阪神がセリーグ優勝を決めました。虎党のみなさまおめでとうございます。先発は才木浩人投手で、優勝の瞬間にマウンドにいたのは岩崎優投手。最後はひやっとしましたが、結果的に見事な継投でした。

ご存知のように、現在の野球では継投が一般的です。本日は、最近ではなかなか見られなくなった「完投」についてお話しさせてください。

実に18年ぶりのセ・リーグ優勝ですが、優勝が決まった試合で先発の重役を任された才木投手は7回を投げて1失点と好投。3人の中継を経て、リリーフの岩崎投手が見事に試合を締めくくり、優勝を決めました。

このように、近年は投手の分業制が一般的ですが、昔は先発投手が完投するのは当たり前で、連日マウンドに立つこともありました。3年連続30勝や、シーズン42勝という記録は、あの頃だから達成できた数字で、現代のプロ野球ではほとんど不可能と言っていいでしょう。

分業制が進んだのは、もちろん投手の怪我を防ぐことが大きな目的でした。そして、相手を封じるために、継投が有効な策として理解されるようになったからです。

近年は投高打低の傾向が強くなっていますが、打撃技術が磨かれるにつれて、「いい投手なら打たれない」とは考えづらくなったのでしょう。打者としても、試合中で同じ投手と何度も対戦するより、毎回のように投手がころころと変わったほうが狙いが絞りづらいですよね。

メジャーではシーズン中は100球前後で降板することが多く、完投を見ることはほぼ不可能になりました。メジャーで完投が少ないのは、もうひとつ理由があります。各チームの目標は10月のポストシーズンに勝ち抜くため。その時に力を発揮できるように、各球団は戦力を大事にしているからです。

その一方で、ポストシーズンが始まると、中2日とかで登板することも。

日本でも2013年に、楽天が日本シリーズで日本一を決めた試合では、前日に160球を投げたばかりの田中将大投手が9回からマウンドへ上がりました。勝ちに向けてなりふり構わないのは、日米関係がありません

エースが連投を続ける甲子園もまさにその典型ですね。彼らはあの場に立つためにやってきたわけですから、メジャーでいうポストシーズンそのもの。そう考えると、無茶とも思えるエースの連投も、理解できるような気がします。

虎党のみなさま、おめでとうございます。相変わらず阪神の継投は盤石ですね。虎党のみなさま、おめでとうございます。相変わらず阪神の継投は盤石ですね。

先発投手の最高の名誉と言えば「沢村賞」。1947年から始まった賞の受賞条件のひとつに「10回以上の完投」が挙げられています。昨年受賞した山本由伸投手は完投が「4」でしたから、必ずしもクリアする必要はないようですが、先発完投が減った現在のトレンドを選考にもっと反映してもいいのでは、という声は根強いようです。

先発完投こそがエースの証と呼ばれた時代は過去のものとなりましたが、近年でも、稀ではありますが完投を見ることができます。

先日行われたU-18のワールドカップ決勝では、大阪桐蔭の前田悠伍投手が1失点完投のナイスピッチングで、世界一に輝きました。なぜ投手を交代しないかといえば、流れを断ち切ってしまうのが怖い、それに加えて、ノリにのっているその投手以上に、いい投手がベンチにいないともいえます。

完投する試合はいろんなパターンがありますが、投手戦の場合は、見ているほうがヒリヒリするような試合になります。

当たり前かもしれませんが、完投と完投勝利はイコールではありません。つい最近の阪神ー巨人戦で、巨人の山﨑伊織投手が8回完投をしましたが1点差で惜しくも負けています(9回裏はリードしている阪神の攻撃はないので8回)。

わずか1失点に抑え、いいピッチングを続けていた山﨑投手を投げさせたベンチの判断は間違ってないと思いますし、悪いのは援護できなかった打線です。6回3失点という、最低限の目標をクリアしても負けることがある。それが先発投手の難しさです。

私はかねがね思っているのは、投手の評価軸の中で、イニング数をもっと重視してほしいということ。メジャーのサイ・ヤング賞では、どれだけのイニングを投げて、どれだけの成績を残したかを高く評価しています。

投手を続投させて、イニングを引っ張るのは"諸刃の剣"です。采配というのは結果論ですが、先発投手を引っ張って打たれたらベンチの責任でしょう。ただ、「やらない後悔より、やった後悔」というように、ベンチというのは最悪を恐れて、先手を打ちたくなるんですよね。

それでも、先発投手を長く引っ張ったというのは信頼の証であり、ある意味で、とても大胆な采配であるわけです。

僅差で完投勝利を収めた試合では、投げた投手ももちろん立派ですが、それ以上に我慢を続けたベンチにも拍手を送りたいものです。投手が完投を狙えそうな試合では、そんなベンチワークを含めて注目すると面白いかもしれません。それでは。

★山本萩子(やまもと・しゅうこ)
1996年10月2日生まれ、神奈川県出身。フリーキャスター。野球好き一家に育ち、気がつけば野球フリークに。
2019年より『ワースポ×MLB』(NHK BS1)のキャスターを務める。愛猫の名前はバレンティン

★山本萩子の「6-4-3を待ちわびて」は、毎週土曜日朝更新!