熱闘を続ける桜戦士たち 熱闘を続ける桜戦士たち

4年に一度の祭典で躍動するラグビー日本代表。強豪ぞろいの予選プール突破、そして、前回大会を超えるベスト4進出へ向け、"桜戦士"たちを大応援だ!

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■前線で体を張る百戦錬磨のFW陣

ラグビーW杯に挑む〝桜戦士たち〟の注目度が急上昇中だ。初戦のチリに快勝。2戦目のイングランドには敗れたものの、前回準優勝国を相手に後半途中まで拮抗(きっこう)した戦いを演じ、3戦目以降に期待を抱かせる内容だった。

「チリ戦ではボーナスポイントも獲得できる6トライ。W杯で1勝も遠かった時代から取材してきた身として、『強くなったなあ』と感慨深いです」

こう答えてくれたのは6大会連続でW杯を現地取材するラグビーライターの斉藤健仁氏。日本代表を追い続けてきた識者だからこそ知る、今大会に挑む選手たちの意外な素顔を教えていただこう。

FW 稲垣啓太 FW 稲垣啓太

まずは前線で体を張るフォワード(FW)陣。前回大会で〝笑わない男〟として話題になったのが、プロップの稲垣啓太だ。

「リーグ戦では、パナソニックワイルドナイツ(現・埼玉パナソニックワイルドナイツ)入団時から9季連続でベスト15に。これだけ連続受賞しているのは稲垣だけ。チリ戦で代表50キャップに到達した点も含め、ケガをしない&ケガをしても顔に出さない、というのはすごいです」

稲垣は昨年、ミス日本グランプリ受賞経験のあるモデル・稲垣貴子さんと結婚したことでも話題に。父親はプロ野球で2000本安打達成の元近鉄・新井宏昌氏。結婚後もシャネルのアンバサダーとして世界規模で活躍している。

「W杯へと旅立つ羽田空港に奥さまのシャネルの広告がありました。稲垣は常々、『お互いが頑張ることが大事なこと』と言っているので、刺激を受けたんじゃないですかね。それこそ、将来は欧州クラブに移籍して夫婦で一緒に海外で活躍する可能性もあります」

同じく、前線を支える男といえば、チーム最年長37歳のフッカー、堀江翔太。4大会連続出場を誇る堀江だが、高校までは無名の存在だった。

「無名校だったからこそ、高校時代から考えてプレーしていたのが堀江です。その姿が、たまたま違う選手を追っていた帝京大学ラグビー部の監督の目に留まり、花開きました」

ラグビー日本代表では、まさに〝メンター的存在〟だ。

「コミュニケーション能力が高いので、どの選手にも的確なコメントができるんです。大会前までキックが不調だった松田力也のフォームも、堀江がチェックしていたようです。前回大会でも、アイルランド戦でゲームキャプテンを外されたリーチをカレーに誘って励ますなど、気配りもでき、男気もあります」

FW リーチ マイケル FW リーチ マイケル

そのリーチ マイケルも堀江同様に4大会連続出場。前回大会、前々回大会でキャプテンの重責を担った男は、今大会はいちプレーヤーとして伸び伸びとプレーしている。

「4年前も悩まされていた股関節の痛みを、北九州の名医に治してもらったんです。W杯を取り仕切るワールドラグビーは、リーチを『今大会が最後の挑戦』というニュアンスで紹介していましたが、次の4年後も狙えるかも、と思わせるプレーをしています。

代表キャップ数は現在82。もしも38歳で迎える4年後も健在なら、日本初の『代表キャップ100』の大台も見えてきます」

代わって今大会キャプテンを務めるのが、前回大会で相手からボールを奪い取る〝ジャッカル〟という技名を知らしめたフランカー、ナンバー8の姫野和樹だ。

「本来は自由気ままにプレーしたほうがいいタイプ。それだけにガチガチで大丈夫かな......と思っていたら、ケガをして初戦欠場に。でも、2戦目に復帰できましたし、〝代表主将〟という経験が姫野のさらなる成長につながるんじゃないか、と期待しています」

■器用で商売上手!? 兄貴気質なBK陣

続いて、バックス(BK)陣を見ていこう。初戦を欠場した姫野に代わってゲームキャプテンを務めたのが流 大(ながれ・ゆたか)。前回大会でも全試合でスクラムハーフの先発を務め、今大会もここまで2戦とも先発出場している。

「普段の練習でもジョグから先頭で走りますし、誰よりも声を出す。それが指導者の心をつかむんです。兄の大輔さんは野球の独立リーグ、四国アイランドリーグplusで活躍した選手で、その影響を強く受けているそうです」

開幕直前に31歳の誕生日を迎えた流は、今大会後の代表引退を明言している。

「誕生日には同じポジションの齋藤直人福田健太と食事に行き、主役のはずの流がおごったそうです。『あいつら、財布を出そうともしない』と愚痴っていましたが(笑)、そんな兄貴的頼もしさもあります」

その流と共に攻撃のタクトを振るのは、スタンドオフの松田力也。ここまでの2戦、ペナルティゴール成功率100%(10/10)を誇っている。

「伏見工業(現・京都工学院)高校時代はフルバックで、帝京大学入学当初はウイング。所属先のワイルドナイツでは1年目にセンターでベスト15。前回大会では、『松田が控えにいれば安心だ』とジェイミー・ジョセフHC(ヘッドコーチ)が語ったほど、なんでもできる頼もしい選手です。

もともとは教師志望で、帝京大学からプロになる選手はほとんどがスポーツ医療学科卒業ですが、松田は教育文化学科卒。ちゃんと教員資格も取っています」

流、松田らと同じ帝京大出身で、前回大会もセンターで活躍した中村亮土は、今大会初戦で記念すべきW杯初トライ。だが、実は大会前に一度評価を落としていたという。

「去年、首の手術を受けたことも影響したのか、浦安での代表合宿ではずっとサブ組でした。亮土本人も『最初は立場的にも厳しかった』と言っていましたが、そこでめげないんです。

練習から勤勉さを打ち出し、代表発表前最後のテストマッチとなったフィジー戦でチャンスをつかんで2トライに絡み、首脳陣の信頼を得て、そのままW杯でも先発の座をつかんでいます」

その勤勉ぶりはグラウンド外でも生かされている。

「プロテインの会社を立ち上げたかと思えば、オンラインスクールを開業するなど、ビジネスマンとしても活動しています。

ちなみに、代表にはビジネスマインドを持った選手がほかにもいて、同じセンターのディラン・ライリーは所属のワイルドナイツでもチームメイトのジャック・コーネルセンベン・ガンターと、旅行カバンのブランドを立ち上げています」

前回大会の開幕戦でハットトリックを演じ、大会を通じてチーム最多5トライを決めたのはウイングの松島幸太朗。今大会はトライこそまだないが、イングランド戦でもキレキレのステップを見せた。

「ボクシング世界王者の井上尚弥、バスケ代表主将の富樫勇樹らと同い年で意気投合。多くの刺激を受けているんじゃないでしょうか。W杯開催地のフランスで2季プレーした経験もあり、松島への声援も多いです。その応援を力に、もっと期待したい選手です」

■チームに勢い生む勤勉な初出場組

FW ワーナー・ディアンズ FW ワーナー・ディアンズ

ここまで経験豊富な顔ぶれが並んだが、W杯初出場組にも注目すべき選手は多い。初戦で途中出場ながらトライを決めたワーナー・ディアンズは、今回の代表最年少(21歳)で最長身(202㎝)の逸材だ。

「今どきの子らしく、インスタを通してハーフの彼女が最近できたそうです。トライ後のハートマークは彼女に向けたものだったのかも。その彼女は横浜スタジアムでアルバイトをしているので、ディアンズもよく目撃されています」

ラインアウトで武器となる2m超えの身長は、意外な経緯で培われたものだった。

「元ラグビー選手の父親がコーチをするため中学時代に来日したんですが、母親もネットボールという欧州で人気競技の元ニュージーランド代表。

両親がコーチとして海外遠征に行くことも多くて、不在時の食事ではコンビニの焼きそばパンを食べていたそう。見かねた高校の監督が家に呼んで鍋を振る舞ってくれるようになり、一気に体が大きくなったそうです」

一方、5月に終わったリーグ戦で新人賞を獲得し、勢いそのまま代表に定着したのが23歳のセンター、長田智希だ。

「バックス陣では唯一の社員選手。早稲田大学で主将だったとはいえ、強豪のワイルドナイツで通用するかは未知数で、まさか新人賞を獲(と)るとは。

でも、コーチが止めるまで練習を続ける努力でレギュラーの座をつかんだ真面目な選手。そういう、どんなときでもコツコツとやる選手をジェイミーHCは好みます」

当初は代表から漏れながら、大会直前に入れ替えでメンバー入りした下川甲嗣も、勤勉さが売りの社員選手だ。

「ジェイミーは高校のラグビー部の監督みたいな人なので、メンバー外でもチームのためにどれだけ頑張れるかを大事にします。

下川は毎回、対戦チーム役を一生懸命に務め、『チャンスは必ずある』と愚直に努力を続けました。そのあたりは先に紹介した中村亮土や、代表候補から繰り上がったベテランのレメキロマノ ラヴァも同じです。彼らがそろって1、2戦目でメンバー入りしたのは、実にジェイミーらしいです」

FW アマト・ファカタヴァ FW アマト・ファカタヴァ

同様に、開幕直前に代表入りしたのがチリ戦で2トライのアマト・ファカタヴァだ。

「所属チームではフランカーかナンバー8でしか出ていないのに、ロックをやらせたら大当たり。彼は夏の連戦の序盤でもう代表入り確実の活躍を見せていましたが、ケガで一度選外に。回復が想定より早く、W杯に間に合いました」

ファカタヴァが活躍したチリ戦終了後、試合会場で長渕 剛の『乾杯』が流れたことが話題となったが、ファカタヴァにとって特別な曲だという。

「曲を選んだのは鹿児島出身の中村亮土ですけど、ファカタヴァにとっては学生時代からのカラオケのおはこ。トンガにいる家族も大好きな曲で、ファカタヴァ家のファミリーソングなんだそう。彼が活躍した試合でその曲を事前に選んでいたのが運命的ですね」

■前回以上のベスト4へ! 日本の最終兵器は!?

さて、予選プールは残り2戦。決勝トーナメント進出のため負けられない試合が続くが、3戦目で戦うサモアには7月に敗れたばかり。最終戦のアルゼンチンもランキングでは格上の相手となる。日本代表に勝機はあるのか!?

斉藤氏は注目選手として、ケガで離脱したセミシ・マシレワに代わって緊急招集された35歳の山中亮平を挙げる。

そもそも、当初の代表33枠から山中が漏れた際に「サプライズ落選」と多くのメディアが報じたほどの選手だ。

「私はもともと、誰か追加招集はありえる、とにらんでいました。山中が当初、W杯メンバーから外れたのは、首脳陣にイングランド戦で使うイメージがなかったのかなと。

ただ、7月のサモア戦では先発でしたし、左足のロングキッカーとしてサモア戦前には声がかかるのでは、と思っていました。代表落選後に参加した世界選抜『バーバリアンズ』でのプレーも加味して、ジェイミーは追加招集を決めたはずです」

日程面も、サモアとアルゼンチンに比べ、日本が有利だ。

「日本はイングランド戦から次のサモア戦まで10日空きますが、サモアはわずか中5日。また、次のアルゼンチン戦も日本は2日長い中9日。疲労が蓄積するプール後半にこの差は大きいですね」

また、今大会の日本には、心身共に疲労度を軽減してくれる頼もしい助っ人がいる。

「サッカー日本代表の料理人として有名な西 芳照シェフが今回初めてラグビー日本代表にも帯同しています。みんな『おいしい!』と好評ですし、小麦に対して遅効性のアレルギーがある選手のため、グルテンフリーのパスタやカレーを用意してくれています。最年長の堀江も『とても助かっている』と言っていました」

まずは決勝トーナメント進出。その先に、前回大会を超えるベスト4以上を見据える。

「実は今大会、日本は準決勝まで勝ち上がらないとパリで試合ができません。ベスト4に入れば3位決定戦もありますから。ぜひとも、パリを目指してほしいですね」

各競技で日本勢の躍進が続く2023年。ラグビー界も続けるかどうか、注目したい。