋台骨を支える大事な選手。しかも運動能力が高いので、ボールを前へ運ぶこともできます」(村上氏)
「いつも笑顔の癒やし系キャラ。父親は韓国代表の名PRで日本の社会人リーグでも活躍し、自身は中2から日本に住んでいます。この春に韓国へ帰省した際には、幼い頃から息子へラグビーの英才教育を施してきたお父さんに『オフだからって休んでんじゃねえ!』と、山を走らされたとか」(斉藤氏)
●ワーナー・ディアンズ(LO・ニュージーランド出身・BL東京・21歳)
「父親のNEC(現東葛)コーチ就任を機に中2で来日し、地元のあびこラグビースクール、流通経済大学付属柏高校と日本ラグビーの中で鍛えられました。
高校時代は〝書の甲子園〟と呼ばれる国際高校生選抜書展で秀作賞を獲った経験も。ジャパン最長身(201㎝)で空中戦に強く、足も速い。遠からず世界レベルの存在になるであろう逸材です。
日本人選手のメンタリティを理解し、日本語でしっかり周囲とコミュニケーションを取れるのも強みですね」(村上氏)
「高校に進学した当初、父親の遠征の関係で家族がいなくなる週末は、スーパーで買う焼きそばパンを食事代わりにしていたそうです。近所に住む先生がそれを見かねて自宅で鍋などを振る舞ってくれるうち、中学時代から180㎝以上あった身長が2m超えに」(斉藤氏)
●アマト・ファカタヴァ(LO/FL・トンガ出身・BR東京・28歳)
「(195㎝、118㎏と)サイズがありながら、大東文化大学時代はウイングをやっていただけあって快速の持ち主。コンタクトも強く、相手タックラーをどんどんはじき飛ばして前へ出られます。
ロックというポジションは、スクラムを一生懸命押さなければならないので脚に相当な負担がかかるんですが、試合の最後まで走りの質が落ちないのがすごい」(村上氏)
「今もBR東京で一緒にプレーする双子の兄と、ニュージーランドの高校へ留学。卒業時にはスーパーラグビーのチームのアカデミーから声がかかるほどの有望株だったのですが、兄と同じチームでのプレーを希望し、共に大東文化大学へ進んでチームの躍進に貢献しました」(斉藤氏)
■プロになれず来日。実業家の顔も
●ジャック・コーネルセン(LO/FL・オーストラリア出身・埼玉・28歳)
「FWの不動の軸であり、リーダー。状況に応じて毎回サインを出し、さらに優れたジャンパーでもあるので、彼がいないとジャパンのラインアウトは成り立ちません」(村上氏)
「父親は、対オールブラックス戦で4トライを挙げたこともあるワラビーズ(オーストラリア代表)の殿堂入りレジェンド。その父のようにワラビーズ入りを目指していたのですがプロ選手にはなれず、パナソニック(現埼玉)のロビー・ディーンズHCに誘われて来日しました。
超がつくほどの真面目人間で、話はあまり面白くない(笑)。代表でもチームメイトであるディラン・ライリーらと旅行かばんブランド『The Blank Collective』を立ち上げ、実業家としての顔も持っています」(斉藤氏)
●リーチ マイケル(FL・ニュージーランド出身・BL東京・34歳)
「19年以降に受けた複数回の手術により、長年抱えていたさまざまなケガが完治。おかげで自身が課題としていた、タックルを受けた後に起き上がるまでの時間が短縮されました。
その上、経験を重ねてゲーム理解が深まったおかげで、いたずらにボールを追いかけるのではなく、パスがもらえる最適なポジションに位置取りする予測力も身につけた。彼は今、過去イチで調子がいいんじゃないかと思いますね」(村上氏)
「過去2大会はジャパンのキャプテンでしたが、今大会は主将の重責からも解放されました。ですから精神的にも伸び伸びプレーできるはず」(斉藤氏)
●ディラン・ライリー(CTB・南アフリカ出身・埼玉・26歳)
「練習生として日本にやって来て、パナソニックで鍛えられてうまくなった選手です。相手をかわす瞬時のスピードが抜群で、ステップも巧み。ジャパンには絶対欠かせないチャンスメーカーです」(村上氏)
「南アフリカ生まれで、家族と共にオーストラリアに移住し、11歳でラグビーを始めました。ジェイミーHCは早くから彼の能力に注目し、代表資格が取れる前からジャパンの代表合宿に参加させていました。誠実な人柄です」(斉藤氏)
●ジョネ・ナイカブラ(WTB・フィジー出身・BL東京・29歳)
「爆発的なスピードの持ち主で50mは間違いなく5秒台、100mもおそらく10秒台で走るでしょう。速さだけなら世界でもトップクラスですが、あまり器用さはないので周囲の選手が彼のスピードをどう生かすかがカギになります」(村上氏)
「すごくシャイな性格で口数が少ない上、敬虔(けいけん)なクリスチャンなので、何を聞いても『神のおかげ』と答えるようなタイプです」(斉藤氏)
■エガちゃんを経て生まれた人気ポーズ
●セミシ・マシレワ(WTB・フィジー出身・花園・31歳)
「2、3人に囲まれていようが、ひらりひらりと抜いてしまうキレッキレのステップが持ち味。トライにつながりそうだなと感じると、すっとボールキャリアーに寄っていってラストパスをもらったりする独特の嗅覚も持っています。ジャパンの中で見ていて一番面白い選手ではないでしょうか」(村上氏)
「蛇のように敵陣を切り裂くので『スネーク』の異名を持つことから、トライを決めた際のスネークポーズがトレードマーク。以前、頭髪を生やしてサンウルブズでプレーしていた頃は、顔が江頭2:50さんに似ているからと当時同僚だった田中史朗選手に勧められ、エガちゃんポーズも披露していました。ですが、素顔は至って真面目な人柄です」(斉藤氏)
それにしても、冒頭から判で押したように、真面目さとか誠実さが売りの選手ばかり。規格外の面白みみたいなものは全然ない。
だが、これには理由がある。
ジェイミーHCは日本の部活の監督のように厳格な人柄であり、選手に対しては、献身的でどんな立場に置かれようと常にベストを尽くす姿勢を求める。
逆にスター然と振る舞う選手は大嫌いで、いかに能力があっても自分勝手な行動をしたり、チームの規律を乱したりする選手は、すぐ代表に呼ばれなくなってしまうのだ。指揮官の気質を反映するかのように、ジャパンの合宿所には「チームファースト」「絆」などと書かれた紙が張られているという。
そんな中にあって貴重な例外といえるのが、この選手だろう。
●シオサイア・フィフィタ(WTB・トンガ出身・トヨタ・24歳)
「187㎝、105㎏で筋肉の彫刻のような体つき。どんな相手でもはじき飛ばしてどんどん前へ出ていくパワフルウインガーでありながら、フィジカルだけに頼らず相手のいないスペースへ走り込むスキルを天理大学時代に習得しているのが強みです」(村上氏)
「足も速く、トンガでの小学生時代は110mハードルの国内記録を持っていたそうです」(斉藤氏)
とまあラグビー選手としては申し分ないアグレッシブさを持っているのだが、女性に対しても積極的すぎる面があるのが玉にきず。
彼の両親もそうした奔放さをどうにかしなければと考えていたらしく、息子がトンガへ帰省した際に同郷女性と結婚させたのだが、そのお相手も含めた5股交際疑惑で、あの文春砲の餌食になってしまった過去を持つ(詳細については、武士の情けでここでは割愛)。
最後に村上氏に、今大会で最も注目すべき外国出身選手をFWとBKからひとりずつ挙げていただこう。
「FWならやはりリーチ。彼が小刻みなステップを踏みながら相手をかわし、ボールを持ってどんどん前に出ることで、日本に試合の流れを呼び込めます。
BKではライリーでしょうか。トライを決めるフィニッシャーは何人かジャパンにいるのですが、そこにつながる決定的なチャンスをひとりでつくれるのが彼の特徴ですから」
彼らも含めた全選手の力を結集し、前回大会の8強入りを上回る〝新しい風景〟を見せてくれ、ジェイミージャパン!