昨今は漫画がブームですが、野球をテーマにした面白い漫画もたくさんあります。有名なところでは、『ドカベン』(秋田書店)、『タッチ』(小学館)、『MAJOR』(小学館)などがありますが、今回は私が影響を受けた野球漫画をご紹介したいと思います。

幼い頃に夢中になって読んだのは『キャプテン』(集英社)でした。おそらく父親が買ってきたコミックが家にあり、テレビアニメと併せてよく読んでいたことを思い出します。

物語の主人公である谷口タカオは、名門中学から公立中学に転校するのですが、野球部の練習に参加する際に前の学校のユニフォームを着ていたことで、他の部員から活躍を期待されます。しかし実は、谷口は試合にまったく出られなかった、万年補欠の選手でした。

そこから谷口は、みんなの期待に応えようと努力を重ねて、強豪校の選手に負けない実力を身につけます。そのキャプテンシーを見込まれて、チームのキャプテンに選ばれました。

この漫画の素晴らしいところのひとつは、キャプテンが卒業してもストーリーが終わらないことでしょう。キャプテンが代替わりすると、主人公は次のキャプテンに移ります。チームというものが、人によってガラリと変わることを教えてくれます。

実際のプロ野球選手の中にも『キャプテン』が好きな方は多くて、日本ハムの新庄剛志監督は、「頑張りたいときにこの漫画を手に取る」と聞いたことがあります。他にもイチロー選手、田中将大投手もこの漫画が好きだそうです。

その後、友達が少女漫画を読んでいる頃、私はある野球漫画に夢中になりました。野球というスポーツの"いろは"を教えてくれた、『おおきく振りかぶって』(講談社)です。

野球漫画のマスターピースである『タッチ』は青春模様を描いた漫画でしたが、この『おお振り』は"THE 野球漫画"で、1試合どころか、数イニングで1巻が終わってしまうことも。マウンド上の投手と打者の駆け引き、投手と打者の心境が克明に描写されて、実際にプレーしたことがない私は、この漫画のおかげで野球のことを深く知ることができました。

球速は遅いけど驚異的なコントロールを持つ主人公が、どうやって打者との勝負に勝つのか。漫画の中の一球を、幼き日の私は固唾を飲んで見守りました。投手が投げるすべての球に意味がある。私の「野球キャスターとしての礎となった漫画」と言っても過言ではありません。

大学生の頃に愛読していたのは『ストッパー毒島』(講談社)です。知人から、「あなたはきっと好きだろうから」と誕生日プレゼントでもらったのですが(その人のセンスが素敵)、これもまた素晴らしい漫画でした。

作者のハロルド作石さんは『ゴリラーマン』や『BECK』(ともに講談社)などでも知られる人気漫画家です。『ストッパー毒島』は、まずパ・リーグの弱小チームを舞台にしているのが最高。素行不良だった主人公の毒島大広がスカウトの後押しで入団し、ストッパーとして成長する過程で共感することも多かったですし、弱小チームが力をつけて躍進する様子も、読んでいてとても心地よかったです。

毒島の他にも、高校を中退してマイナーリーグに武者修行に行ったチームメイトなど、個性的すぎる登場人物たちにもそれぞれドラマがあります。青年誌で連載されていたこともあってか、選手たちの純粋さだけでなく、大人のしたたかさや汚さも描かれています。どうやら私は王道の漫画より、こういうクセのある野球漫画が好きなのだと教えてくれました。

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そして、漫画好きの夫から勧められて読み始めたのが『ドラフトキング』(集英社)です。「野球を好きが読んだらどういう感想を抱くか知りたい」と言われて読み始めたのですが、本当に面白かったので、みなさんも興味が湧いたら読んでみてください。

先ほど紹介した『ストッパー毒島』で、主人公・毒島がチームに入団する手筈を整えたのは球団スカウトでしたが、この漫画ではプロ野球のスカウトが主人公(郷原眼力)という今までにない設定なんです。

スカウトの仕事は、日本全国にいる原石を見つけること。そこまでは想像がつくのですが、誰もが目をつけてない逸材を見つけることがどれだけ大変か、が描かれています。各球団のスカウトは人脈や"足"を駆使して、明日のスターを探します。

例えば、高校卒業後にプロに入るには物足りないけど、家庭環境で進学が難しいという選手には社会人(ノンプロ)野球への道を用意し、2年後にドラフトで狙うなんてことは日常茶飯事。有望な中学生に、越境入学で進学する高校を見つけることもあります。強豪校の控え投手ながら、野球に取り組む姿勢や意識の高さ、内野手としての才能を見抜いて獲得を進言し、その選手が後に球界を代表するショートへと成長する、ということも。

強豪校の2番手投手を、ショートとして推薦する主人公の郷原(c)クロマツテツロウ/集英社 強豪校の2番手投手を、ショートとして推薦する主人公の郷原(c)クロマツテツロウ/集英社

この漫画が教えてくれたのは、「どれだけ選手との信頼関係を築けるかが、スカウトの価値を決める」ということでした。

作中で、選手が引退する時に、真っ先にスカウトに連絡を入れるシーンがあるのですが、実際にプロ野球選手だった方に聞くとそういうケースは多いようです。『ワースポ×MLB』(NHK)でご一緒している井口資仁さんにこの漫画の話をしたら、とても興味を持ってくださいました。自分の才能を最初に見出し、入団に導いてくれたスカウトには強い感謝の念があるのでしょう。

元プロ選手のスカウトマンが、引退の際に担当スカウトにかけた電話 (c)クロマツテツロウ/集英社 元プロ選手のスカウトマンが、引退の際に担当スカウトにかけた電話 (c)クロマツテツロウ/集英社

スカウトは、普段は私たちの目に触れない"裏方"ではありますが、選手との絆が本当に深いことを知ると、「今活躍しているあの選手のスカウトは誰だったんだろう」と思いを馳せてしまいます。

チームには、強打者や素晴らしい投手だけでなく、類稀なるリーダーシップを持った選手も必要。そういう意味では、スカウトが最初の"目"となって、チームづくりの基礎を支えているとも言えますね。

ということで、『ドラフトキング』のスカウティングレポートをまとめます。

・今までにない切り口で斬新。

・試合以外のコアな部分も知ることができるので、野球好きにはたまらない。

・プロ野球選手になれる選手はひと握りだが、スカウトがどういうところを見ているのかがわかる。

・選手を獲得する際は、選手ののびしろを含めて、どう育てたら伸びるかまで考えている。この評価軸は普段の仕事にも応用できる。

・選手を無理やりプロに引っ張ろうとしない。その選手にとって何が一番いいかを、スカウトたちが第一に考えている。

・とにかく、作者さんの野球愛を感じる。綿密に取材を重ねた上で描かれているディティールに引き込まれる。

評価:AAA

寸評:プロとして引退した後の人生をどうするのか、といった部分を含めいろいろと考えさせられた。絶対に読んでほしい。

と、こうやって今まで読んできた野球漫画を振り返ってみると、私という人間の趣味嗜好が如実に出ているセレクトでしたね。でも、それもまた面白いなあと思いました。みなさんの好きな野球漫画も教えてください。

★山本萩子(やまもと・しゅうこ)
1996年10月2日生まれ、神奈川県出身。フリーキャスター。野球好き一家に育ち、気がつけば野球フリークに。
2019年より『ワースポ×MLB』(NHK BS1)のキャスターを務める。愛猫の名前はバレンティン

★山本萩子の「6-4-3を待ちわびて」は、毎週土曜日朝更新!