今、バレーボール男子日本代表"龍神NIPPON"が勢いに乗っている! 6月に開催されたバレーボールネーションズリーグ(VNL)2023では銅メダルを獲得。これは男子日本代表にとってVNL初のメダルであり、世界大会でのメダル獲得も実に46年ぶりのことであった。
そんな注目の龍神NIPPON(世界ランキング5位)だが、いったい何がスゴいのか? 自身も元日本代表であり、現在は解説を務める福澤達哉氏に聞いてきた!
まず、龍神NIPPONの躍進のワケを福澤氏はこう語る。
「一番は、世界で戦える選手が増えてきたことが大きいですね。チームとして強くなっていく上で、やはり個の力が非常に重要になります。
世界最高峰のイタリアリーグで活躍する、キャプテンの石川祐希選手を中心に、海外でプレーする選手、その背中を追いかける髙橋藍(らん)選手といった若手選手の台頭など、全体の底上げがここ数年で進んできました」
世界で活躍するタレントが集まる龍神NIPPON。戦術面ではどのような特長を持つのだろうか?
「コンビネーションを生かしたつなぎと早い展開が特長です。昔から、日本バレーはフィジカル的なビハインドをどう埋めていくかが大きなテーマとしてありました。世界の強豪国だとチームの平均身長が2mを超えるのは普通ですが、日本は180㎝台後半。
そこで、相手選手と真っ向勝負になると、どうしてもブロックをかぶされることが多くなります。その対応として、相手を振り切る早い展開や、あえて相手のブロックに軽くボールを当てて、そのリバウンドから攻撃を組み立て直すといった"つなぎのバレー"に長い間、取り組んできました」
バレー界の戦術トレンドの変化も龍神NIPPONの躍進を後押ししているという。
「ここ数年でバレーボールという競技のスタイル自体、大きく変わっています。10年前はフィジカル頼りの"パワーバレー"の時代。そこから現在までパワーバレーが主流でしたが、近年、それにどう対抗するかというところで、つなぎの要素が重要視されるようになりました。
この変化には、バレーにおけるサーブの位置づけが変わったことも影響しています。というのも、年々サーブのスピードは上がっていて、最速で時速138キロのレベルに。そのため、サーブレシーブは乱れるのが当たり前という時代になったんですね。
サーブレシーブが乱れると速い攻撃がなくなるので、スパイカーが相手ブロックにマークされやすくなります。そうして対3枚ブロックの場面がつくられてしまうんですよね。パワーバレーの時代はそんな状況でも真っ向勝負で、フィジカルが優れているほうが勝つというのが常識でした。
一方で、現在はサーブレシーブが乱れるのは当然だからこそ、リスクを負った真っ向勝負をするのではなく、いかにそれを回避するか、リスクマネジメントのほうが重要視されるように。
このような中で、日本が長年こだわってきたつなぎの重要性が高まりました。そうして、戦術のトレンドと日本バレーの"つなぎ"という強みがうまく噛み合ったことが、龍神NIPPONを躍進させました」
■龍神NIPPONで注目すべき10選手
ここからは、龍神NIPPONの注目選手をポジションごとに紹介してもらった!
●アウトサイドヒッター(OH)
「攻守両方を担うチームの中心的なポジションで、サーブレシーブ、スパイク、ブロックからトスまですべてのプレーに関わります。
このポジションにはキャプテンの石川祐希選手がいます。VNLでは大会のベストアウトサイドヒッターに選ばれており、名実ともに彼が日本代表を牽引(けんいん)しています。
なんでもできる中でも、状況判断が特に優れていて、ネット際でリバウンドを取ることもできれば、スパイクを決めきることもできるし、相手のレシーブフォーメーションを見て、空いているところにフェイントを落とすこともできる世界トップレベルの選手です。
同じポジションの髙橋藍選手も要注目です。攻撃はもちろん、中1までリベロをやっていた経験があり、守備面での貢献も非常に大きいです。
リベロに近いレベルの守備力を持つので、彼が日本代表に入ってから、チームが大崩れしなくなりました。日本はサービスエースを取られる数が世界の中でも非常に少ないのですが、それには彼の守備力が大きく関わっています。
個人的には、このふたり以外にも、長身アウトサイドヒッターの甲斐優斗(まさと)選手にも注目しています。まだ20歳で石川選手や髙橋藍選手に比べると、レシーブなどこれからの部分もありますが、今の日本にはないブロックの高さを補うピースとして非常に期待されています」
●オポジット(OP)
「攻撃の中心選手として、点取り屋の役割を果たすのがオポジット。昔は"スーパーエース"とも呼ばれていて、チーム内ではスパイクの打数が一番多くなるようなポジションです。サーブレシーブには参加せず、常に攻撃参加をしていきます。
そんなオポジットで絶対的なエースとして存在感を示すのが西田有志(ゆうじ)選手です。2m超えの選手が多いオポジットの中では186㎝と小柄なのですが、相手ブロックをはじき飛ばす力強いスパイクと、フェイントやリバウンドといった繊細なプレーを両立させています。パワーを生かした、強烈なサーブも武器で、世界でも注目されているオポジットです。
各国の代表を見ると、オポジットには絶対的エースがいて、もうひとりはこれからの若手選手という構成も多いのですが、日本には西田選手と対をなす宮浦健人選手もいます。
一発で試合の流れを引き寄せる、マンガの主人公のような西田選手と、常に安定した仕事人タイプの宮浦選手の二枚看板は相手からしたら脅威でしょう。実際に、VNLでは宮浦選手が大活躍しました」
●リベロ(L)
「オポジットとは反対に、守備の要となるのがリベロ。レシーブ以外にも、一番後ろからコートを全体的に見て、チームへの指示出しを行なうので、"コート上の監督"とも呼ばれます。
日本は古くから、世界基準で見てもリベロのレベルが高く、現在の山本智大(ともひろ)選手も世界トップレベルです。VNLではスパイクレシーブの賞(ベストディガー賞)を獲得しています。
元来、日本のブロックは身長的に低いのですが、山本選手のおかげで、単純なブロック対スパイクではなく、ブロック&レシーブ対スパイクという、トータルディフェンスで戦えています。ブロックで相手スパイクのコースを限定し、山本選手がレシーブするという守備が非常にうまくできています」
●セッター(S)
「トスでボールをさばき、試合を組み立てていく司令塔的ポジション。世界の中でフィジカル的にビハインドのある日本バレーでは、いかに相手のブロッカーを攪乱(かくらん)するか、隙をついていくかが重要なので、良いセッターの存在は日本が世界で勝つための必須条件といえるでしょう。
現在、メインセッターを務めている関田誠大(まさひろ)選手は世界各国の監督から、彼ほど良いトスを上げるセッターはそういないと絶賛されるほどの正確性に加え、経験を積んだことで、ゲームの組み立て面でも成長を見せています。
例えば、過去の日本に比べて速攻を担うミドルブロッカーのスパイク打数が、圧倒的に増えているんですよね。スパイカーを効果的に使い分けることで、相手ブロッカー対日本攻撃陣を関田選手がうまくコントロールしている印象です。彼は身長の面でビハインドはあるものの、今の日本バレーには絶対に必要な存在となっています」
●ミドルブロッカー(MB)
「攻撃では、センターからの最も速い攻撃を担い、守備もセンターから全ポジションに対してブロックにいくのがミドルブロッカーの役割です。
日本にはタイプの異なる3人の選手がいます。山内晶大(あきひろ)選手は最も長身で、決定率の高さが魅力です。年々打数も増えていますし、それを打ちきるだけのスピード、高さも兼ね備えています。
小野寺太志(たいし)選手は状況判断が良く、器用なタイプ。アウトサイドヒッターもやっていたので、サーブで狙われてもレシーブできますし、攻撃時にブロックがついてきたらフェイントに切り替えたりもできます。
髙橋健太郎選手はブロックが一番いいです。世界レベルのミドルブロッカーと言っても過言ではありません。日本の課題としてブロックの低さが挙げられますが、彼のブロック力は大きな武器になります。三者三様のミドルブロッカーを、相手チームに応じてフィリップ・ブラン監督が使い分けられるのは龍神NIPPONの強みですね」
最後に、パリ五輪予選の見どころを聞いた。
「全7試合を戦う中で、はじめの4試合(フィンランド、エジプト、チュニジア、トルコ)は勝つのが大前提ですが、どれだけ良い内容で勝てるかが重要です。続く強豪国との3連戦(セルビア、スロベニア、アメリカ)はレベルが一気に上がるので、3連戦の初戦となるセルビア戦がヤマ場になってくるかと。
プレーの面では、点を取った選手だけでなく、その点数が入るまでに、誰がどういう仕事をしていたのかという、日本のバレーボールならではの"つなぎ"を意識して観戦すると今までとは違った楽しみ方ができると思います」
●福澤達哉(ふくざわ・たつや)
1986年7月1日生まれ(37歳)、京都府出身。元日本代表、パナソニックパンサーズなどで活躍したアウトサイドヒッター。2021年に現役引退。現在は解説も務める